裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

土曜日

なにかホフマンがございますか

 なぜ全集の古書価がバラでもあんなに高いのか。朝7時半起き。朝食、スモークトサーモンのオープンサンド。朝、業界誌のコラムをやる。途中で鶴岡から電話。話の方にツイ夢中になって、原稿は(書いていて面白くないので)放擲。出版状況の話、 早稲田の学生の話、それからほんやら堂掲示板の話など。

 電話最中に宅配便で大和書房から新刊『トンデモ一行知識の逆襲』届く。なをきの版画の表紙がいい。こういう肩の凝らぬ本と、肩をある程度凝らす本を交互に出していくのが理想なのだが。あと、注文した本やCD類が連続して届く。盆あけで世の中が動き出したか。『談志が選んだ艶笑噺』など聞く。

 本来は盆休み中にやるはずだった二見書房の原稿、やっと手をつける。出来るだけ古くさい材料を徹底してぶちこむ形にしようとメモをとる。構想は凄まじく面 白そうな感じになるが、書き出すテンションがあがらない。昼は外で食べようと思い、着替えるが、着替えたとたん出るのがメンドくさくなり、残った飯でお茶漬けを流し込んですます。とにかくなんにもやる気が起きない。盆休みの最中に一週間連日で予定など入れるからこうなる。明日のトイフェスも、漫画研究者交流会も、どうにも出席が荷である。

 ゆうべ『東京流れ者』を見て興奮したので、久しぶりに渡辺武信の『日活アクションの華麗な世界』(未来社)を読んでみる。日活アクションに惚れぬいた建築家の、当時(キネ旬への連載は1972〜79)としては異色のB級アクション文化論であり、個人の、しかもプロの映画評論家でもない人物の、日活映画への常軌を逸したとすら言える傾倒、つまり日活アクションを一本残らず観ているのではないかと思われる知識量に、連載当時驚嘆した記憶があるが、いま読み返してみると、ストーリィの細部に、だいぶ著者の記憶違いがあることがわかる。ビデオなどない時代、一本の映画を少なくとも数度は見て、暗闇の映画館の中でメモしたりしていたのだろう。この異様な入れ込みが、当時の映画マニアの特長であり、それが、デモーニッシュな凄味を執筆者たちに与えていたのだ。いつでも作品細部の確認ができる今のオタクには、なぜかこのデモーニッシュ性がない。

 ベッドで寝転がってこれを読んでいるうちにグーと寝てしまい、4時ころまで熟睡する。エアコン止めていたためかなり寝汗かく。業界誌編集部からの催促電話で起こされる。あわてて原稿書き。6時にアゲてFAX(ここの編集部にはメールアドレスがないのである)。続いて『メモ・男の部屋』原稿。7時に外出、青山で買い物してからタクシーで銀座三越前。K子と、銀座のおでん屋“やす幸”本店に行く。“うまいが高い”と評判の店で、土曜なのにすぐ座れるのは高いせいか。高いといっても店はごく普通のおでん屋の作り。黒柳徹子か、と驚くような派手な帽子とメガネのおばちゃんが入ってきて、“いつもの”コースをひと皿食べて、帰っていった。こういう客が多いのか。キャベツ巻、練物、すじ、卵、ツミレなど。ツユは関西風で、さすがにうまい。あと、春菊のごまよごし、玉子豆腐、牛タン酒蒸しなど数品、それに茶飯としじみの味噌汁(茶飯におでんのツユをかける“ぶっかけ”というのもあるらしいが勧められなかったので食べず)。さてお値段は、とちょっとドキドキしていたが、いつもの寿司屋と同じ程度の額。もっとも、寿司屋とおでん屋が同じ、というのはや はり高いのか。

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