裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

日曜日

そんな窃視症な

 ちょっとのぞいただけで懲役5年だなんて。朝7時半起床。今日は昨日とはうって変わった冷え込み。昨日メシを食い散らかした後を片付け、朝食づくり。コンソメにタモギタケとキャベツを入れて煮る。果物はデコポン。テレビでまた鈴木宗男特集。昔懐かしい中川昭一との対立選挙の映像が流れる。母性本能剥き出しのオバチャンたちが、まだ三十で童顔の中川に“大丈夫、お父さん絶対見てるから!”と目をうるませて握手を求めており、鈴木は完全な悪役だった。そして、両名とも当選を果したものの、得票数は弔い合戦の同情票を得た中川が、鈴木をダントツに引き離してのトップ当選。鈴木宗男という男、初選挙のこのトラウマ以来、小泉純一郎だの田中真紀子だのといった、二世議員が大の嫌いになったのじゃないか?

 ネットで少し調べたら、鈴木宗男の唯一(?)の善行として、外務政務次官時代、杉原千畝氏の名誉回復運動を外務省の反対を押し切って推進させたことが出ていた。意外も意外、な取り合わせである。このとき、反対の陣頭に立っていたのが小和田恒事務次官(当時)。つまり、あの雅子さまの父君。反対の理由というのが“名誉を回復させるということは、杉原千畝を訓令違反(勝手にビザを発行したこと)で追放した外務省にミスがあったことを認めることになる”というもの。これが官僚という人々のものの考え方らしい。私は今の日本のヘタレぶりを何でもかんでも官僚のせいにする佐高信や屋山太郎の理論はどうかと思っているのだけれども、こういう、常識では理解しがたい思考をするのが官僚という人種だと思うと、やはりこれは一掃しなけりゃアカンだろう、と思ってしまう。そしてまた、この一件でのケンカ以来、逆に外務官僚への影響力をぐんと強めたという鈴木宗男という男のウス気味の悪さも、ひし ひしと感じるのである。

 母から電話。『笑うクスリ指』を、いろんな書店でチェックしているそうである。リーブルなにわでは奥のサブカルの棚の前に数冊、平積みになっていただけだったが弘栄堂では店頭に堂々と大量に積まれていた、と報告してくれる。してくれてもどうということではないが、親というものは息子がいくつになっても赤ん坊のように心配なのだろう。

 昼は新宿に出て、迷った末に万世のランチステーキ。1200円にしては肉が柔らかいのはさすがだが、ライスが反比例するように固い。プラスチックのペレットではないかと怪しまれるほどの固さだった。大テーブルについていたら、斜め向かいで、子供にお行儀を教えている父さんの声がする。そちらに視線をやると、その父さんなる人物がジャージに半ズボン、赤い野球帽を後ろ前にかぶったチャパツの兄ちゃん。それでいて、言っている内容はサザエさんの波平みたいなところが何ともチグハグである。生卵を回転させようとしてうまくいかないように、親子関係というものも、外側のイメージだけ新奇にしたところで、中身がついてこない。出て、山下書店で三十分ほどねばって棚をあれこれ見るが、ついに読みたく思う本なし。小田急で果物のみ買って、中央公園でのフリマのぞいて帰る。フリマは寒風にさらされて、みんな寒そうにしていた。

 原稿、Web現代とアスペクト双方平行して進めるが不捗を極める。ノドが痛み、目がカユく、小やみに頭痛がし、どうにも神経が落ち着かない。ビデオをダビングしようと思いながら、実行にうつすだけのテンションにあがらない。さっきの親子関係や、私と母の関係などをぼんやり考える。こんなことしている間に、せめてコミックスの解説だけでも書き上げてしまえばいいのだが、それも気がついたときにはもう、出る時間になってしまっている。

 5時半に家を出て、飯田橋に向かう。K子や永瀬氏、植木不等式氏がと学会同人誌に関する打ち合わせを平塚くんとして、その後の二次会に合流しようというハラである。神楽坂のクレープ料理屋。植木氏の提案だが、氏の紹介してくれる店としては年代記ものなまでにオシャレである。地下鉄飯田橋駅B3出口、と地図にあったが、このB3出口というのが実にもって遠いところにあり、かなり歩かされて汗をかいた。平塚くんに話があったのだが、帰ったそうで、これは残念。メンツはK子、植木氏、永瀬氏、グッズ担当酒井氏の他に私と同じ飲み会のみ参加の藤倉、板谷の面々。なんだかんだといつもの調子でダベりながらワイン三本あけ、クレープを食う。クレープが紙のように薄く、あまり個性を発揮していないのでは? という感じ。ヤギのチーズのものがまあ、印象に残る。その他のものは何食べてもみんな同じ。まあ、おいしいからいいんだが。永瀬さんが体調悪そうなのが気になる。血圧が高いんだそうだ。

 メインもクレープ、デザートもクレープ。藤倉さんが頼んだマロンのクレープというのは極めて単純に、焼いたクレープにマロンクリームをべたっと塗っただけ。これを切って巻いて食べる。なんのことはない、あんこ巻きみたいなものである。ジュール・ベルヌなるクレープをSF者らしく試みてみるが、レモンシャーベットにチョコレートソースは合わないということを確認したのみ。

 そこを出てまだ7時半。日曜と言うのに神楽坂通りは案外にぎやか。神楽坂芸者というものはまだ存在するのか? 昔は“粋の深川気っぷの神田、人の悪いが飯田橋”と言われて、木場の若い衆や神田の職人たちを客にしている深川芸者、湯島芸者に比べて、株屋など商人を主に客にする神楽坂芸者は金にシビア、と言われていた。日本のガウディとして知られる異色の建築家、梵寿綱も確か神楽坂芸者と株屋の養子だった筈である。植木氏が知っている店に行くが休み、仕方なく近くの焼き鳥屋に入る。永瀬氏は体調不良でそこで帰る。焼酎のお湯割りなど飲みながらだらだら話すが、あまりこのメンツとしては盛り上がった風でもなし。私がどうも同じ話をループさせていたような気もする。ぺた、みちほるなどという奇妙なメニューがある。ぺたは尻の肉、みちほるは卵管(タマゴの通る道のホルモン、の意ならん)だそうである。さっそくココロミようと思ったがみちほるは品切れ。10時くらいで解散。

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