裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

金曜日

高橋オーディン

 北欧の毒婦。朝7時起床。朝食、シラスサンド。マフィンの間に大葉を敷き、シラスをはさんで食べる。気味悪いとお思いの方もいらっしゃるかもしれないが案外おいしい。それとブラッドオレンジ。いつもはサク切りで食べるが、今日は皮を剥いて温州ミカンのようにして食べる。味がちょっと違って感じられるのが面白い。

 ゆうべの蕎麦屋とおでん屋のはしごで気力が回復。そんなもので回復するなよ、という声もあるだろうが。ところで昨日はお多幸へ行こうとして間違えてやす幸へ行ってしまったのだった。ネットで両店の位地を確認する。やす幸は銀座5丁目、お多幸は8丁目だった。やす幸は関西風の薄味、お多幸は関東派の真っ黒い煮込み方で、対照があまりにはっきりしていてライバル的にキャラ立ちしているため、“銀座に店を並べている”などと書く人もいるが、隣り合っているわけじゃあない。値段はお多幸がやす幸の半分くらいである。オタコウハオヤスウゴザイマスガヤスコウハオタコウゴザイマス、などとつい、口をつく。あれ、チョウナンハジナンデス(長男は痔なんです)ってギャグを40年くらい前にやってた漫才さんは誰だっけか。今度談之助さんに訊かなくては。植木さんは前に銀座で友人とおでんを食って一人二万円とられたことがあるという。どこの店だろうか。

 午前中に海拓舎原稿二本。あまりにいい天気なので、ぶらりと青山の方まで散歩に出て、スーパーで買い物をして帰る。パックのご飯を温め、昼はアブラゲの焼いたのと、鯛の刺身(切り身が安売りだったので、自分で細造りにした)。さすが桜鯛で、安物にも関わらず旬の甘みが舌に染み渡る。一切れ猫にやったら、鼻を鳴らして食べていた。生意気に味がわかるか。

 食い終わって少し休もうと資料本片手にベッドにごろりと横になったら、いきなりグースカ寝てしまった。これでは気力が回復してもどうにもならない。4時近くなって目を覚ますが、困った眠りではあったものの、ひさしぶりに熟睡した感はある。講談社Web現代の原稿をそれから始める。河出書房さんからは〆切は月曜でいいですよ、というありがたい電話。二見書房さんからは来週会いましょうの電話。さて、講談社さんであるが、マクラ用に使おうと出してきた資料が書いているうち面白くなってきて、これで検索をかけたらいいサイトが見つかったので、結局、メインで使おうと思っていたネタは今度に回し、それだけで一本書く。8時まで4時間、パソコンの前にへばりついたままで11枚、書き上げた。

 今回使った資料は元気いいぞうに昔貰ったものだが、もう十年も前のものである。何に使えるものか、と思いながらファイルしておいたのが、たまたま十年目に目につき、それを原稿のネタにし、しかも検索して新たな情報が得られた。これだから私のようなモノカキはものを捨てられない。もちろん、一生使わないものの方が多いだろうが、こういう実例がちょくちょくあるから涙が出る。K子はいま整理魔と化していて、昔の原稿までナンビョーさんのところにあげてしまっているのだが、私にはそういう気っぷのいいマネは出来ないんである。

 書き上げてメールしたのが8時ちょうど。K子と荒木町のまさ吉で待ち合わせたのが8時である。あわててタクシー飛ばす。そしたらまさ吉にK子、ひとりぽつねんとしている。今日、井上デザインに、株式会社設立案内のハガキの完成したものが届くはずなのだが、まだ届かないので井上くんは事務所でそれを待っているらしい。ラッキョかなんかでつないで待つ。K子はいわしシソ揚げを食べたいのだが、最近イワシが品薄で(クジラが食べているんだろう)、バカ高いので仕入れていない、とのことである。ないとなると急に食いたくなる。ああイワシのてんぷらイワシのてんぷら、と脳裏にイメージが走る。で、そう言えばサイモン・テンプラーという怪盗ヒーロー(レスリー・チャータリスの『セイント』だったか?)がいたな、などと連想がソッチ方面に行き、その親戚のサイモン・スキヤキー、サイモン・スーシーの三人で怪盗トリオを組む話はどうか、と一文にもならぬことを考える。

 半過ぎに井上くん来て、牛すじ、卵焼き、焼き鳥などで飲み直し。K子と事業のことでアツく語り合っている。井上くんにこんな事業計画があるとは知らなかった。私はそういうことにかけてはまったく才覚が働かない。雑談に徹する。SF界でも有名な某醜聞事件に関して、“これは日記に書かないでくださいよ”と言うような裏話。聞いてアハハハと高笑い。K子、新宿ルミネのABCがUA!ライブラリー置いてくれるという情報でごきげん。生二ハイに日本酒、モツ鍋を食って大満足。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa