裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

土曜日

ドラッグ

 しまった、土曜なのに『ぶらり途中下車の旅』を見損ねた。あの滝口順平の“おやおや、○○サン、どちらへ〜?”を聞かないと週末という気がせん。
 前にモノカキには七曜がないと書いたが、土日は〆切催促の電話がない。これがホントウにうれしい。モノカキでなくてはわからぬ解放感。もっとも、中には土曜営業の編集部もあり、個人で電話かけてくる編集者もあり。今日も夜、美術出版社のKくんからあった。とはいえ、土日はどうせ印刷所も動いてないし、引き伸ばしも楽。こんなこと日記に書くと己が首を絞めることになるが(笑)。
 編集者は休みでも女房は休まないので、せっつかれて学研の原作を書く。資料調べに時間がかかる。図版資料がやっかいなんだよな。それと、朝日新聞コラムのゲラチェック。最近書いた原稿に、そういえば立て続けに編集者から“面白かったです”というメールをもらう。お世辞だろうが、この一言がフリー商売には何よりはげみになるんだよな。大して手間もかからぬと思うこのお世辞を、何か言うとコケンにかかわる、と思うのか決して口にせぬ編集のいかに多き。面白くなくても言っとけ。で、もう頼まねばいいだけの話なんだから。
 1時外出、西武デパートで黒のスーツを買う。実家の弟(養子)の結婚式用。そこのレストラン街のソバ屋で昼食。豚汁仕立てのしし南せいろ。まずかった。ここのところ、外食のランチ、ハズれ続き。
 パルコブックセンターで立ち読みした某サブカル雑誌の映画欄に、ジョニー・ディップ主演の『ラスベガスをやっつけろ!』の紹介が載っていて曰く、“ドラッグの症状をこれほどリアルに表現した映画はない。だから、観る方も捕まらない程度にドラッグをキメて観るべき(大意)”。
 おいおいおい。主人公たちがドラッグをやってるからってすぐ、ジャンキー向け映画と短絡する、若いライター(20代半ば?)にも困ったもんだ。この映画は、ドラッグがカルチャーの最先端だった70年代初頭のアメリカを描いた、ノスタルジー映画なのだ。冒頭でカタログ的にありとあらゆる種類のドラッグを並べてみせているのも『日曜研究家』的な(ちょっと違うが)その指向の表れで、やたらリアルなドラッグの幻覚の表現は、70年代にそういうバカやった世代がゲラゲラ笑いながら観るためのもの。マジにドラッグ決めて観てたら、そういう仕掛けが全然読みとれないでしょうが。
 しかも、監督のテリー・ギリアムは、この当時、イギリスに渡ってかの『モンティ・パイソン』の製作に没頭しており、そのノスタルジーを共有できる人物ではない。つまり、半故郷喪失者であるギリアムが、アメリカの夢の終わりを再構築して描き出した架空の青春の追体験映画という、いかにもギリアムらしいヒネクレた作品なんだよ。
 この程度のことも読み取れないライターに映画評書かせているあたりが、当今のサブカル誌の文化程度。情けない。
 ドラッグで思い出して、家に帰って、積ん読になっていた大原広軌&藤臣柊子の『精神科に行こう!』を読む。パニック・ディスオーダー経験者の著者二人が、精神状態がトラブル起こして病院へ行き、クスリをもらうのは、風邪引いて医者にクスリをもらうのと同じくらいフツーのことなんだよ、と説いている本。私も基本的には同じ意見だし、精神を病んでいることを特権として自慢しがちな連中に読ませたい好著なのだが、著者たち(特に藤臣さん)があまりにクスリに信頼をおきすぎているのに、ちょっと心配になった。デパスをベタ褒めしているが、このクスリ、確か常用してると間欠的記憶障害の副作用があったはず。発売2ケ月で4刷りになっているヒット本だけに、も少しそういうあたりへのフォローがあってもいいような気がする。
 8時まで書き下ろし原稿などチョボチョボ。それから夕食の準備。ネギソバ、洋風魚煮込み。酒のつまみに作ったカキのミソマヨネーズ焼きが結構。ビデオで日活ロマンポルノ『性談牡丹灯籠』。監督が曾根中生だから、もっと大胆に原作を脚色しているかと思ったら、意外に円朝の人情噺に忠実だった(萩原新三郎が浪々の痩せ浪人、というあたりは原作を変えているが)。現在のポルノ映画の極低予算に慣れっこになっていると、この程度の時代劇でも豪華に思えてしまう(笑)。なにせ中野貴雄など、和風旅館で大奥ものを撮ってしまう(部屋の隅のテレビなどには風呂敷をかけてごまかす)のだからなあ。
 その後、何か洋画が観たくなって、『007トゥモロー・ネバー・ダイ』をちょっと観るつもりが、ついズルズルと終わりまで観てしまう。別に格別おもしろいわけではないところがいいんだろう、こういうものは。悪党カーヴァー役のジョナサン・プライスは貫禄なく、期待ハズレ。ビデオのハシゴで、缶ビール小2カン、カルバドスのソーダ割り2杯、アクアビットワンショット。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa