28日
月曜日
キューバの役に立たぬ
社会主義革命は迅速を尊ぶ。朝4時半起き。昨日の晩書きかけていた週刊ポスト映画評原稿、ラストまで書き上げて5時FAX。それからコーヒー沸かし、サンドイッチとミートパイ一切れずつで朝食。テレ朝は5時にはまだ放映してないことを発見。ちょっと意外だった。アンディ・フグ葬儀で石田純一が“遺志を受け継ぐ”などとコメントしていた。格闘家の遺志を役者がどう受け継ぐというのか? シャワー浴び、ドタバタと用意して6時出発。タクシーで羽田まで三○分ちょい。7時半千歳行きの便。機内でデジタルモノ原稿二本書きあげる。
千歳からスカイライナーと思ったが準急しかなく、札幌着が9時ちょっと過ぎ。まず実家の方に行き、親父を見舞う。痩せて頬がこけているが、顔色はよし。ノドの穴がまだふさがっていないので声は出ないが、私とK子の方を見て手をあげて歓迎の意を示す。病院から帰って、これでも太ったそうである。家から原稿、デジモノ編集部に送る。星さん(もう家に四半世紀近く来てくれている家政婦さん)とK子、いろいろ話をしている。この女はあれだけキツい性格でありながら、こういうお手伝いさんとかと仲良くなるのが極めてうまいのが謎であるな。母の用意してくれたカレーライスで昼食。
今日の札幌は雨という予報だったが、やっと繁く降り出す。雨の中、K子キモノに着替えてタクシーで店。ウス暗い機内でワープロ叩いて肩が凝っているので豪貴に見てもらう。プラセンタドリンク一本飲んでリキつける。いろいろクスリ買い、同じ毎日新聞社ビル6階のノーザンクロスに二人で行き、担当Iさんと出版打ち合わせ。地方出版といえどバカに出来ない、むしろ不景気な最近の中規模出版社よりも豪儀な部数を予定してくれているのに驚く。ただし、取次がどれだけ横ヤリを入れるかが問題であるが。装丁その他、初めてのことで心あたりがないというので、井上デザインに電話をかけ、紹介する。
今回の私の出版は特殊な例だったが、これからの数年、まだ著書のないライターにとっては極めて苛酷な状況が続くということは何度もこの日記で言っている。それでもモノカキの看板として著書は出しておかねば話にならない。そういう場合、地方出版に企画を持ち込んでみてはどうだろう。地方出版であっても著書の価値には変わりはないし、ウェブ書店を使えば取り寄せなども比較的楽に出来る。最近は地方出版の方が積極性があり、元気のいい場合が多いのである。もちろん、地方ゆえのさまざまな不便や限界はあるが、近ごろの東京の出版社のショゲタレぶりから見れば、まだ地方出版社の方が覇気が感じられるような気がする。
そこからホテル(札幌駅前ホテルクレスト。飛行機とパックセットになっている)にチェックインして家にとって返し、小野寺さん(星さんと交替で親父の看護をしてくれているおばさん)に挨拶。K子は二人にエプロンをおみやげ。針の先生が来て、電気式の針を親父の半身に打っている。いかにも電気が流れています、という演技のように親父、体をビリビリとふるわせている。自分の体が自分の儘にならない哀れさはあるが、しかしどこかおかしくもある。ノドの穴からタンを取るのが見ててもつらそう。こういうのは男はかえってダメ。
家の書棚を眺める。ここに収められているのは主に中学一年から高校三年(予備校の一年間含む)の間の私の購入書籍であるが、今の私の趣味嗜好に比べ、当然のことながらかなり乖離している。気がつくのは海外翻訳ものをていねいに読んでいることと、SFへの傾倒だろう。早川と創元推理のSF文庫を、一番からコンプリートに読み尽くそうなどという意気込みで読んでいた様子が見えてホホエマシい(創元SFは『神の目の小さな塵』、早川は『デューン・砂漠の救世主』あたりでザセツした模様である)。SFに比べるとミステリは、ハメットやロスマクなどを基礎教養として読んだ形跡がある他はクイーン、カー、クリスティと本格一辺倒。創元の帆掛けマーク(怪奇幻想)がほとんどないのは、この分野の趣味は東京に出てからも持続したために、その後みんなあちらへ持っていってしまったからである。他に、今ではまったく読まなくなった佐藤愛子や多岐川恭などという作家の本、それから竹村健一の著作などがずらり揃っているのが、何か自分の書棚でないみたいである。
7時、豪貴夫婦もやってきて、一緒に食事。母の手料理で飲んで食ってしゃべる。この日記のタイトルのダジャレの話も出る。気に入ったものを他の人に聞かせても、まるで理解できぬ薬剤師の先生などがいるそうで、その話にも大笑い。精神病の話になって、“精神を病んでいる人は炭酸水を好む”という説があることを教わる。私など、ふだんの飲み料にも普通の水よりは鉱泉水を選ぶくらいで、十分にキチガイの要素がある。身近にいるキチガイの人たちの話いろいろ。話題はずみ、シャンパン、焼酎、ビール、日本酒と飲んでかなり酔っ払い、二階に寝る。