裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

木曜日

お義理よ今夜もありがとう

 そら義理チョコでももらわんと、上司のメンツってもんが。朝7時半起き。朝食、マッシュルームとタンポポのサラダ、田舎パン。それと昨日ソバ屋でもらったみかんK子と半分こ。『GON!』廃刊(未確認)のニュースに驚く。アイコラが載ったのは『パワーズ』だろ? それにしてもアイコラで社長逮捕、とは。流石バーニングの権勢はすごいものである。『GON!』は一回も執筆していないのに毎号送られてきていて、比嘉編集長も何度か直接出向いてきてくれて、執筆依頼があったのに、なんだかんだと忙しくてスケジュールがあわず、応えられてなかった。こうなると、書いておくんだったな(この騒動を渦中で体験できる)と、残念。

 モノマガジンの特集原稿、書き出す。催促が来てから書き出すのは悪い癖である。資料をインターネットで検索していて、つい読み込んでしまう。K子に弁当。今日は煮込みハンバーグ。テレビ朝日で『三匹が斬る!』をやっていて、アホらしいと思いながら、つい、見てしまう。通俗の強さよ。

 モノマガ、五枚程度のものに結局半日、かかる。資料的なおもしろさと、エッセイとしてのおもしろさのどちらを優先させるかが最後まで決まらず。文体でちょこちょこと誤魔化す。でもまあ、読んでオモシロイとは思う。昼はミソムスビ二ヶとカップミソラーメンの小さいの一つ。続いて海拓舎。ワープロの不具合にイラつく。相変わらず“内容”が“ないよう”で出てこない。仕方なく登録した“ねいよう”で出す。江戸っ子じゃないんだから。

 メディアワークスから電話、今日の打ち合わせの件。アレ、明日でなかったか? とあわてる。何にしても、都合悪いので日取りを変更してほしいということだったのでいいけれど。この電話で、3時のサンマーク出版との打ち合わせ、失念していたのを思い出して、遅れないですんだ。時間割にて、編集のT氏と。書き下ろしの本を出してほしいという件。書き下ろしは今年はもう予定が四〜五冊もつまっており、トテモ無理なのだが、マンガ原作ということで、それほどの仕事量にもならぬようなので引き受けることにする。日本怪人物伝といった内容。知っている怪人物の逸話をいくつか挙げたら大いに喜んでくれる。ダークホースプレスの『ザ・ビッグ・ブック』シリーズのような感じのものになるか。スケジュールのつけあわせ、制作費などの談判しばらく。そのあと雑談になり、ずっと以前、サンマークで出た『マンガ年金入門』の話になる。あの作画の鹿野景子はソルボンヌです、と言うと仰天される。まだ芸能プロダクション時分、アルバイトで女房とやったものだが、好評で何回か版を重ね、文庫にまでなった。とはいえ買い取りで、私は構成・脚本料二十万貰ったきり。文庫も送られてきておらず、文庫になったことはネットに書評が載って初めて知ったほどだった。編プロ通しなので、サンマークは預かりしらぬことなんだが。

 帰ってまた仕事。鶴岡から電話。某掲示板のブレイクの話。さらに、昨日営業かけたら、思いもよらぬ大手と話がつきそうとのことで、なにか意気軒高という感じ。いろいろ話しているうち、K子が帰ってきたので、支度して出かける。Web現代編集長からのお誘いで、青山のフレンチレストラン『志度』。タクシー、道が混んで、十五分ほど遅刻。M編集長、担当のIくん。M編集長、いかにも雑誌の編集長というタイプに見える。ヤクザっぽさと大手の鷹揚さを兼ね備えているという感じ。講談社で は伝説の人物の一人、だとか(Iくん談)。

 志度という店名はやはりあの志度藤雄からか、と思っていたが、聞くとその娘さんの経営するお店らしい。赤坂に以前あった『シド』は超高級レストランだったが、ここは気軽なワインバーという感じで、フレンチなのだがイタリアンぽい。その娘さん(?)のおすすめでワインをかなりあける。四人で四本くらいやったか。生ガキ、季節の野菜のフリッター(露骨にテンプラであったが、美味)、それと香辛料の効いたブイヤベース。編集長の北朝鮮一人旅の話などを聞きながら。最後のアップルパイとエスプレッソまでにかなり腹がキツくなった。

 そこから、ほぼ隣のジャズバーに行き、生演奏を聞く。ピアノが山本剛、ベース稲葉国光、ドラム大隈寿男という超ベテランのトリオ。途中で山本剛が若い女の子に数曲弾かせて、これもなかなかがんばってはいたが、また代わって山本の(老眼鏡をかけながらの)演奏となると、音がまるで段が違う。ピアノなんてものは猿が弾いても同じ音が出るように思うかもしれないが、音色の深みが若狭湾とマリアナ海溝くらいの差なのである。年期の入った演奏に心地よく身をまかせる。K子は稲葉の風貌に大感動していた。M編集長、しきりに私に小説を書けと勧める。私の文体と浅田次郎の文体には非常なる共通点があるんだそうだ。まるで思ったこともなかった指摘で、へえと他人事のように聞く。11時ころ、帰宅。これからIくんは会社に戻り、さっき渡した図版資料をスキャンして更新。編集者には私はなれない。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa