裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

火曜日

テキは大勢、ピカタは一人

 えー、みんなビフテキ? ポークピカタ頼むの俺だけ? 朝8時起き。ゆうべの夢が、ビール会社トラストが“生ビールのジョッキは大中小あるのに日本人がみんな中ばかり頼んで大をないがしろにするのは、日本人の体格が矮小だからだ”と、日本人の体格を大型化する陰謀をたくらみ、その手先としてケビン・コスナーが来日する、という変てこなもの。朝食、昨日の弁当のオカズの鶏とジャガイモのバタ煮とパン。やはりちょっとミスマッチ。それとスイカ。仕事関係メール片付けて、日記入れる。書き忘れていたが、昨日の『戦慄の七仮面』で、キャバレーのバンドのドラマー役で潮健児がミンストレル・ショーのように顔を黒く塗ってチラリと出てきた。遺品の中に、この扮装の写真があったが、この映画のときだったか。

 ワイドショーで大分の十五歳少年凶行事件報道。何か惜しい事件のように思う。津山三十人殺しのように、落ちこぼれた劣等感と、チカン嫌疑をかけられた屈辱感をじぶじぶと、もう少し煮詰めてから破裂させれば、日本猟奇史に残る事件になったかも知れないのに、あまりに早漏気味に勘定をハレツさせてしまっている。やはり若すぎるということはよろしくない。

 昼は東武ホテルの地下の中華で牛肉のカレー炒め定食。デザートの杏仁豆腐がコンデンス・ミルクのように濃厚。2時キッカリに東武ホテルロビーで村崎百郎氏と落ち合い、『ウルトラグラフィックス』対談二回目。さすがに東武ホテルではこういう対談は無理なので、ジァンジァン跡のルノアールに行く。壁とかにジァンジァンの名残がある、奇妙なルノアールである。今回は少し、村崎氏のファナティック話芸にツッコミで対抗できたか、という感じ。詳細は掲載誌(まだ創刊号も発売されていないけど)を読んでほしいが、キレる若者事件に関連して、十数年前、東大名誉教授の斎藤勇が二十七才の孫にチーズナイフを眉間に突き立てられて殺された事件のことをフッたら、その事件が、村崎氏が昔住んでいた家の前で起こったものだった、と聞いて仰天。やはりそのような事件はそのような業を持った者の近くで?

 当時の報道によればこの斎藤名誉教授(殺害当時九五才)の一家では家でもきちんとネクタイをしめ、日常会話は英語でなされていたそうで、孫は一族のオチコボレで東大に入れず慶応に入り、就職内定が取り止めになって、大学院に進んで留学するがそこで不眠症になり、なんとゾロアスター教に入った(どこに留学したんだ?)。ところがゾロアスターてのは菜食主義らしいんで栄養失調になり、帰国。カタレプシーに悩んで入退院を繰り返していたという。村崎さん曰く“ナイフは眉間に深く突き刺 さっていたんだけど、警察の話だと「どんなに深い怨みによる殺人でも、普通眉間は 刺さないし、第一普通じゃ刺さらない」らしい”んだそうである。二十数年の間鬱積し、濃縮された殺意がその一撃に全て込められていたのだろう。やはり、猟奇事件は時間をかけて熟成されたものがいい味になる。

 対談終わり、写真撮影にと外へ出たらザンザ降りの大雨。編集さんがカサ買いにコンビニまで走っていってくれる。12か月の小ジャレた喫茶店で撮影。村崎さん、例の片目マスクと衣装をつけるが、さすが渋谷で、この格好で写真撮影してもほとんど注目を浴びず。レディースコミック業界の状況など雑談。途中で森園みるくから“雨は大丈夫だった?”とか電話がかかってくるのがいい。

 5時、別れて家に帰り、原稿。と学会本用の書籍選定もしなくちゃなあ、とぼんやり思う。思うだけで体は動かず。古書展目録などチェック。7時、新宿までタクシーで。盆だというのに明治通りはかなりの混み様。クイーンズシェフで買い物し、伊勢丹本館上のレストラン街で天一のてんぷら。今日は市場が休みのせいか、小柱もシャコも品切れ。替わりにアワビを食べたが、アワビってもんはてんぷらにして食ってもさっぱりうまくないですな。値段だけは高いし。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa