裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

11日

木曜日

金曜日のデュマたち

 最近は不景気で飲みにもいけないのでな、金曜の夜はもっぱら家で読書ですじゃ。今『三銃士』と『椿姫』を読んどるですじゃ。朝7時半起床。朝食は燻製卵とマカロニサラダをロールパンにはさんだもの。それとリンゴ。和泉元彌が遅刻・ドタキャンの常習で全国から大ブーイングという報道、それ自体はふーん、てな感じだが、コメンテーターのおすぎが元彌が大嫌いらしく、あんな顔したヤツ、と口をひン曲げて言い、“このコってコータローに似てない? 小泉孝太郎に”と、変な方に話を発展させて周囲を困惑させていた。孝太郎も嫌いか。

 朝は好天気だが体調極めて悪し。晩方には雨がくるだろう。どこが苦しいとか痛いとかはないのだが、テンションがまるであがらない。人(特に編集部)にはただのナマケに映るだろうが、れっきとした症状なのである。体調の悪さは思考にもはっきり現れる。こういう日に無理に原稿書いてもロクなものにならない。思想というものはその人物がいったいいかなる体調のときに考えたものか、を付記しておかないと、とんだ勘違いをされることがありはしないか。晩年の司馬遼太郎が体調の悪さから不機嫌をつのらせ、現代日本を呪詛するような言ばかり吐いていたのは記憶に新しい。これを司馬氏が日本国家に失望していた証拠、と書いていた人がいたが、その実、司馬氏が失望していたのは自分の肉体に、ではなかったのか。

 午前中、催促電話かなりあったが結局何ひとつできず、郵便で福祉事務所に金を振り込む手続きなどして過ごす。私は一応、左足の病気による損傷で障害者手帳を持っているが、障害者に支給される助成金は、ある程度の高額所得者なので貰う権利がない。ところがそれを間違えて振り込んでしまったので返してくれと言ってきたのである。言われて初めてその振り込みを確認したが、振り込まれたときはそんな大した額でもないと思うが、返す段になると、ちょっとした額のように思えてくる。鶴岡から電話、こういうときは長くなる。まったく意味のないギャグをかましてゲラゲラ狂騒的に笑うが、また少しは師匠がましくサジェスチョンなどもする。やることはやっているんである。外出。新宿まで出て、銀行で通帳の更新などして、C&Cで立ち食いのカレーを食べる。ここのカレーは大甘であるが、やはりさすがに香辛料が効いており、汗が吹き出る。マイシティに行って、CDを何枚か買う。肉体が元気の出るようなものを無意識に選ぶか、ウルフルズなどを聞いてみたくなり、購入。買ってから自分でへー、と驚く。

 帰宅、原稿のネタ本を読み出すがなかなか進まず。またビデオの整理などに逃避。フェチビデオで、興奮すると男の汗が飲みたくなる女、というのがあり、男優の汗をおいしげにピチャピチャチュウチュウ吸っている。顔も何か、妖怪垢舐めじみている感じがする。最後にもちろんザーメンも飲むのだが、やはりこういうのはゲンキな時に見ないといけませんな、気分が悪くなる。フェチビデオに引いたのは生まれて初めてである。

 こんなことではいかん、と中断している二見書房の小説の方の書きかけ原稿を読みかえす。なんとかモノになりそうだが、どうも似たようなアイデアのものが前にあるような気がして、気にいらない。構成を変えてこれを後半に持っていき、前半を書き加えようかと思う。某社からも、連載は今雑誌のスペースに余裕がないが(隔月くらいで書かせてもらえないかと打診していた)、書き下ろしでやらないか、とメールで今朝、言ってきたばかり。ふむ、と考える。

 7時半、家を出て参宮橋。開田夫妻とクリクリで夕食の約束。ところが店に入ったらケンさんから“エッ、8時じゃなかった?”と言われる。K子も来たが、どうもカン違いしていたらしい。30分、仕方なく店の奥で待つ。今日はEさん、体調が思わしくなくて休んでいるので、予約の客以外は断っているらしい。幸い開田さんたちも早めに着いたので、すぐはじめられる。あやさんも案の定、気圧の変化でマイっている。ワインで乾杯、ルンピア、サラダなど前菜を頼むが、特別メニューで白貝のマリネが出る。白貝はひらったくて名前の通り白い貝殻。適度な磯の香りがあり、しかもマリネと言っても開けたばかりの貝にさっとドレッシングをかけただけだから、まだ足が動いている。春の味。あと、仔羊のローストもカバブーも濃厚でうまく、ローストした野菜のうまみまた抜群、パスタも結構、と、何か今日はいつに増してうまい。話もはずんで、人間関係の裏話をいろいろ聞き、こっちもいろいろ話す。ああ、何か色っぽい話が多いのはやはり春だからか? 知り合いの女性が今度結婚する相手が、以前私がワルクチ言ったヤツだとのこと。別に困らない。それはそれ、バカはバカ。

 あやさんは今日、自作のエロゲーの録音に立ち会ったが、声優さんで私のファンの女性がいたとか(5月のサイン会に来ると言っているそうである)。“声優さんには私のファンが何故か多いようだ”と言ったら開田さんが、“それは今の声優がオタク出身ばかりだから”と分析した。あやさんは声優さんの技術のスゴい人とそうでない人の差の大きさに驚いたと言っていたが、それはもはやどこの業界にも言えることだろう。不思議なもので、金があまり入らない時代の業界の方にプロの仕事をする人が多出する。プロ中のプロ、永井一郎さんの『バカモン!』で一番笑った(と、いうのは永井氏に失礼だが)のは、『ローマの休日』のヨーロッパでの上映に関して、オードリー・ヘプバーンに支払われるロイヤリティー(出演料ではなく、あくまで上映権利料、それも欧州の分のみ)の額をひょんなことから知って、それを自分が稼ぐにはどれだけ働かなくてはならぬかと計算してみたら、365日、一日も休まず仕事をして2000年かかる、という答が出たという件りだった。これでは怒る気にもならない。

 ワインを4本(一人一本!)開けて四方山話をするうち、12時になってしまう。食った、話した。タクシーで帰宅、体の不調は相変わらずだが精神はハイになり、K子とダジャレの応酬でゲラゲラ大笑い。興奮状態なのはエスプレッソを二杯も飲んだせいかも知れない。コーヒー・ドリームというやつ。じゃあ寝られないだろう、とお思いかも知れないがどういたしまして、われわれはたとえ覚醒剤をやっても睡眠だけはちゃんととれるのではないかと思える体質なのである。本も読まず1時ころ、グー スカ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa