11日
日曜日
ミサンガ六
ミミンガ四。朝7時半起き。寝床でフックス『風俗の歴史』など読む。昔っぽい訳文(安田徳太郎・1972)で読みやすくはないが、何か懐かしい。朝食、ピタパンにハムとチーズ。チーズはサムソーで、ナッツぽい風味がある。読売新聞日曜版の楽しみは書評欄、先週は人違いで失礼しました東浩紀氏、今週はちゃんと執筆していて加藤典洋・他『天皇の戦争責任』(径書房)を推薦。“大平洋戦争はすでに前世紀の話になった”という文章に抱腹。じゃあベトナム戦争は今世紀かい。コミケも忘年会もクリスマスも、一ヶ月ちょっと以上前のことはみんな前世紀の話だあな。東京オリンピックもオイルショックも宮崎勤事件もエヴァンゲリオンも、東氏のメーリングリスト討論の最後の更新だって前世紀のことじゃないか。あえて過去のものであるという事実を際立たせるために前世紀というコトバを使いたいのなら、“意識の上でも”といったような補足表現が必要だろう。こういうところに、天来の文章的センスのなさを感じてしまう。この人の書いたものを読むと、確かに頭がいいのだろうということはわかる。ただし、“まぬけ”なのである。間が抜けている文章というのは、いかに内容的に優れたことを言っていても、人から失笑をかうのである。
母から日曜日ごとの定期電話。なにやら先日来とはうってかわって、ハッピーハッピーな様子である。いろいろと豪貴も気を使っているらしい。家のこととかなにかで相談があるというので、6月のオタアミ札幌公演の際に親子会議ということにする。渋谷さんが定年退職したあと、社宅としてうちの裏庭に建てた家などの問題がいろいろ残っている。K子に弁当。昨日のカブの葉っぱで菜飯。オカズはカジキマグロのトマト煮。
午前中はだらだら。とにかく肉体的疲労が堆積している。毎日新聞ムック『シリーズ20世紀の記憶』で、宍戸錠の談話を読む。豊頬手術を受けた当時の心境など、初めて明かされる逸話もいくつか。中で、“殺し屋”という言葉を発明したのは俺たちじゃないか、という話が興味深い。あのころ、ヘミングウェイの『ザ・キラー』はまだ『殺人者』と訳されている、という指摘はなかなか鋭いものがある。もっとも、このちょっと前の時代の小版カストリ雑誌で“殺し屋座談会”というスゴい企画を読んだ記憶がある。ホシ、コロシ、ホトケなどという警察の隠語をカストリ雑誌は見出しに多用していた。一般に普及したのは確かに日活映画からだろうが、元は刑事の現場用語だったのではないか。未確認ながらちょっと疑義のみ、呈しておく。
昼は簡単に茶漬けですます。いろいろネットで検索しているうち、偶然に小学校時代の写真を貼ってあるページを発見。アドレスから見ると奥利泰男くんのサイトか。懐かしい。それにしても、
「これ、本当にオレかあ?」
これもちょっと疑義呈上。私だとすると、メガネをかけてないから、四年生頃のものだと思う。後ろの女の子三人は確かにムチャクチャ可愛いですね。手前が牧野美枝ちゃん、奥が津畑真理ちゃん。真ん中の子はこの写真ではちょっと誰だか不明だな。
http://www.asahi-net.or.jp/~rj5y-okr/jj/gallery/excursion.html
3時ころ、エンターブレインのNくん来るというので、12時ころからコラム原稿書き出す。肩に力を入れずに書けるので、3時間で10枚アゲられる。へえ、大したものじゃないか。しばらく、出版についての細かい打ち合わせ。鶴岡が赤入れした原稿を見せてもらう。裏にフラットウッズモンスターの落書きなどがしてある(笑)。出来の悪い小学生のテスト用紙みたいだ。
K子が今日は家で鍋を食べたいというので(明後日がまた井上くんと鍋囲む予定なのだが、店の鍋はクズキリが少なくて物足りないのだそうだ。K子にとって、鍋の具やスープは、クズキリに風味をつけるためのもの、であるらしい)鴨湯豆腐にする。それとカツオの叩き。ビデオでジェームス・キャグニー『東京スパイ作戦』。日本による世界制服計画を描いた田中義一首相の上奏文の秘密を世界に発信しようとする新聞記者(キャグニー)の東京での活躍を描く1945年のサスペンス映画。田中、東条、山本などという人物が実名で登場。東条英機などはかなり雰囲気を出している。国辱映画として今では大笑いしながら見ていられるが、終戦の年に、東京のこれだけのセットを作って日系人俳優をこれだけ集められるハリウッドの力はやっぱりすごいもの。実際の日本よりもこの映画の中の日本の方がどうしても金持ち国に見えるのがまた、情けない。劇中で交わされる日本語も、たどたどしくはあるがかなり正確である。上奏文を奪われた責任をとって田中義一がハラキリをする、などというシーンもあるけど(それを東条と山本が大礼服姿で見守る)。
田中上奏文については、志水一夫さんのこのサイトに詳しい……と思ったら、まだ工事中なんですね。私は、あの上奏文の内容は佐藤信淵の『混同秘策』の焼き直しであると思っている。まず満州を取って、それから中国を、という侵略ルート設定がまるで同じなのですよ。
http://member.nifty.ne.jp/reveal/youkoso.htm