裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

水曜日

マライヒ青い灯道頓堀の

 バンコラン大阪潜入(このシャレ原作にあったか?)。朝8時起き。朝食、夕べのカジキマグロの残りをサンドイッチにして食べる。それとスイカ。60才の妻がキレて58才の夫を金属バットで殴り殺した事件の記事。17才に負けぬシルバーパワーで結構。あと、ワイドショー、トマトジュースのハエ事件、さすがに朝はハエを大映ししないね。夕べのニュースでは何度も大映しされて気色悪かった。山田風太郎が戦後の食料不足時代、進駐軍払い下げのウジのわいたコンビーフを“これだってタンパク質だ”とムシャムシャ食べながら原稿を書いていた、というエピソードに比べて、世の中がよくなったのか、人間がヒヨワになったのか。

 原稿の資料探しついでにネット回る。こないだのゼロコンでのチェコアニメの部屋の感想で、私が何かというと“チェコは貧乏で・・・・・・”と言うのがどうかと思った、と書き込んでいる人がいた。チェコは貧乏、と繰り返していたのは幸重さんの方なんだが(なにしろ実体験)、聴いてる方の頭の中では、そういう不埒なことを言うのはカラサワの方、というイメージがすでに出来てしまっているんだろうと苦笑する。オモシロい現象ではある。そう言えば、都市伝説などの掲示板で、話の出所が定かでないときに、
「たぶん唐沢俊一の本で読んだことだと思いますが」
 とつけ加えている(私の本にはそんなこと書かれていない)人がかなりの数、いたりもする。“こういう話は唐沢”という意識でくくられているのは(商売上)結構なことであろう。

 1時までかけてナンバーフェチ原稿。書き上げて風呂入り、ちょっと新着雑誌持ってベッドに横になったら、いきなり1時間ほどグーと眠ってしまった。おかげで昼飯が3時過ぎになる。六本木のソバ屋で冷やしタヌキ。ハルキ文庫の新刊を買おうとして三軒ばかり書店を回るが、どこの店にもハルキ文庫の棚がない。大丈夫か。

 太田出版のと学会本で三島の『美しい星』を書評してくれと依頼されたので、書庫の中に入ってあそこここと探すうち日が暮れてしまった。〆切をもう過ぎている原稿があったことを思い出し、あわてて書きにかかるが、書きかけて、あ、そうか、あそこは今月はお盆で一回休みだった、と気がつく。どうりで〆切の催促がないはずだ。民俗学関係の資料探しで検索かけていたら、宝の山のようなサイトがボロボロ見つかり、驚喜乱舞する。

 8時新宿の寿司屋すがわら。ここも開店以来初めて、来週まるまる一週間、休みをとるそうである。東京じゅうから人がいなくなるので、仕方がない。アワビ、イカなどおつまみ。アナゴ、ウニなど握ってもらい、9時半ごろそこを出て、ゴールデン街三丁目の、知人のKくんがやとわれ店長(ただし水曜のみ)やっている店へ行く。二十数年、閉まっていた店を買い取って開店したのだとか。一階のカウンターが一杯なので、昔ながらのゴールデン街の、ハシゴ段のような急な階段を上って、まだ改装中の二階ギャラリーで飲ませてもらう。安っぽい蛍光灯の看板が並ぶゴールデン街の雰囲気はいいが、“撮影有料”という貼札を見たときには少々幻滅を覚えた。それに、こういうところの常連というのは、ゴールデン街で飲んでいる自分というものに酔っている人種が大半である。学生時代、出版社の人や映画業界の人に何回か連れてきてもらったが、いい思い出はあまりない。もちろん、Kくんの店には関係ない思い出だが。寿司屋から持ってきたイナリ寿司を開店祝い(?)に差し上げて、帰宅。

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