裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

火曜日

海老一は知っててもそれだけじゃ困ります

 そうそう、染太郎がこないだ亡くなったことも覚えとかないとな。朝5時半に目が覚める。昨日の午後から腹具合が思わしくなかったが、今暁から下痢が加わり、一時間に三回は手洗いに立つ。どうせまた寝てもすぐ起きるし、とパソコンの前に座るが皮肉に座るとおさまる。オキノニッキの“これを作れ掲示板”などにかき込みをして7時半くらいまで。朝食、K子には野菜のオーブン焼き、私はオートミール。腹がまだしぶってるので、正露丸をのむ。『スーパーモーニング』、こないだの長髪の正体不明男は華道家の假屋崎省吾氏だとわかる。ホームページの写真に比べてだいぶ太ったのではないかと思うが。

 午前中は調べものなどをして過ごす。と、いうか、日記書いて風呂入って、宅配やクリーニングの相手をして・・・・・・とかいう雑用をすますと、もう午前中の4時間などあっという間にたってしまう。こないだはまず見つからないだろうと思っていた資料がアッという間に見つかったが、今日はツイこないだ買ったばかりの資料がいくら探しても見つからず、イラつく。そう言えば朝食でブルーベリーにライムの果汁に蜂蜜で甘みをつけたものをかけたが、昨日は冷蔵庫の中を二度もひっくり返して見つからなかった蜂蜜が、今朝は扉をあけるとすぐ目の前に鎮座ましましていた。いたずら好きの小人がいるとしか思えぬ(今、気づいたが、ATOK12はコビトという文字を小人に変換しない。差別用語だからか? いろいろなことを思う。コビト・エルゴ・スム)。

 1時に新宿へ出て、銀行で引き落としを確認。それから西口中地下の万世でザルパイコーを食べる。ロシア人のような、凄まじく怖い顔をしたおばさんがラーメンを食べていた。その前に山下書店の出店の棚を眺める。ここは通りに面した棚には政治・経済関係の本からかなり厚手のカルチャー本(原書房の4800円もする『本朝男色考』なんてものまで置いてある)が並んでいるが、その裏はヘアヌード写真集やスカトロ雑誌やフランス書院文庫などがズラリ、というかなり露骨な配置がしてある。しかしレジ係が女の子のときが多いので、私はまだここでエロ本を買う度胸がない。それで、というわけではないが、永井一郎『バカモン! 波平ニッポンを叱る』(新潮社)を買って、ラーメンを待つ間、また帰りの車中で読む。

 評判のエッセイである。こないだも読売新聞で取り上げられていた。『子どもと教育』誌に連載されたコラムが基本の教育論集なので、波平というよりは『ど根性ガエル』の町田先生の話を聞いているような感じである。全体的に正論だと思うし、『今こそ校門を開こう』と学校の開放を訴えた三年後に、母校の池田小であの事件が起こり、大きな責任を感じた末に、しかし、やはり校門は開いておくべきだ、そうでなければ“あの男に(教育は)負けたことになるだろう”と敢えて言い、“理想は見失わないでいたいと思います。この事件のことを考え続けます”と読者に向かって宣言したくだりには感動して、そこの部分を二回も読み返した。・・・・・・しかし、やはり現実の狂気の前には、理想論は力がない、と感じる(そもそも感動とは現実的でないものに対してするものである)。今の教育に力がなくなっているのは、教育を受けた末にどのような未来が開けているのか、具体的なビジョンを誰も子供たちに示せなくなっているからだろう。ならば、教育以外にビジョンを持たせる方法がないのか、と方向性そのものを変えるべきなのだ。教育の必要性を頭から疑わないで教育論を唱えるのは右翼が皇室論を唱えるのと大して違わない。大前提を疑わない議論は意味がない。それはともかく、この本で一番驚いたのは、“あの”長谷川町子美術館が、使用図版にマルCを与えたことである。引用図版にまず、許可を与えないあのマー姉ちゃんをよく口説いたものだ。やはり長年のおつきあいの効用だろうか。

 帰宅、また寝てしまう。自分で自分が情けない。もっとも、起きていても食事の後は大した仕事ができないこともわかっている。夏目漱石のように“ただ寝ているのではない、えらいことを考えようと思って寝ているのである”と威張って寝るべきなのかもしれない。

 起きて雑用(これが途方もなくあるものだ)を片づけ、やっと原稿にかかる。催促が来た『フィギュア王』の原稿を8時までかかって10枚と数行、書き上げる。メールしようと思ったところでもう一度確認したら、字数が合わない。あわててカットしたところを復活させてきちんと合わせ、送る。冷や汗をかいた。それから、海拓舎のやつを一本。

 9時45分(今日はK子がフィンランド語なので遅い)、タクシーで新田裏。ローソンで買い物して寿司処すがわら。入ったらK子と一緒にJCMのM田くんと、セブンシーズのM川くんの二人がいた。こないだ代官山のイタ飯屋で、ここの話が出て、二人が行きたいと言っていたので声をかけたのだそうだ。雑談しながらだと酒がすすみ、日本酒を飲みすぎた。M川くん、オタアミでの私のしゃべりを、声といい間といい、Charにそっくりだ、という。そんなこと言われたのは初めてだというか、私はCharのしゃべりというのを聞いたことがないからわからない。M田くんは“ボクは声が山達にソックリなんです”と聞かれもしないのに言う。そう言えば山下達郎の歌でないしゃべりというのも聞いたことがないから、論評できず。12時まで楽しくしゃべって、ひらめ、穴子、中トロ、アジなど。支払いは割り勘。稲荷寿司もらっ て帰る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa