裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

6日

水曜日

人間はキャンギャルの脚である

 キャンギャルマニア(脚フェチ)の人生観。朝7時起床。朝食、K子にジャガイモとニンジンの繊切り炒め。私は黒パンにチーズ。ミルクコーヒー、デコポン。ワイドショーで鈴木宗男を擁護する松山千春の映像。ところが、千春の事務所の方針だとかで、映像は流しても声は流せない。吹き替えをしている。この吹き替えが松山千春の口調のモノマネで、聞いていて実にヘン。声を流さぬことで、何か利点があるとは思えない。事務所もどういうつもりか。札幌のじゃんくまうすさんから目録が届き、これに食べながら目を通す。『UA! ライブラリー』の愛読者からの投書(『悲しい星の子』について)に曰く“これからももっと不幸になってください”。日記つけ、シャワー浴びて仕事にかかる。今日こそはアスペクトの原稿、是が非でも片付けねばならぬ。幸い雨もよい(最近は雨の方が調子がいい)で、テンションも上がり気味である。

 今回やっている『ウラグラ』は以前イーストプレスで出した『裏モノの神様』の続編である。100本ほどの単行本未収録原稿のうち、70本ばかりを抜き出してまとめ、それ全部に200文字ほどの追記をつける作業。いろいろと材料は集めてあるので、あとはただだだだ、と書くだけである。書きながら次第にハイになってくるのが自分でわかる。昨日のうち20本ほどはすでに書きあげて送ってあるので、残り50数本。原稿用紙にして25枚。枚数的には大したことはないが、一本々々に新情報を盛り込み、オチをつけなければならない。それは別に荷ではないのだが、文字数をあわせるのがなかなか難しい。こっちを切り、あっちを縮め。

 鶴岡から電話で小休止。タイのウルトラマンのことなど。大月隆寛が“塚原尚人を殺したのは田口ランディ”とMLで言っていたそうな。相変わらずの奴である。昼飯はきのう寿司屋でもらった稲荷があるのだが、こうパソコンの前に座ってばかりでは体が硬直すると思い、外に出る。パルコ向かいの渋谷区勤労福祉会館の食堂でランチを食べる。チキンカツ定食、680円。まあ、渋谷公園通りでこういうランチが食えるというところが珍しい、というのがネウチ。皿に盛ったライスを箸で食えというのは少し無理がある。食べながら『だめんずうぉ〜か〜4』(こないだ送ってきた)、『風とマンダラ4』(自分で買った)を読む。くらたまの絵では岡田斗司夫全然似てないが、額田編集長はソックリで笑う。食後に、パルコブックセンターを視察。『笑うクスリ指』、珍しく新刊棚に平積み。いい傾向である。

 帰宅して、しばらく横になる。半村良の『うわさ帖』の講談社文庫版をパラパラとひろい読む。語り口がいかにも落語家とつきあいが深かった人らしい。どの項目も、そこから重厚な人情ばなしにつながる、前フリのまくらのようなおもむき。長篇連載小説を書くとき、一回ごとに世間話のまくらを入れるというのを考えていたので、大いに参考になる。落語家と言えば月の家円鏡(現・橘家円蔵)との交流のことが書かれ、彼のヨイショにかける執念が面白く、しかし哀愁をもって描かれている。だがしかし、と読んで思う。円鏡が若手落語家の中で一頭地を抜いた存在になったのは、このヨイショ(つまり、対人サービス)技術の優れていた故だろう。若手芸人でそこらがきちんと習得できている人を見ると、なんとか引き立ててやりたい、と誰でもが思う。ここらは出世のための必須条件である。ところが、その技術故にどんどん地位が上がっていって、今度は自分がヨイショされる側に回ると、その持っている技術が邪魔になるのである。エラい位置がどうも似合わず、落ち着かない。言わば相応の貫禄に不足するのである。こういう人は、出世は出来ても大成ができない。今の円蔵の影の薄さを見れば、それは明らかだと思う。若い自分にはデクノボーとか呼ばれている奴の方が、案外、出世したときにピタッとはまる。しかしながら、そういう奴は出世をする前に業界にいられなくなっちゃったりする。ここらへんが現実の難しいところであり、かつオモシロイところでもある。

 もう一つ、『UFOと超能力』というコラムも読み返して印象に残る。半村氏は、UFOや超能力を信じている立場を公言する。
「恐らく私は、今のブームが去っても、UFOや超能力ということにこだわり続けるでしょう。
 実を言うと、何か変なものを見るとすぐに円盤だとか宇宙人だとか言うのは、逆にそういうものの足を引っぱっているように思えてならないのです。
 そういうものを俺は絶対に信じない。インチキは絶対にあばいてやる。……そういう人こそ味方なのです。
(中略)
 異星人や超能力の存在を信じないでください。そうすれば、私たちは予定よりもっと早くに、異星人や超能力を知ることになるのです」
 否定派を毛嫌いするUFOビリーバーたちに読ませてやりたい一編である。

 3時ころからまた原稿。ずんずん進め、出来たはしから編集のK田くんにメールする。ニフティの調子いまだ悪く、一回の動作に対して警告が三回くらい出る。めんどくさいことこの上ない。全本数プラス差し換えの一本分の原稿、7時にアゲ、ほっと一息。追加グッズの資料をいろいろ調べているうちに8時半になり、HMV地下の中華料理店『白鳳』へ。席について、どこかで聞いたような声がするな、と思ったら、岡田さんと柳瀬くんがいた。出版社の女性と一緒。インタビューされていたらしい。軽く挨拶。K子と食事していたら先に帰る岡田さんが来て、“仲のおよろしいことですなあ”と言う。私には自分を家庭からリストラして、パイプカットしていろんなお姉ちゃんとつきあうバイタリティはなし。やってみたくはあるんだが、時間がもったいない、が先にたつ。自分の人生の残り時間の少なさに時々唖然とすることがある。そりゃ、じっくりおつきあいしてみたい女性もいないではないが、K子への愛情とそれを両立させてバランスを取るなどというややこしいことをしているうちに、あっという間にこの世での持ち時間はなくなってしまうだろう。『花神』で村田蔵六がおイネとの関係を思い切るときにつぶやいた、“今生では無理だ”が実感なのである。

 などと考えつつ、紹興酒をうれしげに水で割って飲んでいる女房の顔を見ると、やけに可愛く見える。浮気のことを夢想する罪悪感がまた、夫婦の間ではスパイスなのかもしれない。北京ダックとフカヒレに紹興酒。心地よく酔った。足元に何か力が入らない。仕事しているとき、無意識に足に力を入れて書いているので疲れるらしい。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa