裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

日曜日

コミケのいちばん長い日

 なにしろ三日目。ゆうべ帰ってから一旦寝て、4時に起き、仕事関係のメールを確認、それから裏モノ会議室25幕目のOPENING宣言をUPする。この開幕言を読むのが楽しみで裏モノをウォッチングしている、という人も多いらしい。

 それから会場で売るコピー誌(トンデモマンガの)を作りはじめるが、コピーの調子悪し。こないだ、レディース突っ込み本の原稿コピーで酷使したためか、筋がいくつも出てしまうし、インクが薄い。二時間ほどいろいろやってみるが、とても売れる品質のものにならんことがわかり、とうとう放棄。やれやれ。

 それから朝飯(ゆうべ作っておいたオニギリ)食べ、K子の弁当と朝飯の用意し、コミケ会場へ向かう。東エ46bと学会ブース。今回は委託のもの含め、グッズなど売り物が多くて、コミケブースっぽい雰囲気になる。いつもと学会は例会誌ひとつのみのシンプルな店構えなのだ。

 隣のブースが岡田斗司夫、真向いが睦月影郎さんの官能倶楽部、同じシマに日曜官能家の串間さん(今回は落ちたらしいので北尾トロ氏のブースに委託。それでも人気で多くの人が挨拶に訪れていた)、ドリフト道場の鶴岡一派、畸人研究会の面々がいるという濃い一帯となる。畸人研究会の今氏にこの日記を褒められる。日常記録ということで古川ロッパ昭和日記をホウフツとさせる、とか。他に開田さんのブース、なをきのチーアシの藤井くんのブース、金成さんのドレス職人ブース、同じく人形の一帯の角銅博之氏のところなどに挨拶に回る。岡田さんのところに『カリ城』評論誌置いてるオーピンこと佐藤良平氏にもひさしぶりに挨拶。コミケのときだけ会う顔というのもあるなあ。

 十時開場。と学会、冬コミは例年新刊を作らず、アリモノなのだが、今回は柳瀬くんの尽力で例会誌の創刊号と2号の合巻復刻本を出した。三○○円という手ごろな値段のせいもあるだろうが、いや開始早々から売れる々々。前のひとだかりで、真向いの官能倶楽部のブースの様子が終了までほとんど窺えないというくらい。3時半までに、九○○部を完売し、今回の目玉商品(?)と学会バッヂも九○個、すぐ無くなった。委託の『日曜官能家』も真向いに本家があるわりには五○部近く、UA!ライブラリーも全部ハケる。われわれモノカキというのは、出版業の中の、原稿を書いて渡すというホンの一部分を担当しているに過ぎない(東浩紀がどこだったか印税率の安さに文句を言っていたが、実は一割の印税というのは現在の2〜3万部程度の出版にかかる費用を考えれば、かなりの優遇なのである)。原稿を自ら作って印刷屋に回し(場合によっては印刷製本まで自分で行い)、搬送の手続きをし、売場に坐って客を呼び込み、ブツを手渡して代金を受け取るまで、という全てを体験できるのが、たまらない魅力なのである。

 それに、われわれの仕事では原稿料はいつも銀行に振り込まれ、通帳でしか確認できない。目の前で本が売れ、現ナマが箱の中にたまり、持ち重りがするほどになる、という商業的行為の原点をダイレクトに体験するということは、やみつきにならない方がウソだろう。ノンキャッシュ時代に、日本経済史上最大の闇マーケットであるところの(笑)コミケがこれだけの支持を受けている理由のひとつには、この現ナマ体験の麻薬的快感がある。ひょっとして、コミケというとみんながしたり顔で語る“表現行為への本能的欲求”などより、こちらの商業行為への欲求の方が強い部分もあるのではないか、とさえ思う。

 そして、客側の方をコミケに駆り立てるのは狩猟本能である。カタログを便りに広大な狩場で、目当ての獲物(同人誌)があるブースをいち早く探索し、実弾(金)を撃ちまくって、それらをGETする。いいものをねらい撃ちするポイント主義のハンターもいれば、じゅうたん爆撃的にあたり一帯を買い占めにかかる者もいる。いずれも、4時が過ぎて帰りのバス停に並ぶころには、両手にずっしりと重い紙袋を下げている。この充足感は、シカ狩りのハンターたちが、夕暮れに、自動車の屋根に獲物の巨大なヘラジカをくくりつけて帰途につくときの気分と同じだろう。ネットショッピングなどが全盛になり、ブツも現金も介在させずに買い物ができるようになったこの時代、ショッピングという行為に付随している狩猟性と賭博性の娯しみを、人はこういう会場でしか享受できなくなりつつあるのだな。

 サイン、夏コミほどではなかったが、それでも一○○人以上にはした。怪奇マンガコレクター掲示板の人たち、裏モノの読者なども大勢来てくれて、寒い会場も(本当に今年ゃ寒かった)熱気にあふれる。荷宮和子さん、東大新聞社の人たちにも挨拶。大森望さん、“唐沢総受け本を買い損ねた〜”と残念そうに言う。

 岡田さんのところも新刊落ちたにかかわらず大繁盛。と学会に比べると女性の客の比率が高いところがくやしい。官能倶楽部の隣に、ちょっとイカれた奴が出店していて串間さんなどがかなり腹を立てていた。これが岡田斗司夫の真向いなのだが、隣の睦月さんや安達さんに、ずっと“そもそも岡田斗司夫のような芸人にはオタクの何たるかがわからないのであって、ボクはあの人の見解には納得できないモノがあるので・・・・・・”などとうるさく話しかけていたそうである。岡田斗司夫のように目立つ人物を徹底否定することで、自分がその相手とタメの身分であるかのように思い込むというのは、素人オタクの常套である。

 岡田さんのブースには、あのセバスチャンまでわざわざ来日していた。そこへロフトプラスワンの大魔王アカギくん来店。日仏二大オタク怪人のツーショットが見られるとは、と岡田氏と二人、自らの眼福に感謝。ネタ用に、と本やブツをプレゼントしてくれたファンも大勢いた。とにかく、感謝々々。

 3時半、撤収。販売を手伝ってくれたと学会メンバーと、タクシー相乗りし、売り上げ金のみを取り敢えず渋谷の家に保管。二次会の算段に移る。新宿の『しゃぶかに合戦』で、と学会と官能倶楽部、日曜研究家関係、合同打ち上げの幹事を務める。今回は鶴岡のドリフトは人数が多いので別行動。K子、ひえだオンまゆら、永瀬唯、藤倉珊というメンバーも出席して、にぎやかな会となる。二次会から、仕事帰りの談之助師匠も参加。二十名近くでお好み焼き屋。さらに三次会はカラオケ。ヤバ関係替え歌大会になって、十二時近く、解散。体力は微塵も残ってないが、テンションだけはやたら上がってヘロヘロ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa