14日
土曜日
風俗王子
うなれローションさかまけマット、行こう乗り出せソープの海へ。朝、8時起床。寒いリビング・ダイニングに暖房をつけ、部屋が暖かくなるまでは湯沸かしの火で手をあぶる。古いCMソング集のCDを聞きながら。ダイハツミゼットのCMソングの“小人のミゼット可愛いな”という歌詞(歌・楠トシエ)には笑った。朝食、いつものオニオン・スープ。果物はブドウ。最近、朝のおクスリが増えて、小青竜湯・麻黄附子細辛湯に加え、ノボセ・二日酔い用に黄連解毒湯、年末進行中は救心も。
ちと捜し物があって引出しをガサゴソやっていたら、二十年程前の探書手帳が出てきた。これが凝ったもので、何と手作り。黄色い厚手の紙に罫線を自分で引いたものを糸で綴じ、能率手帳の表紙をつけて、そこに探している本の題名や出版社などを書き込み、見つかると線で消して、○で囲んで定価、とか割引、安売り、古書値のついたものはその値段、初版、美本、オビ、カバ、函付きか否かなどをコトコマカに書き込んだ。古書蒐集は中学生の頃からの趣味だが、それまではただ単に読みたいものを好き勝手に集めていたのを、この頃ちょっと小金がフトコロに入ったことがあり、その金を使って、一応コレクターとしての基本図書を集めてやろう、と決心したのだった。筑摩の世界文学大系や岩波文庫の絶版ものの他、春秋社の世界大思想全集、小山書店の世界大衆小説全集、講談社の『明治大正落語集成』など、さらに新潮社のアプトン・シンクレア『人われを大工と呼ぶ』や大光社『怪獣17P』などなど、550冊ほどの探書目標本が書き込まれていて、当時の私の意気込みがうかがえる。四〜五年は使用したろうか、結局、全体の九割には線が引かれているところを見ると、かなり頑張ったんだな、ということはわかるが、しかし、そのあたりから私の古書趣味は急速に自己流に走っていき、せっかく買ったもので、確かに書庫には並んでいるが、いまだ目を通してもいないものがだいぶある(特に荒俣宏氏にかぶれて集めた幻想文学系)。ここで、まだ線の引かれていないものを試みに20冊ほどネット古書店で検索かけてみるが、見つかったのは2点のみ。さすが、見つかりにくいものばかりなんだなあ、と変に感心。
ちと、これで神経が刺激されて、一時、神田へ出る。教育会館古書市をのぞいてみたが、軟文学系統が多く出されており、あれやこれやと物色していたら、二万いくらになってしまった。そこから白山通りに行き、ここでもちょこちょこ買い物。腹が空いたのでいもやでちょっと並んで天丼。一休みがてらゲーセンに入ったら、窪塚洋介そっくりの、ちょっと視点の定まらない若いのがいて、ゲーム機に向かって泣き出しそうな声で“なんでそうなるんだよぉぉ!”と怒鳴っていた。怖くなったので早々に 出る。
大雲堂などいつものコースを巡回し、古書カスミ書房へ。ここへくると顔を合わせる常連客さんがいて、主人と三人でコミケのこと、暮と新年のデパート古書展のことなど、いろいろ雑談、情報交換。この常連さんも、この店に来ると私に出会う率が高い、と感じているらしく、“たぶん、と思って新刊を買ってきました”と、私がまだ現物を見ていない早川書房の『キッチュワールド事典』をカバンから取り出して、サイン求められる。買い物7000円。開田さんたちはコミケで壁際だが、両サイドはやおいらしい、と言ったら、“壁際はノンジャンルですから、どういう並びになってもソレは運命です”とのこと。話していたら、サンタの格好をした女の子が二人、突如入ってきた。何とかというアイドルグループらしく、この店(アイドル関係本も置いてある)に新曲のチラシを置かせていただけませんか、というお願い。カスミ書房さん、彼女らが帰ったあと、“ウチに来る客はマニアばかりだから、実はチラシ置いてもあまり効果ないんですよね。もう、当然チェック済み、ってお客ばかりで”と。
帰宅、ネットで連絡いくつか。くたびれたが、あまり休む間もなくまた外出、中野ゼロ小ホールにてアニドウ上映会。隣のホールではピアノコンサートをやっているらしく、人が集まっているのを見て、間違えて入ってくるお客さんもいる。受付の女性が、入ってくるなり見分けて、“ピアノコンサートはあちらです”と声をかけるのが面白い。ちゃんとわかってしまう。アニドウの人に“と学会、ここ(中野ゼロ)を取り損ねて残念でしたね”などと言われる。“なんで知ってんですか”“いや、そりゃ日記で”。ああそうか。たぶん、業界で一番、何を食っているかとかを知られている人間であろうな、私は。
眠田さんはじめ、トゥーンMLの人たち、到着。今までブロードウェイを探索していたという。私入れて総勢6人。受付で“大勢さまお連れいただきまして”と礼を言われた。加藤礼次朗夫妻もやってきた。奥さんへのオタク教育の一環であるという。なみき、片山などに挨拶。礼ちゃんと、中野監督のネットはまり話。ワキで聞いていた眠田さんが“面白すぎて、聞いていて苦しくなった”と。
上映作品については、なみきたかしから“今後の開催の影響があるので、詳細を公表するな”と言われているので(と、言ったって自分とこのサイトで公表しているんだが)書かない。だから以下は私の妄想であるが、桑田良太郎・熊川正雄の『動物となり組』を観られただけで価値があった。もう、のけぞるようにして笑っていたら、解説に上がったなみきが“カラサワシュンイチさんに一番受けていたようですが、私もそうで、やはり年をとってくるとこういう作品が何故か好きになってくるようで”と言った。この作品は凡を突き抜けて怪作になっているが、しかしまさに、ポール・テリーとかハーマン・アイジングとかの凡作・駄作が、四十過ぎると何故か急にいとおしくなってくるのである。映画も漫画も小説も、出来のいいものだけを愛しているうちはまだ本当の愛好者じゃないのかも知れない。あと、妄想だがアレクセイエフの『禿山の一夜』を観たあと(出来の悪いものも愛するが出来のいいものだってやはりいいのである)、トゥーンMLの人たち二人から“あれはどうやって撮っているんでしょうか”と訊かれた。おお、自分もピンスクリーンを若い人に解説する歳になったのだなあ、とちと感慨あり。会場にいたFKJさんと、そのことをしばらく話す。もちろん、これも含めて妄想である。
終わって(なみきに“今度一緒に解説どう? 揃って三尺高い木の上に首をさらそうよー”と誘われた)、FKJさんをトゥーンMLに推薦。MLの人たちと駅で別れて、K子を拾い、FKJさんと三人、『とらじ』で焼肉。来年の鉄腕アトムのDVDボックスの話など。レバ刺しはおかわりした。生中ジョッキ一杯、真露キュウリ入れて三杯くらい。帰宅して、文藝春秋の対談(岡田さんとの)がFAXで来ていたのでざっと目を通しつつ寝る。