裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

火曜日

アボガド

 朝、8時起き。プチトマト、スープ、コーヒー。リンゴ、冷やそうと思って冷凍庫の中に入れ、出し忘れてカチカチにしてしまう。日記書いて、10時に眼科。右目に出来たギ膜なるものを除去して、目薬新しいものに変えてくれる。今年の風邪はどうも目に来たり胃に来たり(心臓に来て死んだ人もいるという話)タチが悪いらしい。

 メディアワークスのテープ起こしが届くが、これが爆笑もの。私のしゃべりを、もう正直にそのままソックリに文字にして記しているため、ほとんど文章のテイをなしていない。
「極端なその、映画を、というものを、良い映画悪い映画というような。その映画を見るというね。評論家でしたからね。そしてその映画に対する分類。作られた年代、監督ごとの作風の違いといった、そういう事を分類してこの監督はこれですね、いいですね。ヒッチコックもうこれは素晴らしいね、とかね」
 まるで精神病患者である。逆に言うと、われわれの日常の会話というのが、みんなこういう具合なもので通じているというのがすごい。これに手を入れねばならぬ、と思うと頭を抱えてしまう。

 昼はシャケのミソ漬けと葉トウガラシの佃煮で御茶漬け。なをきと電話。こないだのゴジラの悪口から、これからのカイジュウ映画はどうあらねばならぬか、などということを延々話す。どうも目のせいか、このところバカ話などで発散していないせいか、仕事すすまぬせいか、鬱っぽい。

『アエラ』からインタビュー依頼。東大新聞のアイデンティティ論読んで興味持ってくれたらしい。来年はこれに関する発言が増えそう。しかし、この日記でもそうなんだが、アイデンティティってコトバ、ひとつの文章に三度以上出てくると読んでいてうざったくなるのが欠点だな。“ティティ”てのが大体、人をバカにしている。

 2時半、時間割で学陽書房。時間間違えて遅れて行く。書店用サイン本追加。来年の出版打ち合わせ。読者からのお便りの中に、定価(1600円)が高い、と怒っているのがあり、“人が唐沢ファンだから高くしても買うだろうと思ってナメてるな”と書いてあったそうである。なるほど、私の本は長いこと、“若い人が読者層だから”と、定価を1200円程度に抑えてきた。しかし、古書関係の本を買うような読者は、ふだんは2000円、3000円の古書を平気で買ってる人たちである。1600円が高いとは言えないだろう。今年後半の出版物は、『裏モノの神様』が1300円、『B級裏モノ探偵団』が1400円、『トンデモ本女の世界』が1500円。ここらで価格革命ということになるかもしれない。

 パルコブックセンターで立ち読み。『本の雑誌』で坪内祐三氏が今年の三冊に『B級学』を入れてくれている。ところで、ここにはまだ『裏モノの神様』が並んでいない。どうなっておるのか。

 この日記の通りすがりの読者さんから指摘あり。6日、7日の朝食の記述に“アボガド”とあるが“アボカド”が正しい、とのこと。まさにその通り。ヒッチコックの『サイコ』で、マーティン・バルサム演ずる刑事の名前が“アーヴォカード”で、これは先祖がアボカド農園でもやっていたのであるか、というような雑学も披露したことがあったのだが、つい、“ガド”とやってしまう。どうしてかと思って確かめてみたら、なんと、この日記に使用しているワープロMacVJE-γではアボカドでは変換されず(“安保角”になってしまう)アボガドで変換され、ATOK12でもアボガドアボカド両方変換されることが判明した。日本ではアボガドの方で定着しているようである。

 他にちょっと日記チェック。“侘び住まい”を“詫び住まい”にしてしまっているとか、“特効”ではなく“特攻”だとか、“一万田尚人”でなく“尚登”だとか、いろいろ間違いあるが、めんどくさいので訂正せず。

 6時、また時間割。K舎と、来年回しになってしまった書き下ろし2冊のスケジュール打ち合わせと、新担当引き合わせ。新担当はこないだまでI出版で私の担当だったFくんである。気ごころも能力もわかっている仲なのでやりやすいが、緊張感もないので、また延びてしまわないか、と心配。I出版で一緒に担当だったキタダくんは出版に失望して、戸塚の方で葬儀屋につとめ、“天職を見つけた”とハリきっているらしい。結構なことだが、葬儀屋が天職というのもなかなかすごい。
「カラサワさんによろしく、また何かありましたら、ということでした」
 と伝言。何かありましたら、と葬儀屋さんに言われるのもこれで(笑)。

 六本木まで出かけて買い物。ABC、まだ『裏モノの神様』マンガのところ、しかも平でない。まだ『B級裏モノ』や『カラサワ堂』が平なので、後回しにされているのかもしれない。・・・・・・いや、モノカキにとってこれは一番気になることなのよ。名著『ドルードルしよう』を書いたユーモリスト、ロジャー・プライスは、出版社を訪れるときは必ず、以下のような文句をわめきながら入ってきたという。
「印税計算書をごまかされていないとどうしてわかる?」
「なぜ新聞にちっとも広告が出ないのだ?」
「なぜ××書店のウインドーに私の本が並んでいない?」
 著者の出版社に対する苦情、まさにこの三つに尽きる。

 夕食、一口カツ、ネギま風鍋(まぐろでなくハタを使ったので“風”)など。LDでアニ17、18話。まだ序の口。
「古本屋を回ったんだが、あの本、絶版らしくて」
 というセリフがあった。おいおい、“絶版だから”回るんじゃないか、古本屋ってのは。あと、ホームズのビデオ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa