裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

29日

水曜日

話さんという親孝行

 朝9時起床。朝食、ホタテのリゾット、デコポン。リゾットはアルファ化してある米をレトルトのクリームソースで煮るもの。デコポンは夏に食べたものの方が甘かったように思う。基本的に夏ミカンの一種か。こういう食物の記録をたんねんにつけた本に考古学者・森浩一の『食の体験文化史』があるが、これもまことに面白い本だった。将来、この日記のダイジェスト版を作ることになったら、案外、食い物のことばかり残すかもしれない。食い物のことを書いてない日記を私は日記と認めないのである。

 仕事、すすまず。押し詰まって神経が雑事に分散されているため。年賀状のチェックなどやる。鶴岡から電話。かなり神経過敏になっている様子。コミケの打ち上げでなんかあったらしい。私への電話は癒しか(笑)。彼に限らず、若い連中はも少し自意識を抑えて、モノを書く機能として、自我を殺した方がいいように思う。自意識は売れてから持っても遅くない。あまりに強烈なプライドが売れること、それからサクサク仕事をすすめることの障害になっている例がどうも多い。

 本の代金振り込みに銀行へ。一昨日に比べるとガラ空きである。昼飯をガード下の立食いラーメンにしようと足を向けるが、なんと火事で丸焼けになっていた。近くの飲み屋などにも飛び火があった模様である。行き着けの東京一腸詰の店、『細雪』もすぐそばだが、被害がなくてよかった。ここの腸詰と爆肉(肉炒め)は確かに東京一だが、店のこぎたなさも一、二を争うと思われ、立て直されてキレイな店になってしまっては、その味が何か落ちるような気がするのである。

 ともあれ、胃袋をラーメンにセットしていたので、それを食いはぐれてしばらくその近辺をウロつく。いっそ家の近くにもどってチャーリーハウスのトンミンとも思ったのだが、その通りの回転寿司屋の看板に“大イカ丸煮!”とかいうのが書いてあったので、ついフラリと入ってしまう。かなり混雑していたが、それほどの味でなし。大イカも(どうやって寿司に乗せる?)夜でないとないそうで、ヅケマグロ、サーモン、ビントロなど6皿、それとシジミ汁に黒豆豆腐など食って出る。1000円しなかっただけ儲けもの、か。

 帰ってモノマガのラフ、だだだとやって、3時、東武ホテルで編集Mさんと打ち合わせ。向こうはラフも期待していなかったようで、ずいぶんホッとされる。グッズ類を明日、札幌への出発前に渡すことにする。表紙ページ用の使用写真、これからまだ開いているラボ探して、選んでもらうよう依頼。

 今日はとにかく一日中あたふた。夜に博多のテレカコレクター、H氏が来るので、幡ヶ谷『チャイナハウス』予約。ここで、今年最後の外食のしめくくりとする。H氏の本のプロデュースをしているので、その本のざっとした執筆ガイダンスを作成。来年はこういったプロデュース本が数冊、出る予定である。そうそう、山本竜二本も出さねばならぬ。例の活弁志望の弟子は快楽亭に聞いたら、とうとうホモ映画初出演させられ、しかも本当にやられてパンツを赤く染めたそうな。“お母さんになんて言えば・・・・・・”と嘆く弟子をなぐさめた師匠のコトバがいい。
「お前な、話さんという親孝行もあるんやで」

 6時半、新宿紀伊国屋前でH氏と待合せ、都営新宿線で幡ヶ谷へ。K子と待合せ。さすがにチャイナハウス、年末で混雑。マスターに“こないだ週刊ポストに紹介されてましたねえ”と言ったら、“そうそう、あそこ、オレの写真二十枚以上撮って、料理の写真二枚しきゃ撮らないで、結局、料理だけ載ってオレの顔なんかまるで載らないでやんの”。

 その載った料理のチャーチー(焼豚の豚を鶏に変えたもの)、黄ニラ炒め、クワイとエビの炒めもの、コゴミとホタテ、キヌガサタケのあんかけ(美味!)、シューマイ、最後はリーメン。後ろの席にいた女の子のグループが特製スープを予約していたらしく、頻繁にオイシイオイシイを連発。くやしくなって、1月にアレと上海蟹ね、と予約する。H氏は料理よりも、私と話すことに興奮しているらしく、心ここにあらずという状態。オタクばなしをこっちにいろいろ持ちかけてくるが、残念ながら私は普段はめったにオタばなしはしない男なのである。オタクアミーゴスの三人も、一般にはいつでもツルんで行動していると思われているらしいが、実は公演のときくらいしか会わないんだよな。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa