裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

31日

日曜日

三重苦歌舞伎町

 風営法にビル火災に、おまけにマジックマッシュルームまで規制かよ。朝7時15分、気持ちよく起床。おでこのあたりがムズ痒いのは、昨日蛤を食ったせいだろう。春先の貝を食べると翌日、必ず体のどこかが痒くなる。朝食、サーモンサンドにモンキーバナナ。ワールドカップにかこつけた茨城県のCMがやたら誇張された大仰さで面白い。とはいえ、以前、ニフティの裏モノ会議室がサッカーフォーラムの馬鹿に荒らされて以来(あの騒ぎ自体は面白かったが)、サッカーファンという連中を徹底して軽蔑しているので、6月のオマツリ騒ぎがいまから憂鬱である。

 朝、歯磨きの際に歯間ブラシも用いているのだが、これがいつもはドイツ製のやつだったのを、旅先で間に合わせに買った日本の某メーカーのものが余っていたので、それを使い切ろうと用い始めたとたんに、歯茎が傷ついてしまった。だいたい、一、二回使っただけで芯の針金がグニャグニャに曲がってしまい、もう捨てるしかなくなる。ドイツのは柔軟性はあっても曲がりきらず、非常に使い心地が快適である。21世紀のこの時代になって、まだ“やはり舶来は質が違いますて”と言うセリフを口にするとは思わなかった。もっとも、値段もかなりよかった。

 氷川竜介氏から丁寧なメール、昨日の日記の自動ゴミステ機とはディスポーザーのことでは? とのご指摘。私もそうなんじゃないかな、と思う(ゴミステ機という名称が面白かったのであえて“翻訳”しなかったが)。で、ディスポーザーを使った映画のシーンのやりとりになり、氷川氏は『ファイヤースターター』が印象的だったと言い、私は『ローリング・サンダー』を挙げる。しかし、どっちを見ても、あんな凶器みたいなものを平気で台所に装備する感覚は日本にはないな、と思う。

 1時までかけて『クルー』コラム原稿一本アゲ。メールして、青山まで散歩がてら出かける。もうほとんど葉桜だが、人はだいぶ出ている。気温は昨日に比べ肌寒い。青山通りのケンタッキーで昼飯用のチキン弁当を買い、紀ノ国屋で買い物。切らしているオリーブオイルやパックのご飯などを買い込む。荷物が重いので帰りはタクシーにする。運転手さんは二十代の、ガタイのいい、眉毛のきりりと濃い好男子であるが声もしゃべり方も完全に女性。しかも話し好きっぽく、“もう桜が終わりじゃないですかぁ、まだ小学校とかの入学式までに一週間もあって、その時期に桜が咲いていないって、あるものがない感じで、すっごく寂しいですよねぇ〜、子供たちが可哀想な感じでぇ〜”などとしゃべり続けである。桜よりアンタ大丈夫か日常が。

 帰宅、チキンを齧りながらトウモロコシの実をはずしたりする作業。昨日古書市で買ったプロレス雑誌『別冊ゴング』の、1976年10月号などを読む。以前この雑誌はこの号を含めてバックナンバーをズラリそろえていたのだが、プロレスをむやみに敵視する親父に全部捨てられてしまった。この号の表紙はタイガー・ジェット・シンとザ・シークのデトロイト市でのインディアン・ムッド(泥)・マッチの写真で、油泥のプールの中でシンがパイプ椅子でシークの喉元をえぐっている場面である。熱狂して読んだ記事なので懐かしく、買ってしまった。まあ、親父が、こんなものに息子が熱中するのを快く思わなかったのも無理はない。うちの親父はいいかげんなところのあった一面、妙にスポーツに真剣勝負の精神を期待し、例えばクロマティがガム噛みながらバッターボックスに入るというだけでこれを不真面目だと忌み嫌っていたくらいだから、泥レスマッチなどといういかがわしさの極地みたいなものは許容の範囲外だったろう。いかがわしさには慣れっこのはずの『ゴング』も、さすがにこのドロ試合には気を抜かれたと見え、記事のタイトルは『泥沼地獄でシンとシークが見せた醜悪なる死闘の全貌!』などとヘキエキした感じのものになっている。

 そして、記事中で、デトロイトの観客がこの試合に大興奮し、中にはこれを見るためにマイアミから来たという少年ファンもいるということに、“プロレスの本質をふと考えた”と書いている。“プロレスリングとは何だろうか? なぜこのような醜悪なマッチにこれほどのファンが集まったのか? 人々はプロレスリングに自らは到底届くことのない世界を求めている。その世界へプロレスラーの戦いを通じて足を踏み入れることによって、密かな自分の性・・・・・・「野獣の世界への還元」を満足させるのではないか”・・・・・・たかが泥レスで大ゲサな。で、試合後、記者は“一刻も早くデトロイトを離れたいという気持ち”になって会場を後にした、とある。悪趣味系の記事になれっこになりすぎている現在からは想像もつかないが、四半世紀前には、この程度の試合を報告するにも、記者にまだ人間性は残っているのだ、こんな醜悪なものには正常な神経は耐えられないのだ、とくどいくらい表明しないと世間からつまはじきされてしまうかも、という恐怖があったのだろう。

 原稿書き次ぐ。Web現代11枚、7時までかけてアゲ。最初だだだと書いてたら17枚になってしまい、削るのにほぼ書いたのと同じ時間を要す。昼間、例のオカマ声のタクシーの運ちゃんが“今夜はひどく荒れるらしいですよぉ〜”と言っていたので、ホンマかいなと思っていたが、確かに荒れて、雷雨となる。もっとも8時半ころには小降りになる。K子とタクシーで9時、新宿幸永。ひさしぶりにホルモン。待たずに座れる程度ではあるがコンスタントに二店舗とも客が入っていて、まあ安泰。いつものスライステール、ゲタカルビ、豚骨タタキ、極ホルモンなどの他に、人気だという牛とろたたきネギトロ風、というのを頼む。要は刺身用の牛をネギトロ風にたたいたものだが、わさび醤油とにんにく醤油で食べると、まったくネギトロ。つまりはマグロだか牛だかわかんない味になってしまって、イマイチであった。ホッピー二本半。最後の冷麺は二人でわけて食べたが、肉を減らしてもこれは一人ひとつ食べればよかった、と思った。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa