裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

6日

火曜日

家つきカーつきトロツキー

 嫌よ、あんな永続革命論者のいる家なんて。朝、7時起き。目を覚ましたのは5時ころ。少し起き出して本を読み、6時ころまた寝る。これがたたって、一日中寝不足気味。朝食、ピタパン、アボカド。風呂に入っている最中に電話二度。宣伝プロダクションから、三池崇『ビジターQ』試写会のお知らせ。それとファミ通PS2から、コメント原稿用のブツ渡しの件。

 毎朝見ているCMで気になるのが二本。SMAPの稲垣が出ているモバイルのやつで、わきでオウムがいろいろツッコミを入れる。“字が違うよ、完璧のペキはこうだろ!”と注意するのだが、ワープロであればどんな馬鹿が打っても、完璧などという字は正確に出てくる。ワープロで間違えやすいのは同音異義語のたくさんある、ケンカイとかフキュウとかいう単語のはず。思うにこのCMのコピーライターは万年筆派で、長いこと完壁と書いて恥をかいていたのではないか? あと、宮本信子が相撲部屋のおかみさんを役やる、納豆のCM。“きんのつぶたべよー”という歌のダサさはともかくとして、あの彼女の髪型の、おかっぱ頭の上にウンコみたいに髪を結い上げているの、なんとかならんか。あんな相撲部屋のおかみさんはいやしないだろう。いや、実際にはおかみさんにだっていろんな人がいるかもしれないにしろ、わざわざCMでしてみせる髪型じゃない。

 原稿、『ダカーポ』一本。それから海拓舎にかかるが、寝不足で体調すぐれず、不捗のままダラダラ。角川春樹事務所、光文社、二見書房などから電話&メール。こちらからも応対。K子に弁当、カジキマグロ煮付け。寝ようと思うとまた電話。なかなか時間取れず。東急ハンズに買い物に行こう々々と思いつつも、なかなか行けず。これもイラつく原因。ネット古書店回るが、欲しかったものがすでに売約済み、これにもメゲ、ついに今日は仕事放棄。

 昼は2時過ぎにカツめし。パックのおこわ温める。カツが3日前に買ったものなのでもうマズくなっており、半分でやめる。そもそも今日は5時から打ち合わせでメシを食わねばならないので、腹を空かしておく必要もあり。今朝、その件(夕食との兼ね合い)でちょっとK子と言い合いになり、その自己嫌悪で少し、調子が狂っているのかもしれない。

 3時過ぎ、すでに〆切を過ぎていた『一個人』の原稿のこと、思い出してあわててやりだす。買ったものへのコメント(33〜39w見当)をジャキジャキつけていくのは、楽しい仕事である。書き上げて、5時の待ち合わせに今から出かければ十分余裕があるな、と思い、編集部にFAXするが、これがずっと話中で、いっかな通 じない。二十分くらい待つが、とうとうずっとふさがっていて(多分レイアウトかなにかの時間がかかるものが送信されているんだろうが)送れず。ギリギリの時間になり、あわてて家を飛び出す。

 タクシーで青山のベルコモンズまで飛ばす。運ちゃんが“いやあ、今日はどういうわけだか空いてるねえ”というほどスイスイきたのはラッキーだったが、それでも十分遅れ。心配していたら、ちょうど海拓舎のH社長、やってきたところで、“いや、遅れてすいません”とあやまられる。こっちも、寒い中待っていたんだという顔をして、“いやいや”などと返事をする。連れ立って、しゃぶしゃぶ会席の店、K(なんで頭文字にするかという理由は後でわかる)。集英社のNくん、部屋で待っている。去年の暮れに、週刊プレイボーイで連載の企画があった私の青春(笑)小説、ちょうど睦月さんの同系統の小説とバッティングしてしまい、当分掲載見合わせという結果になったので、その善後策を立てる打ち合わせである。

 はっきり言えば(前にもちょっと書いたが)、週プレでの連載、私にとっては願ってもない大仕事、という部分と、こういうメジャーすぎる舞台で実録小説を書くということは、モデルとなるであろう各登場人物へのはばかりもあり(かなりセキララなものになる予定だったので)、弱ったことになった、と頭を抱える部分とが合併しており、内心いささかビクついていたので、棚上げという結果が出たことには幾分ホッとしているところがあるのである。

 以前から週プレの連載は欲しいと思っていたのだが、これまで数回、営業をココロミて、あちらも大いに乗り気だったにも関わらず、何故か頓挫していた。まあ、私が急に忙しくなったり、向こうから言ってきた企画がイマイチ乗り気になれなかったりいろいろ理由はあったが、とにかく、こういう仕事というのはタイミングだと常々、思っているので、週プレと私はリズムが合わないのだ、と思ってきた。仕事というのは、決まるときには“こんなにトントン行くものか”というくらいスムーズに決まるところと、そうでないところがあり、その仕事が代表作となったりするのは、大抵の場合、トントンの方なのである。今回のこの仕事もハズしたことで、こりゃ、生得のリズムの違いかな、と思えてきた。また、Nくんも、どうせカラサワさんに書いてもらうなら、これまでの古書とかでない、新しいものを書いてもらいたいと言うので、何にせよ、状況が変わるまで一年やそこらは待たねばなるまい、と思った。

 そんなわけで、こちらからも強く押すことをせず、雑談で二時間くらい、いろんな話をした。Hさんは今、手塚マンガ本を作っていて、その件でネットで知り合った友人を紹介したのだが、彼が非常に熱心に仕事をしてくれて、大感謝される。その話などをしばらくし、その間に出た話題に関連して、ちょっとフッてみた。そうしたら、Nくん、ふむ、それは面白そうですね、と言う。いくつか思い付きでこんなものとかこんなものとか、と言うと、それはよさそうだ、なるべく早いうちにその企画モノ、通しましょう、と大いに乗り気になってくれる。これは思い掛けない展開。リズムからはずれ落ちそうになって、すんでのところでまた元のリズムを取り戻した、というところか。結局、その企画の件を少し詰めて、8時まで打ち合わせ。Nくん、じゃあなるべく急いでその件は会議にかけてみましょうと言ってくれる。これでノリ損ねたら、それこそ当分、週プレとは距離をおいた方がいいかもしれない。

 打ち合わせをしてたら、隣の部屋から、いきなりカラオケが大音量で流れてきて、ちょっと驚く。女の子に聞いたら、ここの個室にはみなカラオケの設備がついているそうだ。出来たときからでなく、後で追加した設備なので、防音が十分でなく、外に響くのだそうである。それにしても少し大きすぎないかというと、このお客はこの店が開店したバブルの当時から来ている古いお客さんで、バブルのときは全店貸し切りにするほどの景気だったそうだ。崩壊後、いくぶんショボくれはしたが、それでも取り巻きなどを連れて時折やってくる。そして、彼の楽しみは、この店で自分がいかにわがままを通せるか、ということを自分の連れに見せて自慢することなのだそうだ。
「だから、カラオケのボリュームも、こっちがいくら絞っても、すぐ自分でもとに戻しちゃうんです」
 と、女の子が申し訳なさそうに言っていた。その社長の気持はわかる。景気よかった人間が落ちぶれたとき、一番うれしいのは、かつてと同じわがままをさせてくれる店や人だもんな。とは言い条、他の部屋の客にとっては迷惑千万。廊下に出たら、他の客も店員に“ありゃ何かい、しゃぶしゃぶ食べながら歌っているのかい?”と苦笑しながら訊いていた。

 8時半、K子と花菜で待ち合わせ、酒。しゃぶしゃぶがしごくあっさりだったのでここでもいくつかつまみを食べる。いわし団子、厚揚げ、ギンナンなど。週プレの企画の話などK子としつつ、焼酎のソバ湯割りを飲む。帰宅して、もう一度『一個人』宛FAX。今度は通じる。それからエンターブレインNくん、夜中にも関わらず来てくれて、図版ブツ渡し、打ち合わせ少々。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa