裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

27日

土曜日

酸っぱいブードゥー

 あんな呪術、どうせ効きゃしないさ。朝6時目が覚める。ゆうべは寝るときも例によって自分で自分の首をしっかり抱え、首だけが先に後ろに垂れないようにと注意しながら横になる、というテイタラクだったが、今朝はまだ痛みは残るものの、格段に楽になり、どうやらこのブロッケン伯爵状態から解放される。朝食、バタロールサンドと、K子の買ってきたスイカ。口も大きく開けられる。なんでもないことが出来なくなってみて、しみじみそのありがたさがわかる。

 K子経理部長から、『マニア蔵』の印税を渡される。もっとも、そこから家賃や諸経費をさっぴいたもの。節約をこころがけて、幾ばくでも貯金しようと思う。しかしそう思うはしから、さて、今日の古書市はどこだったか、と思うのがどうしようもない。資料原稿をいくつか整理。オトナ帝国対談の二回目のゲラチェックが送られてきた。だいぶ整理されているが、それだけにこの上の手直しが難しくなっている。

 11時半、神保町教育会館ぐろりや会古書展。半分くらい回ったあたりでは好きな分野の地味本が数冊程度の収穫で、今日はこのくらいか、まア金を使わんでよかったワイ、くらいに思っていたら、真ん中近辺の棚に、カストリ猟奇雑誌の、それも美本揃いがずらり、と並んでいて、ギャアと悲鳴をあげる。大半は所持しているものだが持っていないのもゾロゾロ出てきて、しかもお値段がかなりいい。まあ、今日びこれだけの美本じゃ当然という値で、暴利でないところがくやしい(値段が相場よりバカ高ければ、それを理由にあきらめることが出来る)。しかし、全部買っていたのでは『マニア蔵』の印税が全部吹き飛んでしまう。以前の私ならナニ後はどうにでもなると預金をはたいたろうが、会社組織にして財布を女房が握っている状態ではそうもいかず。熱が出てくるのを覚えながら、どうしても必要なものを(必要って何だ?)より分ける。それでもムニャムニャな額になった。しかし、より分けている最中に“よし、これはアイツに自慢できるな”とか“このネタならあそことあそこの原稿に使えるな”とか頭の中の計算機がチャカチャカ働き、それが“モトのとれるものである”ことを自分に納得させようと必死になっているのが、自分ながらオカシイ。

 満足と後悔のないまぜになった、悪場所帰りみたいな心持ちで、昼はスヰートポーヅで餃子定食。やはり神保町で満足できる餃子といったらここしかないか。餃子以外のメニューもあればなあ、とか、も少し落ち着ける店だといいんだがなあとか、来れば来たで文句が出るのだが。ニンニクが入っていなくてマイルドな味の分、物足りないと見えて、脇の女性は酢醤油に一味を真っ赤になるまでふりかけ、それでも満足な辛さにならないのか、皮を開いて(ここの餃子は皮を接着させてないでくるんだだけなので、すぐ開く)中にまでバッバとふりかけて食っていた。テーブルの上に横に置かれている醤油やお酢類のプレートを、邪魔だからと立てにして隅に片づけたりすると、必ずお姉ちゃんがやってきて横置きに戻す、というのもよくわからないここの風習。初老夫婦がお互い、本の入った紙バッグを両手に提げて食べていたり、御飯を頼まず焼き餃子のみを(酒も飲まずに)ひと皿食べて、おみやげを二包み持っていくステッキをついた老紳士がいたり、老舗だけあって客もなかなか味のある人が多い。

 風邪薬をのんだせいか頭がボーッとしてきたので、そこらで退散。半蔵門線で表参道に行き、紀ノ国屋で買い物。そこからタクシーで帰る。車中でウトついてしまう。帰宅して横になり、しかし寝ないで本の整理。今日買った猟奇雑誌に山本会長なら大笑い(大喜び、はしないだろう)の女ターザンネタがあった。あと、私も仕事している某社に関する情報がメールで。うーむ、そういうことか。どこまで書いていいのかまだわからないので詳細は記せぬが、要はヨミウリからアサヒが出ることになる、という冗談みたいな事態が出来するかも、といったこと。情報元にメール返信。

 原稿あちこちのものを突っつくが完成には至らず。8時、気分切り替えて夕食の用意で台所に立つ。鯛ちりにわっぱ飯、穴子とカボチャの蒸しもの。カボチャが固くて思ったほど成功せず。ちりの鯛は大変にうまかった。DVDでまたクリストファー・リーホストのホラー100年史。今回はマッドサイエンティスト特集。コメントを述べる当時の俳優やスタッフの老け具合の凄さの方がよほどホラーである。白人の爺さん婆さんは本当に老残、といった感じになる。その中でまったく年をとっていないのがラクウェル・ウェルチで、これはこれで不気味。サイボーグ美女。私の好きな脇役俳優、ウィリアム・シャラートが出てきたのがうれしかった。『地球爆破作戦』で、コロッサスを破壊しようとして逆に核ミサイルでやられるCIA長官の役をやった人である。あの、周囲があわてふためく中、一人やれやれという敗北感あふれた表情でタバコをふかす(次の瞬間、核爆発が起こる)演技が最高だった。元気な姿を見られてうれしい。体が疲れているせいなのか、酒がすすまず、1時近くまでなんだかんだ雑ビデオを見ながら、缶ビール大を一本に、燗酒(竹葉)二合でダルくなった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa