裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

14日

木曜日

紹興酒セーラ

 セーラ、これはお前が生まれたときに瓶に入れて庭に埋めた酒だよ。朝7時起床。天気晴朗なれども体調悪し。朝食、黒パンにマカロニサラダ。送られてきた原稿掲載誌などに目を通す。北海道新聞の私のコラムの隣に、編集部訪問とかでSFマガジンのS編集長が載っていた。“長髪にメガネ、煙草にコーヒーと、いかにもSF雑誌の編集長という雰囲気”と書いてある。はあ、SF雑誌の編集長の雰囲気というのはそうなのか、と驚く。今日は朝10時半に、光ケーブル通信の会社が電話回線調べに来る。以前NTTが来て、ここのマンションは造りが古いので光通信はダメ、という結論を出して帰ったのだが、下請け会社がもう一度見させてください、と言ってきたのである。そのため午前中のスケジュールが滅茶苦茶になる。管理人にそのことを伝えたり、書棚の裏のところにある配線を見えるようにしたり、雑用ばかり。

 立川キウイと塚原尚人を足して二で割ったような係が来て、地下から順に配線をたどって見ますから、と言って、その間は電話も使えず、風呂にも入れず。仕方ないから扶桑社のと学会本のネタ本などを所在なく読んでいる。12時近くになってやっと点検終わり、使っていない旧配線を引っこ抜けば大丈夫と思うが、廊下に光通信用の配線ボックスを置いたり、工事にやたら手間がかかるらしい。これはわが家一軒の問題ではなく、管理組合にかけなければならぬ問題となり、メンドくさくてとてもそんなことをする気にはならず。最近、うちのマンションは個人専用という原則を外して会社にも貸しはじめたらしいから、光ケーブルにしたいというところも出てくるだろうし、そのときについでにやってもらうことにする。

 午前中がそれでつぶれ、仕事のテンポがまるで狂ってしまう。昨日、植木氏に神保町の天丼屋のいもやの話をして、非常にリズミカルで能率的だったテンプラ職人の仕事が、一個、注文が違っていると言われたとたんメチャクチャになった、というエピソードを語ったが、まったく、それを実践してしまった。気分変えようと外に出て、青山通りのとんかつ屋に入る。味噌カツを注文。肉が厚く、ジューシーでおいしい。味噌カツだけどちゃんとカラシがついているのも殊勝である。ここは昔何回か来た店だが、当時の私は小食の痩せぎすで、ここのカツはボリュームがありすぎて苦手だった。食うようになったよなあ、と自分で呆れる。

 帰宅、井上デザインから電話、しばらく業界ばなし。そのあと横になって休む。古いFLASHがあったので読む。去年の12月24日号である。鈴木宗男が“このところとみに存在感を増した”“10月のタジキスタン訪問で見せた見事な外交手腕が宗男株を急上昇させた”などと大変な持ち上げられよう。このわずか数カ月後に最低最悪の政治家とレッテルを貼られようとは、本人もマスコミも露ほども思ってもいなかったろう。

 仕事にやっと取りかかったのが5時近く。さすがにどんどん進むが、電話などいろいろあり、中断も頻々。BSの撮りの話、それから例のQJの件。こちらの話した情報を編集者が後ろの席の編集長に話して、すぐ取材が決定したようだ。御苦労なことである。久しぶりにと学会の青井邦夫氏からメール。昨日の日記に書いた、放射能で巨大化する映画の件。返答を書いてファックス。みんな律儀に日記を読んでくれているんだなあ、とちょっと感激。

 8時、幡ヶ谷へ。ひさしぶりにK子と二人でチャイナハウス。別件の打ち合わせでK子がその人を連れてくる予定だったが、それはナシになったので、カウンターでマスターに挨拶。今日は軽くお願いします、と頼む。老酒やりつつ、雑談しつつ。厨房にやたら巨大な赤身肉がどっかと置かれている。何かと思ったらダチョウの胸肉だった。いつもの叉鶏から始まって、コゴミとエビ、キクラゲと蟹肉の炒めものなどを堪能した後に、猪肉と黒くわいの炒めものが出る。黒くわいは中国産で、地梨とも言われるそうだが、なるほど、齧ると梨のようなシャリシャリした歯ごたえと、非常な甘み。それに風味豊かな猪肉の脂がからまって何とも言えない。猪はフランス産とのことで、華仏親善的トレビアン的な味であった。あと、鹿肉の生ハムというものを出してもらう。山椒塩が添えられていたが、何もつけずに、そのままの肉の味をしみじみ噛み締めた。最後にリーメンだが、今日のダレを振り払おうと、白酒(ぱいちゅう)を一杯、もらう。“アリはいれないでいいですか?”というのがいかにもこの店。

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