2日
月曜日
おIRAが怒れば嵐をよぶぜ
えーい、爆弾テロだ! 朝8時起床。朝食、豆スープと温泉卵、リンゴ。新聞を二誌とっているのだが、読売と産経では記事にそんなに主張の差がなくて失敗だったなと思っていた。しかし、今朝の家永三郎氏の訃報記事は、久々に明確な対立があって興味深かった。読売が家永氏の教科書訴訟を検定制度に一石を投じたとして評価、
「九七年の第三次訴訟の最高裁判決は、『七三一部隊』関係の記述削除を求めた文部省の検定意見を違法と判断するなど、初めて一部勝訴が確定」
と裁判に勝ったように書き“検定意見に「見過ごし難い誤り」があった場合、「国による裁量権の逸脱」として違法性を認める司法判断が定着”と、効果があったとい う見方をとっているが、産経新聞の方は
「最終的にはいずれの訴訟も敗訴に終わり、検定制度を合憲とする司法判断が定着」 と、まったく逆の書き方で、“家永氏が脚光を浴びた時代はすでに終わっている” と切り捨てている。
私たちの世代は家永裁判をずっとリアルタイムで追っかけながら教科書を使っていた世代であったが、あまりその認識はない。そもそも、現場の中学・高校生にとっては、近代史などは受験にはほとんど出ないためにスッ飛ばされるものであり、あまり現実的な問題ではなかったのである。家永氏の著作を初めて読んだのは大学生になってからだったが、文章の行間からにじみでる、そのルサンチマンの凄まじさに圧倒されて、なるほど、これはカリスマ人間であるかもしれない、と感心した。家永氏の持つ強烈なパーソナリティがなければ、教科書裁判も、あそこまで事が大きくはならなかったろう。どっちも“何だかなあ”で済んでしまっていたのではないか。そんな気がする。保守主義者のよく言う“自虐史観”なる言葉はあまり好きではないが、こと家永氏に関してはまさに自虐癖があったのではないかと思える筆致が読みとれ、子孫は親の世代の戦争責任を自動的に相続し、永遠にその責めを負い続けねばならぬという主張にはなにか『累ケ淵』のような因果ものを読むのと同じ恐怖感に襲われ、これはたまらん、と感じてしまったものである。現在、この教科書裁判世代に小林よしのり氏をはじめとする逆コース的愛国主義熱が高まっているのは、若いころに家永氏の 戦争責任論にオビエた、その反作用という性格があるのではないか。
朝、世界文化社Dさんから原稿催促の電話。“そっちから先に手をつけたいのは山々ですが、K子の厳命で同人誌から先にやれ、と言われてますので”と言うと、“K子さんの命令ですか、では仕方ないですねえ”と、あっさり引き下がる。K子という名前を出さなければ“ふざけるな、それでもプロか!”とオドカサレるところであろ う。これもまた凄まじいパーソナリティである。
昼は昨日の飯に納豆と鯖の味噌煮。いかにも師走の昼飯的にさっさとすます。同人誌翻訳、サクサクとすすむ。すすむが、しかしバカマンガというのはただ読む分にはゲラゲラ笑ってすませていられるものだけど、いざ一語々々を翻訳するとなると、どうにもつらい作業である。やりながら『トンデモ本大賞授賞式』会場確保につき、い ろいろMLを読んだり、発言したり。
あと4ページあまりを残して時間となり、5時、家を出、タクシーで新宿歌舞伎町『ロフトプラスワン』。『オタク大賞授賞式』である。楽屋で眠田さん、切通理作さん、岡田さん、氷川竜介さん、米沢嘉博さん、児玉さとみさん、カンザキカナリさん などなどに挨拶。いろいろ情報交換。アブナイ話が出ると岡田さんが
「こういうことは唐沢さんが全部日記に書きます」
書かないって。ひとつだけ、一番“エエ話や”と思ったやつ。米沢さんのところには毎度々々、コミケ会場の売り込みがさまざまなところからあるのだが、あるとき、某国家から“空母買いませんか”と電話があった、という。空母買って、その中を全部コミケ会場にしたら、という提案であったそうな。格安ではあったがケア代が膨大なものになるので諦めたというが、いやあオタクの不沈空母! まさにコミケにふさ わしい話ですな。
しかし、去年のように『オトナ帝国』はあり『GMK』はあり樹ちゃんはあり、と豪華だった年に比べ、今年はどうにもタマがない。話題と言えばコスモス逮捕、島袋逮捕、とトラブル関係。ことに“赤いDVD”事件など、話せば面白いがどう手を入れてもヤバ話になる。最初米沢さん、児玉さんにそれぞれ個別の話を聞き、それから上記メンバーに鶴岡法斎を加えて、壇上での討論会。岡田さんがパーパー言うたびに切通さんが“あ、それはいいですね”と、マジなんだかなんなんだか反応し、言った岡田さんが“よくないって”と逆にツッコミを入れる。あまりに何回も繰り返されるんで、“それ、この企画の定番ギャグにしたら?”と提案したら鶴岡が大喜びしていた。一方の鶴岡もこういうときは“仕事として”暴走。メチャクチャに面白いが、使える部分を考えると、コストパフォーマンスは非常に悪い。カンザキ、児玉のコンビはメイドコスプレで、やおいネタでまた大暴走、私と岡田さん、ドド絶句。
で、最初はやたらに時間がオシて、こりゃヤバいかな、と思ったのだが、後半は逆にサクサクサクサク進んで、無事予定の10時半にはアガリとなった。で、アガッてみれば、さすがこのメンバーである。タマがないどころか、大賞、各賞、審査員個人賞と、ずらりと納得させられるだけのものが出そろい、眠田さんが“見事”、切通さんが“なんと綺麗に”と感心した出来となった。大賞、話題賞(しかもこれに鶴岡が つけた名称が……)は番組放映後にサイトでまた発表されるだろう。
開田さん夫妻、福原くん、世界文化社Dさんなど、いつも来てくれるメンバーと挨拶。堂本烈さんなども久しぶりに。石原伸司さんが、例の身長123センチの風俗嬢と共に来場。なるほど、これは小さい。マスコミに紹介してくれというので、OTCメンバーなどに顔合わせをさせる。売り込みに熱心なのはいいが、あまりあせって安売りしないように、とクギをさしておく。扶桑社の本のために写真撮影。
そのあと、青葉で打ち上げ。つどうもの、岡田、氷川、私、カンザキ、児玉、開田夫妻、柳瀬、OTCのDさんNさん、扶桑社Oくん、後からK子。業界ばなし多々あり、笑う笑う。海洋堂の景気のいい話に、岡田さんは“オレを入社させてくれ”と言いだしているそうだ。そう言えば柳瀬くんの後釜はどうすんの、と岡田さんに聞いたが、奥さんにまかせきりだとのこと。いつもはトークの後はテンションあがってあまりものを食わないのだが、今日は料理が何か殊にうまかった。カエルの炒め物、アヒルの揚げ物、牛肉の湯葉巻など、どれも結構、最後に上海蟹をあやさんと二人でとって食う。香酢がついてきたが、あえてつけずに、蒸しあがった蟹肉の甘味を直接味わう。紹興酒がどんどん進んで、いささか酔っぱらってしまった。帰宅2時。