裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

日曜日

ソノシートを見よ

 最近珍しいだろ、透き通ってるんだよ。朝ふとんの中でグズグズしてしまい、起き出したのは8時半。朝食はオートミール一杯。こないだ、“朝食にオートミールなんてオシャレですねえ”と言われたが、私にはあれは昔から親が忙しいときにボソボソ自分で作って食っていたもの、という貧しいイメージしかない食い物なのである。今食っているのは食物繊維が外食続きで不足しているだろうという考えで。

 遅起きと言っても大したことはないのだが、8時起きだとあっという間に午前中は過ぎる。ネットで資料をあさったりして、それなりに仕事はしているんだが、実になるものを書いてない。母から電話。また古い映画の話。『安城家の舞踏会』のビデオを手に入れてくれと言われる。

 昼飯は家で。サバ味噌煮、梅干し、ツボ漬けなどで。実家から送られたサバがこれで終わりだが、脂分たっぷりで実にうまく、食いながらむーむーうなる。人には見せられない姿である。母にまた送ってもらうよう頼んだが、太り過ぎになるから昼はダイエット食にしなさい、と言われる。悲しい。ノルウェー産のサバであるらしい。談之助師匠に頼まれた『ビーイング・ディファレント』のビデオをダビング。

 K子から催促された書き下ろし用の原作の一部を書く。英文資料をひさしぶりに辞書引きながら翻訳した。書き終えたときには足がかなり疲れている。ものを書いて足が疲れるのは、リキが入っていた証拠だろう。少し横になりながら読書。高橋鐵のものなどを何冊かザッピング読み。『あぶ・らぶ』の中に、ロリコン犯罪者とロリコン変態記事との間に相関関係はない、という論が詳細を極めて語られている。戦後も今も、同じことが繰り返し語られていて、この分野での官民の攻防が数十年、少しも進歩していないことがよくわかる。

 6時、新宿に出て、紀伊国屋のDVDショップや松竹ビデオショップを回るが『安城家』なし。7時、歌舞伎町魚膳にて談之助夫妻、開田夫妻と待ち合わせ。ここは新宿で一軒のみ、マンボウの刺身を食わせるという店なので、物好きなメンバーで行ってみようと企画したわけである。場所はミラノ座並びの角だが、ここらに足を踏み入れたのが実にひさしぶり、ということに自分で驚く。まあ、渋谷に居を移してもう何年にもなるから当然なのだが、以前は庭のようなものだった場所の、さすがに映画館は変わってないが、飲食店などがまるで様変わりしていて、時の流れを如実に感じてしまう。昔ミラノ座裏にあった、安い定食屋だが味噌汁がダシがきいていてうまかった店のあたりもちょいとのぞいてみたが、跡形もなくなっていた。もっとも、これはかなり前のことかもしれない。街の変化自体が、もうあのころから数えても何段階かめになっている。

 マンボウ刺身、それからしゃくしろ(ひゃくひろの訛りだろう。腸のこと)。あとはフツーに白子ポン酢や生牡蠣など。マンボウは淡白で、魚肉とイカの中間のような味わいだが、ルイベになって出てくるので、ねっとりとした舌触りがやや阻害されている。最後に氷が溶けたあたりで食べたのが、まあ柔らかくて、これがマンボウか、と実感できる味わい。キモ味噌がついてくるが、これがカワハギとも違った、なかなかの珍味だった。しゃくしろは完全にイカ。そう言われて出されてもまず、普通の人ではわかるまい。

 そこを出て、まだ腹がくちくなってなかったので、プリンスホテル向かいの台湾料理屋へ。この通りも、以前永谷ホールで大恐慌劇団や何かと公演してたときにはほぼ毎週、何やかんやで通っていたが、最近さっぱりごぶさた。老酒のみながら、四方山ばなし。私の話が最近、同じ話題を何度もループさせる、とK子が叱る。年をとると同じ話を繰り返すのが娯楽になってくるのだが。ヤキソバが昔ながらの中華屋のヤキソバの味で、懐かしいうまさだった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa