裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

火曜日

武士道ジャンボーグ物語

 われらはお家のロボットなのか! 朝6時半、起床。まだダメだな。朝食前に台所で圓生の『阿武松』聞いて少し時間つぶし。大食いで死んだ芸人、三遊亭大漁のエピソードが話の中で語られていた。元祖フードバトラーか。朝食、私はイチヂクとヨーグルト、K子には野菜のオーブン焼き。ルー・テーズ死去の報が新聞にあり。この人海外では強いことは強いが金にガメツイ、と嫌われていたようだ。評価する人ももちろん多いが、それは徹底した格闘芸のプロ、としての評価であるらしい。日本で神格化されているのは何と言ってもあの力道山をも恐れさせた伝説の強豪、というイメージがあるからだろう。聞いた話だが、自伝を出版したとき、内容があまりに赤裸々な裏話だったため、日本の版元が勝手に書き換えて武道の達人、みたいなストイックなストーリィにしてしまったという。ご本人はまったくそんなことを知らずに、あこがれの英雄と出会える、と目をキラキラさせて来日サイン会に並んだ少年ファンと握手していたというから、罪な話(誰に対して?)だ。

 もうひとつ訃報、これは新聞(読売30日付朝刊)には載っておらずネットで知ったのだがSF作家G・A・エフィンジャー死去、55歳。悲運のSF作家と言われていたが、この早逝で悲運にもトドメがさされたという感じである。代表作・『重力が衰えるとき』(ハヤカワ文庫)は内容も凄かったが、訳者の解説に引用されている、アーバー・ハウス版のハーラン・エリスンの推薦文がもの凄く、感動のあまり一度読んだきりで全文を暗記してしまったほどである。後半を引用してみる。
「よろしい、今回はこう言おう。たのむからおれの忠告を聞いて、『重力が衰えるとき』を買え。この小説はスケートをはいた蜘蛛のようにクレージーな、とてつもない傑作だ。これほど言ってもわからないなら、こっちにも考えがある。おまえの子供らと飼い犬は、われわれが預かった。いますぐこの本を買って読み、舌を巻いて感嘆せよ。さもなくば・・・・・・」
 ・・・・・・およそ、本をお他人様に勧めようというなら、ここまで言わないとダメ、という見本のような文章である。私の文章宝鑑の中の一つ。なお、なぜエフィンジャーが悲運の作家なのかは、『重力が衰えるとき』の解説(浅倉久志)を読んでいただきたいが、ざっとしたことはここで。
http://home.catv.ne.jp/dd/fmizo/gravity.html

 12時、どどいつ文庫伊藤氏。雑談しばし。こういう本を売り始めて10年になるが、まあこんなキチガイみたいなものばかり扱って10年も商売しているのは私くらいでしょうねえ、と言う。バロックにこれから商品を納めに行く、というので見せてもらったら、チャールズ・マンソンのスノーボール(『市民ケーン』に出てくる、アレ)。しかも、ただ写真が張り付けてあるだけというむちゃくちゃに安っぽいもの。悪趣味マニアも、こんなのまで高い金出して買わねばならぬかと思うと難儀である。ところでバロックは何と青森にまで支店を出したとか。さすがに悪趣味系はまったく売れず、エロ中心だというが。

 徳間書店『アニメージュ魂』見本刷り届く。いや、執筆者陣それぞれの無方向性が凄い。顔ぶれもバラバラなら指向も徹底的にバラバラ。氷川竜介さん以外“全員浮いてる”という感じである。やはりノスタルジーは人を凶暴化させるんだなあ、という思いを強くする。これが雑誌の個性となれば面白い。東浩紀氏が雑誌コンセプトをまるで理解していないような頭の悪い原稿を書いているのも、これはこれですでにこの人らしいと言えるかも知れず、面白く読む。

 1時半、K子と、こないだのオフ以来仕事でこちらに残留しているぺぇさんと合流して、昼飯。ひさしぶりに『福しま』にて。オフばなしなどをしながら、K子おすすめの穴子丼。この穴子丼なるもの、昔は築地にでもいかないと食べられなかったものだったが、ここまでポピュラー化したのは何か穴子普及プロジェクトとかを推進したところがあったのかと思う。味付けが蕎麦屋の天丼よりあっさりしていて美味。帰宅して、ネットなど少し。山本会長の掲示板、これまで奇跡的に荒らしや論争にさらされていなかったが、『こんなにヘンだぞ〜』発売以来、やっと(?)荒れてきた。オカルトファンより特撮オタクの方が凶暴ってことか。

 今日の仕事は海拓舎原稿オンリーと定め、書きすすむ。書きあぐねると、なをきの『カスミ伝△2』を一編づつ読む。8時までに6本。書いて一休みしようとしたらH社長から電話で、今日じゅうにもっと欲しいというので、よし、と落としかけたエンジンをさらにふかして、11時までにさらに6本、書き上げて送る。今日はK子が、ポーランド語の先生の送別会だかなんだかで外食しているのをいいことに、飯も食わずに原稿を書く。帰ってきたK子が私がメシを食っていないことをなじる。なじらなくてもいい。

 11時半、さすがに体力の限界。大根とアサリの煮物、鯛の刺身で酒。『ジャッカルの日』LD、後半のみ見る。ちょっと前、この作品を“スケールを大きくして”リメイクした『ジャッカル』という映画があったが、神をも恐れぬ行為といいつべし。能登の『竹葉』、五ン合飲んだ。K子も食べたりなかったらしく、一緒にアサリの残り汁でうどんを作って食べる。2時、就寝。

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