裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

土曜日

番頭はんとテレスドン

 タイトルに意味はない。朝8時起き。朝食、ガーリックスパゲッティとスイカ。午前中に週刊アスキー一本。案外てこずる。書き上げたところで鶴岡から電話。雑談するうち、二人とも、落語家になりたいという夢を昔持っていたことがわかる。私は小学生のころ、圓生に弟子入りしようと思い、さらには談志のところへ行こう、と決意していた。川柳川柳や三遊亭円丈、快楽亭ブラックや立川談之助たちというのは、私の“あったかもしれない未来”の姿なのである。鶴岡は今からなら談之助に弟子入りして、師匠の前座名の“談Q”をもらいたい、で、弟弟子を引っ張ってきて、それに 談マン、談セブン、談新マンとつける、などと言っている。

 昼、渋谷駅の方まで出て、回転寿司で昼食。それから東急古書市。今回はテーマが“大衆文化発掘”と、モロに私のセンである。自分の収集分野がムーブメントになるというのはうれしくも困ったもの。オソルオソルという感じで顔を出す。ドキリとするのは、私が著書で取り上げたものがガラスケースの中に麗々しく飾ってあるとき。値をつり上げてしまったか、と心痛むのである。カスミ書房はじめとして古書あごらとかアート文庫とか、ヤバい(こちらに金を使わせそうな)書店が並んでいるが、ぐるり回って、伊勢丹古書市ほどの出費はしないですんでホッとする。ひとつには、あまりにこちらの趣味にあった品揃えで、ごちそうばかり目の前に並べられたような気になり、食欲がかえって減退したこと、また、そこはこちらの収集分野だけに、目玉商品にすでに所持しているものが多かったこと、などが理由だろう。とはいえ、かなり買い込みはしたのだが。

 家まで重い紙袋を抱えてエンヤラヤ。帰ってフーと息をついたとたんに、全身から水芸の如く汗が吹き出す。先日幻冬舎から来た封筒を開封するのを忘れていた。見ると『古本マニア雑学ノート』の中に、尊敬するコレクターとして名を挙げさせていただいた長谷川卓也氏からの、お礼の手紙だった。恐縮する。まさに長谷川さんこそ、大衆文化研究なくしては現代はわからない、とB級雑誌、B級本の収集と研究に打ち込んでこられた大先達。ようやく世間もそこに気がついてきたみたいですよ。

 寝転がって、昭和五年の『犯罪科学』誌などを読む。島洋之助という筆者の『亜米利加の素脚』というエッセイ、内容はタアイないものだが、米語表記が耳から入ったそのままの、めりけんじゃっぷ式。“十仙ムビ”“ヘリーの渡し場”“一ウェーキ”なんてのはまだわかる(十仙はテンセン、十セント。ヘリーはフェリー、ウェーキはWeekである)が、ののしり言葉の“サメカ”てのは一体、原語は何?

 そのままグータラとして夜に至る。8時、K子と待合せNHK西門前のソバ屋『花菜』。ひさしぶりに空いていて、カウンターで厨房の兄ちゃんたちと話す。ここの大将が長野に持ってる農園で作ったという茶豆をご馳走になる。他に新サンマ、冷やしトマト、めごちてんぷら。おろしソバ一枚。

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