裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

土曜日

アパートのガキ貸します

 ものの役にも立たない子供ですが、留守番、子守くらいなら。朝7時半起床。熟睡とはいかず。やはり疲労が残っているか。朝食、K子にモヤシ炒め、私は旅行前に伊勢丹で買ったサンドイッチ。牛乳が切れていてコーヒーはブラック。日記つけるが、やはり膨大な量になり、とりあえず初日のもののみアップ。その前日の日記も少しつけ足し。小野伯父から電話、来週打ち合わせることにする。

 出版社関係にメールいくつか。勁文社が民事再生の手続きを取ったと安達Oさんの日記で知る。グリーンドア文庫を擁する官能文芸の雄であったが私や開田さんには、ケイブンシャとカタカナ書きの、『全怪獣怪人大百科』の会社として、怪獣マニアの発祥地みたいなところとしてその存在は大きい。昭和50年代、これが怪獣ブーム始まって以来初の、マニアックな編集(竹内博)による怪獣図鑑だった。図版使用料がバカ高くなってしまった今日では、ああいう図鑑はもう出来まい。新聞をチェック。留守中に訃報のあった有名人、それほどなし。デーモン・ナイトが死んだくらいか。母からメール。タイトルが『血への恨み』という、ホラーマンガみたいなものだったのでちょっと仰天。読んでみたら金にだらしない親戚にほとほとウンザリした、との内容であった。

 鶴岡から電話。なんと、『現代用語の基礎知識』の次の号で、“マンガ”の項目を執筆することになったという。岡田さんの推挙らしいが、大したものである。早稲田大学非常勤講師という肩書もやっと役に立ったということか。まず、めでたい。今までこいつは仕事はちょこちょこといいものを取っていたが、それをつなげるのが下手で仕方なかった。今度こそ、単発に終わらせず、次へと発展させなさいよと言っておく。フリーのモノカキというのは、仕事をドミノ倒しのように次の仕事に結びつけていって、初めて安定して食っていけるんである。食うと言えば今日の昼飯。昨日のオミヤゲのコゴミを味噌汁にし、干物を焼いてオカズにし、赤飯のパックしかなかったのでそれをレンジで温めて食べる。干物が涙が出るうまさ。ああ、これを食べるためだけにまた行きたい。

 1時過ぎ、神保町教育会館、書窓会古書市。案外立て込んでいた。珍本のたぐいはめぼしいもの無シ。買い控えていたもので安く売り出していたのが何冊かあったので買って、4千円弱。最近では最も買わなかった方。もっとも、今日の目当てはこの古書市というよりは本日開店のワンダーブックス3号店『ワンダースリー』。SF・ミステリ系の古書を基本的に扱っている、大学時代の私だったらまず確実に入り浸っていたであろう書店。もちろん、今はどちらの収集からもある程度距離を置いているので、気が(それから財布も)楽である。楽しく棚を見ているうち、いくつかドキリとするものもあったが、そこはオトナで、胸をなでながら気分を落ち着け、次の棚に行く。文庫本、十冊ほど。

 その後、今日はすずらん通りの書店を何軒か回る。資料本をすずらん堂で買うつもりだったからだが、残念ながら在庫がなかった。中山書店、古書かんたんむ、などを回る。どちらにもちょっと心惹かれるものがあったが、荷になるので(カバンにも、財布にも)後日のこととする。もちろん、それまでに買われているかも知れず、古書買いの基本は発見即購入にありとはわかっているが、数回通ってまだ売れ残っているということで、“仕方ない、この本は自分に買われたがっているのだろう”と買うフンギリをつける、というものもある。それにしてもこの中山書店、棚の下の部分はエロ本やエロ雑誌がずらりと平積みにされており、上の棚には人文系の学術書が並ぶという、何か頭のクラクラするような棚揃えは十年くらい前からずっと変わらず。神保町でもユニークな店と言えよう。

 昨日、帰りのANAの機内誌に紹介されていたキントト文庫には今日は寄らず。三省堂で新刊の棚を見る。サブカル棚、私の本は入手難の文庫に至るまで並べられていて、充実、平積み。書泉グランデでもまだ新刊平積み確認。やはり神保町ではわが著作、強し。いささかハナイキを荒くする。たまにはこれくらい威張らないといかん。帰りの車中で、ワンダースリーで買った河出文庫『蜜猟者』(匿名作家)読む。父子近親相姦ホモ文学。ナルシストの男が自分のコピーである息子に愛情を抱く、というテーマはいいが、夢の中の物語のように茫洋としたところと、妙に具体的な描写との摩擦が引っかかる。これが文学的な味なのか、ただの失敗した箇所なのか、正直よくわからず。文学的味わいを持たせようと作者(一流作家であるとのふれこみだが)がしているところはわかるが、それもこれも“玉袋”という単語ひとつで、いや、ひとつでなく何度も何度も出てくるが、台無しのような気がする。その単語に突き当たるたびに、イメージが卑俗にガクッと落ちるのである。笑えてくるのである。

 途中スーパーに寄り、帰宅してしばらく仕事に没頭。5時半、タクシーで新宿、いつものサウナ&マッサージで整体受ける。揉まれながら何回か意識を失う。7時半、そこからまたタクシーで下北沢、虎の子。山菜と干物をオミヤゲにする。K子の写真みながら、いろいろ旅行ばなし。黒龍の吟醸と特選を飲み比べながら黒豚と春キャベツの重ね煮、春野菜イタリア風、カツオのたたきなど。春キャベツが柔らかくて実に いい。整体のせいで酔いがやたら早く回った。

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