裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

8日

金曜日

ぞんざい感あふれる人

 彼はまことに投げやりな男でありまして。朝8時起床。好天気なれども体調芳しくなし。二日酔いとも違う頭のフラつき、トンデモ落語会酔いか。こういう日は一日中寝ていたいのだがそうもいかず。朝食、ソーセージのスープ煮。果物はふじリンゴ。間の抜けた味で残念。シャワー浴びている最中に時事通信社から原稿の依頼、〆切がやたらタイトだが、この時期の〆切は大体タイト。

 いくつか昨日の日記で書き落としたこと。昼にパルコブックセンターで佐川一政氏の新刊を立ち読み。睦月さんのことを太った醜い顔の大男、と書いてある。感情の発露にとめどが効かないのは相変わらず。マスコミ関係者すべて実名、女性は写真も出ており、元早川書房の女性編集者K嬢も目伏せナシで出ている。ちゃんこ鍋を囲んだ2ショットだが、これ、確かシャッター押したのは私であった。何か懐かしくなる。続編も出るということであるが、そうなると私の名前なども出てまた罵倒されるのだろうか。楽しみである。トンデモ落語会の会場で睦月さんとその話。みんな出てくれば楽しいが、果して出せるかねえ、とのこと。トーハンが取次を拒否しているのは内容が衝撃的だからではなく、登場してくる人物、ことに外人からの訴訟などのトラブルが起きることを予想してのことで、肝心のパリでの事件のことはまた例によりおぼめかされている。睦月さん、“誰か訴えてくれば売名になるとふんでいるんだろうけど、もう誰もそんなことまでして佐川くんに関わりたくないだろうしねえ”と言う。あと、トンデモの二次会で奥平くんから、ソレハソレハ危ないビデオをもらう。“さすがのボクでもちょっとこれ、ネタにするのは危険なんで、カラサワさんに”って、私をなんだと思っておるのか。

 11時、あまりに頭がフラつくので30分ばかり横になる。メディアファクトリーのT氏の電話で起こされた。『トンデモ本・男の世界』、後発の扶桑社の本がどんどん進んでしまっているので、こちらも急がなければならない。扶桑社の本にみんなが大変協力的なのは、編集のOくんが積極的に例会、トンデモ落語会などに足を運んで執筆者みんなにコミュニケートを取っているからだと思う。とりあえずT氏に、と学会のMLに参加できるよう手続きをとります、と言っておく。あと、ササキバラゴウ氏から電話。中田雅喜さんの連絡先教えてくれとのことだったので教えると、折り返しという感じでまた電話。“本人はお留守で旦那さんが出たんですが……中田さんの旦那さんて誰でしたっけ”“マンガ家の横山えいじさんですよ”“……ああっ、やっぱり! ちょうど横山さんにも用事があるんでした、かけ直さなくちゃあ。では!”いつもながらあわただしいヒトである。

 ちょうど疲れもフラつきも取れたので原稿、Web現代にかかる。書き出しの部分を二度もやり直し、三度めでやっと調子にのり筆が進んでいく。ただし書き出しは中途でまた一回、書き直した。昼食はシオカラと塩昆布でお茶漬けをかっこみ、執筆継続。2時に9枚、アゲ。その後席を立たずに次の『フィギュア王』、11枚を連続してジャギジャギやる。5時45分までかかってアゲ。

 それから急いで家を出て、JRで御徒町、上野広小路亭まで。神田陽司講談会『テロリスト大石内蔵助』。開場の6時半に10分ほど遅れていくと、なんと受け付けに本人が座っていた。今日は力作です、と言われる。会場8分の入り。安達Oさんの姿がある。前座で出ていたのが意外や快楽亭ブラ汁。“ええ、今日は講談の会ということでございまして、お客さま方の顔を見渡しますと、さすが講談を聞きにいらっしゃるような方々の顔というのは賢そうな顔ばかりでございまして、落語の会とは大違いで、あっちはもうどうしようもない客ばかりでございまして……”と、達者に笑いをとっている。ネタは『鶴』。それから陽司の『白子屋政談』。髪結新三の傘尽くしのセリフで“うまい!”“陽司!”と声がかかった。

 ずいぶんノリのいい客だと思っていたら、今日は陽司のシナリオ学校時代の友人と教師連が十数名、来場しているのであった。なるほど、シナリオ学校へ行っていたのか、それでこの人の作る新作講談は映像的なのだな、と納得がいった。純粋に耳で聞く芸としての講談の姿との微妙な違いがそこには存する。そこがこの人の講談が凄まじく気になり、かつ、もどかしくも感ずる原因なのかもしれない。中入り後にもどんどん客が入る。伊藤夢葉の奇術を間にはさんで本日のトリネタ、『テロリスト大石内蔵助』。山科に隠居しながら討ち入りの情報を集めている大石と、金に困った親から大石に売られようとする娘、お重(後のお軽)の話を縦糸に、当時の金融事情、刃傷事件の真相、幕府の忠孝政策などをからめて繰り広げられる元禄武士道絵巻。途中で使おうとした資料映像スライドが機材不備で使えなくなったり、アクシデントはあったものの、師匠山陽ゆずりの読みたてを挟み込んで、長講1時間以上をダレなく聞かせたのはさすが。来年秋には真打昇進も決定とのことだが、着実に語りの技術が進歩している。彼の講談の特長はそれこそ映画的な、事件周辺の群像の描写にあるが、今回は学問を世に出すために権力に卑屈なまでにへいつくばってゴマをする荻生徂徠のキャラクターが新鮮かつ秀逸だった。

 ただ、表題にもなった『テロリスト大石内蔵助』というテーマには、いささか期待ハズレ。従来のさまざまな内蔵助像をなぞったものになってしまっていた。もっと、自分を冷酷な殺人集団のリーダーに追い込んでいく内蔵助を、このタイトルを聞いていた客はみな期待していたのではないか。どうしてもキャラクターに人情味が含まれてしまうのは陽司自身の人のよさで微笑ましいのだが、あえて冷酷な策士としての姿に絞りこんだ内蔵助伝を聞いてみたいと思うし、自分もそのうち忠臣蔵異伝には挑戦してみたい……ああ、いかん、また会をやりたくなってきた。それから忘れないうちに書いておくが、鈴木宗男のモノマネ、似ていたなあ(今日は本名は絶対出さない、と言いながら途中からヒョイヒョイ出てしまうのが笑えた)。

 会終了が9時15分。陽司さん、安達Oさんなどと挨拶もそこそこに、K子が渋谷で待っているはず、とタクシー飛ばす。金曜日で道が立て込み、おまけにこの季節は予算消化の道路工事が頻繁で、渋滞気味。大いにイラつくが、なんとか45分には焼鳥のパパズアンドママサンへ。UA!ライブラリーの新刊を見ながら、若鶏、レバ、なんこつ、プチトマトベーコンなど。テレビで日本アカデミー賞の様子などが映し出されている。ホントにみんな、窪塚洋介をイイと思っているのかね? 深夜スーパーに寄って帰宅、メールチェック。フィギュア王から短いコラムだがまたまたメチャタイトな原稿の依頼。春のお祭りと思おう。

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