裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

8日

木曜日

カリフラワ寿明

 俊一でも、なをきでも。朝8時起き。6時間睡眠はやはり、ちょっと体に疲れが残る。朝食、クルミパンとホウレンソウサラダ。紅玉リンゴ3切。メール数通 。3日の日記中、“的を得た”とあるのは“的を射た”もしくは“当を得た”の誤りでは、という指摘があった。その通り。頭ではこちらが正しいと思っていても、日常で“マトヲエタ”と発音していると、ついそう打ってしまう。世界文化社のDさんからは“ものつくり大学”は梅原猛センセイの命名によるものだというご教示。自画自賛していたそうだ。やれやれ。

 朝、薬局新聞一本。背中の、肩甲骨の間が凝って、板のように張っている。これが苦しい。なんとかこらえながら原稿を書く。モノマガジンから特集号原稿依頼。シンプルと言うか漠然というか、“小屋について原稿書いてください”とだけ。小屋、ねえ。はあ。

 今日は本来は一時に京橋で『ビジターQ』の試写会を見てとって返して仕事し、また夕方に京橋にトンボがえりをして……という予定だったのだが、背中の不快感に、試写二本は拷問となるので、一本はパスさせてもらう。宣伝会社にその旨FAXし、マッサージを予約。三時半にとれたので、それまで仕事。一時半に家を出て、NHKの書店で本を数冊、一万三千円ばかり。それから花菜に行き、ランチ担当になったシマちゃんに久しぶりに挨拶。押すな々々の満員だが、こんなことは珍しいとか。なんとかカウンターの隅っこに席が取れ、サバ塩焼き定食。小鉢にウドンをサービスしてくれる。事務機器をハンズで買おうと思ったがナシ。外へ出たらおかだえみこ氏がいた。昨日、トゥーンの話をして、森卓也とかアニドウとかのことに言及した翌日にその関係者と出会う。そう言えば青山で山本剛トリオを聞いた翌々日あたりに、新宿の紀伊國屋で山本剛を見かけたし、われわれは自分で考えているより単純な法則の下の世界の中に生きているのかもしれない。

 二時半、新宿へ出て、サウナで汗を絞り、背中をきつめにマッサージしてもらう。おとつい、ゆうべとやたら早く目を覚ましてその後寝られなくなってしまい、それが凝りの原因なのではないかと思う。グュ、グュと、押されるたびに音がしそうであった。指圧治療というのは完全なるプラシーボだという話もあるが、なんであれ、治れば結構。一時間揉んでもらって、かなり楽になる。先生は快楽亭ブラ房にソックリで口調もどことなく似ており、とりとめもない会話をときおり唐突にしかけて来て、鼻をグズッ、グズッと言わせながら丁寧に施療してくれる。

 そこからタクシーで京橋まで。明治屋前でK子と待ち合わせ、メデイァボックス試写室にてタイ映画『アタック・ナンバー・ハーフ』。タイで実際に全国優勝した、オカマのバレーボールチームの話。タイはオカマ(カトゥーイ)のメッカみたいな国であり、パタヤなどのビーチには性転換費用稼ぎの街男娼たちがずらりと並んでおり、以前“彼女”たちの一人にインタビューしたこともある。てっきりオカマ先進国だと思っていたら、やはり風紀上好ましくないと見られているんだそうで、テレビなどにもオカマは一切出られないことになっているんだそうだ。この映画は、オカマチームの試合のドタバタぶりを描きながら、性差別の実態にもシリアスに取り組んでいる。

 主要登場人物たちはほとんどが素人同様の新人らしいが、オカマの演技というのは本来がわざとくさいものだから、それほど気にならない(本当のオカマは性転換した美女、ピア役のゴッゴーン・ベンジャーティグーン一人のみ)。ストーリィは純然たる青春スポ根もので、実話だから仕方ないのかも知れないが、ヒネリもあまりない。それだけに感動はダイレクトであるらしく、帰りに男女カップルが“泣けちゃった”“オレ、映画館でもう一回観るかも”などと会話していた。確かにオハナシとしてはいいし、キャラクターもみないいんだが、編集が拙劣で、ちょっと興をそぐ。“あそこで二コマ切ればいいのに”というところばかり。K子が“無駄なカット削って上映時間三十分短くすればずっとよくなるのに”と言っていた。

 京橋から銀座方面に歩き、7丁目の近辺で下町料理『てっちゃん』に入る。ネギ塩焼き、地はまぐり、ジャガバタなど。“幻の酒”ホイスを飲む。ズブロッカのサワー割り(すだち入り)といったところ。料理も酒も、まあまあこのテの店にしては、という出来。お値段も手ごろ。11時過ぎ、帰宅。ホットミルクは三月からメガキューブとなって復刊とやら(パティオ情報)。ジャンキーズはどうなるのか?

Copyright 2006 Shunichi Karasawa