裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

8日

月曜日

アンドリューより生むが安し

 そうね、チャールズの方が安産だったわ(エリザベス女王・談)。朝7時半起床。朝食、トーストとマカロニサラダ。朝刊に菊池章子死去の報。78歳。小学生の頃、『懐かしのメロディー』でこの人が『星の流れに』を歌ったのを聞いて、母が“やっぱり本人の歌は違うわねえ。この歌は演奏からほんの少しはずして歌うところが、いかにもやさぐれた女の歌って感じがしていいのよ。若い歌手が歌うときちんと歌おうとするんで、ムードが台無し”と言った。それを聞いて感心した私は、たまたま家にあった『戦後歌謡ヒット集』というレコードで彼女の歌を繰り返し聞いて、そのやさぐれた女らしい歌い方をマスターした。あの当時の小学生で『星の流れに』を、ちゃんと“やさぐれた女の感じで”歌うことのできた小学生はたぶん日本で私一人だったろう。もちろん、その出来を人に聞かせて感心させるチャンスはなかったが。今でも私にはカラオケで、この歌を若い女性が“きちんと”歌うと、“ああダメダメ、この歌はね”と注意したくなってしまう悪癖があるのである。

 午前中に一昨日の“不愉快になった”情報もとの編集者さんからお詫びメール。驚いたことに彼女はもともと担当ですらなく、進行係で、担当はその上司なのだとか。どうも編集系統が複雑な会社らしい。こちらはとまどうばかり。不愉快を感じたのは気圧のせいだと思うので、気にしないでください、と返信。海拓舎の原稿二本。

 昼飯は昨日使った銀ダラがまだひと切れ残っているので、これを焼いて、さらにクレソンと炒めて、ご飯の上に乗っけてタラ丼。家でメシを食うと、その日夜まで、どこにも外出しないでしまう場合がある。外食は栄養面でも味の面でも不満が多いが、しかし仕事からいったん頭を切り換えて外に出られる、という効果がある。やはりこの仕事していたら、日に一度は書店をのぞくべきだと思うし。

 メシを食い、プリントアウトした資料を手に、横になったらまたグーと寝る。春は眠たいものだというが、こんなによく寝られるものかしらん。しかも、目覚めると手などがイヤな感じに痺れている。血行が悪いのか、心臓が正常に作動していないのではないか、などと思い、不安になる。まあ、春先にはいつも出る症状である。肉体が冬季仕様から夏季仕様にコロモがえする際の反応なのだろう。

 原稿にまたかかっているとロフトの斎藤さんから電話、正岡憲三の『くもとちゅうりっぷ』について、唐沢さんに訊きたいという人がいらっしゃるんですけど、電話番号教えていいですか、という件。品田さんという方です、というので、ハイハイと答えていたらご本人から電話あり。なんと『GMK』の造形をおやりになった品田冬樹さんだった。この日記であのキングギドラの造形のことなどよく言ってないので、やや緊張するが、非常に丁重な電話で、恐縮。内容はまだ控えるが、私は原作者の横山美智子について少し教示し、またアニドウのなみきたかしに連絡をとってごらんになれば、と電話番号を教える。品田さんの方がすでにいろいろ調べが行き届いているのだが、知っていることを話したら“さすがよくご存知ですねえ”と感心されて、また恐縮、そのあまり連絡先を控える際に“えっと、お名前の字は”などと失礼なことを訊いてしまう。パンフ見れば書いてある。

 その電話を終えたらもう7時45分、急いでタクシーで下北沢へ。虎の子でK子と食事。ここらへんに土地を持っていて、アパート経営をしたいらしい老夫婦が不動産屋と打ち合わせしていた。ここの店には珍しい客。“入居者を選ばないと、ほれ、今ニュースでやってるあの事件みたいな人が入ると”と言っているのは、例の6人の子供の白骨化死体の出てきたアパートの話だろう。58歳だかの女性が全部自分の産んだ子だと自供したというが、K子、“やっぱりおそ松チョロ松・・・・・・って名前なのかしら”と。

 新メニューが入ったので、K子がニガウリ炒めとか、春野菜イタリア風とか、いろいろ試す。私はどちらかというと、毎度決まったものを食べる派で、K子は常に新しいものをココロミる派である。新メニューのうち、新ジャガと大豆のビシソワーズ風というの、ビシソワーズ風というからてっきり冷製スープかと思ったら、タマネギとジャガイモの繊切りにちょっと熱を加えてしんなりさせたものに、挽いて味をつけ、どろりとさせた大豆のソースをかけたもの。珍しい味でおいしかった。酒は黒龍、あとおすすめの何とかいうの。

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