裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

金曜日

古本情報

 寝床の中で平凡社新書『超常現象の心理学』(菊池聡)読む。最近軽い新書ばかり読んでいてイカんですな(なにしろ創刊新刊ラッシュ)。各章の冒頭に銀英伝だのルパン三世の五衛門のセリフだのを引いていて、文体も軽いが内容も軽い。ジャパン・スケプティクスという団体の活動自体に“啓蒙”臭というか、“人は理性で動かねばならない”という明朗進歩主義のようなものが感じられてしまうのだが、菊池センセイの書くものは池内了センセイの文章などよりはずっとマシとはいえ、まだそのケがだいぶある。と学会とスケプティクスの違いは、“アヤシゲなものを愛する”というその基本理念にあると思う。笑うことは愛することなのだから。

 8時起床、朝食、キャベツをホテルオークラのトマトスープで煮たもの、カフェオレ、リンゴ。御歳暮にもらった高級スープだが、K子、マズいマズいと文句言う。帰省用の荷造り。

 銀行に行き、コミケのお釣り用小銭をつくる。どこも長蛇の列。旭屋書店に寄る。『トンデモ本・女の世界』週間ベストセラー九位。なかなか健闘。ただし、この書店には他に私の本、一冊も置いてない(ロジャー・プライスの気持ち、わかるなあ)。

 帰って昼飯。冷凍の鴨を戻して鴨丼。ただし、ご飯があまり残ってなかったので丼半バイ。とっくに書いて送り忘れていたメンズプライスマガジン原稿、あわててメール。

 S舎から電話。河井克夫氏の単行本が出るので、オビの推薦文を書いてくれという依頼。河井氏は大ファンなので喜んで引き受ける。

 3時、『アエラ』インタビュー。B級文化アイデンティティ論。カミール・パーリア言うところの“日々の興奮と突っ張った俗悪精神”こそ文化の本流なのだ、というB級論を話す。インタビュアーのUくんは佐川一政やトンデモ落語会のファンでもあり(談之助をインタビューしたこともある)、記者という立場を離れていろいろ突っ込んだ疑問点などを質問してくれて、おかげでこちらも(いつもの立板に水、という調子は出なかったが)自説の欠如点やあいまいな部分を、だいぶ整理することができた。ふと気がついたら、3時間も話し込んでいる。パーリア曰く、
「ジミヘンとハリウッドがあれば、アメリカ人にデリダはいらない」
 ならば、われわれもなぜ、こう言えない?
「ポケモンとガメラがあれば、日本人にデリダはいらない」
 と。アニメと怪獣映画こそ、(少なくとも戦後、こんにちまで)日本が世界文化にはたした、最も大きな貢献なのである。オタク文化がこれらを中心に語られるのも、故あることなのだ。

 取材が長引いたおかげで、4時に会うはずだった古書マニアのU氏との打ち合わせが7時に延びる。ルノアールで、1時間ほど話す。U氏には徳川夢声関係の本の探書を依頼しているのである。アサヒグラフ、写真世界などに載った夢声のコラムと対談記事を受取り、謝礼を渡す。古本業界の噂話いろいろ。古書ゴロのOの近況などを聞く。いまだあちこちの出版社にもぐりこんで、全集編纂のスタッフに名を連ねようとしているらしい。Oの弟子を自称するMも、伊藤晴雨関係で同じことをやろうとして見事に失敗していたよなあ。そのあと、晴雨コレクターの故・I女史からMの醜態を聞いたのは近来の痛快事だった。Mが古書関係から撤退したのも、これが原因のひとつだろう。

 それやこれやで夕食遅れ、9時45分。桜海老豆腐、固ヤキソバのフカヒレソース。アニ、二十三、二十四話。蕗子さまのトラウマとして紹介されるエピソードが大したことないのに拍子抜け。この程度のことを引きずるかぁ?
 それからこないだWAVEで買ったLD『13階段への道』。映像はその後もナチス関係資料で見ているものばかりだが、日本版ナレーションが一九六○年に公開されたときのもので、ニュース映画調の棒読み。こっちの方がレトロを感じた。

・今日のお料理「鴨丼」
 鴨ロース薄切りの脂をちょっと切ってフライパンで炒め、その油でネギとシシトウを炒める。火が通ったら、鴨ロース薄切りを数切れ入れて、色がさっと変わるくらいに炒め、そこへ赤ワイン少々、だし醤油を入れて、ひと煮立ちさせる。甘味をつけたいときは、ブルーベリージャムを入れる(オレンジマーマレードでも可)。肉が煮えたら取り出し、ご飯の上に並べる。汁をさらに煮詰めてトロリとさせ、その上かからかける。仕上げにバターを一かけ、上に乗せる。洋風の、ちょっと酸味のきいたしゃれた丼ものになる。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa