裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

月曜日

芭蕉フェイク集

古池や 蛙飛び込むと見せかけて 飛び込まない

※年末特番『空想共和国ニッポン』収録

朝、2時に目が覚め、あ、まだ寝られるとうれしくなり、1時間寝、30分寝、と繰り返していたら7時半まで寝てしまった。全部あわせると10時間くらい寝ている。起きたらオノからメール、まだ体調不良で今日は出社不可とか。とはいえノロではないようなのでよかった。

今朝は出が早いことをあらかじめ伝えて母に作ってもらっていたサンドイッチと茶わん蒸しという変な朝食をとりつつ、支度。黒のワイシャツにネクタイを数種類づつ、衣類バッグにつめる。8時45分に家を出るはずが、やれ鍵がない、やれ紙袋が、とドタバタして、出たのが9時5分前、というのはもう、いつものこと。

タクシー、運転手さんオドオドと“混んでるんで遅れます、遅れます、すいません”と繰り返すが、混んでいたのは青梅街道のみで、後は比較的スムーズにすすみ、集合時間9時半ジャストにTBSロビー到着、Tさんと落ち合う。ロビーにバカでかいスケキヨ人形が置いてあって驚く。

最初にBS−iの企画室で、私と山田玲奈のMC二人だけ、流すビデオを先に見る。最初はゲストたちと一緒に、番組中でもいいですということだったが、やはり、どういう映像が入っているか、先に知っておかないとMCがMCでなくなる。おかげで早入りになり、結果的に昼の弁当を使い損なったが、これはよかった。ゲストたちに
「さあ、次はこういう映像があるんです」
と教えられて、番組のナビゲーターという性格がはっきりと出た。

なにしろ、2時間の番組一本で、サブカル(と言っているが要するにオタク)文化の、“漫画”“アニメ”“特撮”“ゲーム”“コスプレ”“フィギュア”を全部、見せてしまい、なぜ日本がこれらの文化のトップにたったか、そのルーツを解き明かそうというのだから忙しい番組である。漫画が鳥獣戯画、アニメは浮世絵、特撮(ミニチュア)、フィギュアは根付、というようなものはまあ、かなりこじつけで言えば言えないこともなかろうが、
「ゲームのルーツがからくり人形」
というのは苦しすぎ。ここらは私の方でフォローを入れることになる。

ビデオコメントで出演の樋口真嗣監督の、
「特撮は制限の美学だ」
という言葉が非情にカッコいい。
「われわれはCGという、どんな映像でも作れるツールを得た。しかし、それで作った映像は、われわれが見たかったものではなくなってしまった」
 そして、その言葉に続く、セットを組んでの佛田洋監督の『俺は、君のためにこそ死ににいく』の特攻シーン特撮現場が、もう素晴らしくて。

見終わって楽屋に。玲奈ちゃんに昨日の焼き菓子を渡す。玲奈ちゃんがミニチュア撮影が好きだ、というので、特撮同人誌を送ることを約束する。ゲストたちと狭い楽屋に入れ込み。よゐこの有野晋哉、江川達也両氏がマネージャーといろいろにごやかに話している間で、スペシャルゲストの鈴木伸一さんがぽつんとしていらっしゃるので、
「先にメイクを……」
という声を無視して、挨拶し、なみきたかしなどの名を出して自分の立ち位置を説明。鈴木先生、
「そう言えば唐沢さんってアニメーション協会に入ってらっしゃるんですよね、昨日名簿を偶然見ていて驚いちゃって」
とおっしゃるので、
「いや、あれは片山雅博に無理矢理入れられただけで……」
「ああ、片山くんともお知り合いで」
と、打ち解ける。こういうときは彼らと友達でよかった、と思う。

メイクも楽屋で。し終わると、もうすぐにスタジオへ、と案内される。服はコタツに背広、ネクタイというのも固いので、着てきた黒セーターのままとなる。ブルーバック用スタジオで非常にせまい。
そこにしつらえられたコタツに、私、玲奈ちゃん、江川さん、有野さん、加藤夏希ちゃん、さらに鈴木先生まで、ゲスト全員が足をつっこむ。掘りゴタツでないのがつらい。鈴木先生など角席なので、コタツの足をはさむ形で足を入れねばならない。考えろよという感じ。

収録開始。ナビゲーターとして番組を仕切るが、ゲストでバンバンと発言していくのは江川さんなので、主に江川さんと私のやりとりになる。マンガのコーナーでビデオで夏目房之助さんがしゃべるが
「映画の手法を手塚さんが新宝島で取り入れて……」
とやるのにこっち(スタジオ)で
「でも、手塚さんが最初ってわけじゃない」
「『スピード太郎』とかあるし」
「そもそもマンガは戦前にもかなり発展していて」
とか、またジャンプの王座陥落事件の原因を夏目さんが述べたときもいろいろと裏事情のバラしなどあって、加藤夏希ちゃんが
「こっちのやりとりを映した方がよくない?」
と言うほど。

アニメのところで『カリオストロの城』のルーツで『王と鳥』が紹介されたのは私にとって欣快の限り。さらに『ヤッターマン』のアイちゃんの変身シーンを紹介できたのも、『アニメ夜話』の仇を討ったという感じでうれしかった。この制作、例のこじつけを除けばかなりがんばっている感じである。秋葉原のビデオではちゃんとセバスチャンが出てくるし。江川さんは『やぶにらみの暴君』も『海の新兵』も『くもとちゅうりっぷ』も知っていてオタク的知識もあるな、と感心
していたが、米澤嘉博氏が亡くなったのは知らなかった。……新聞とか読まないのだろうか?

加藤夏希ちゃんも、知識が豊富で頭がいい。ポン、と話題をふると、ちゃんと返ってくる。“アイドルなんて作られた虚像”というイメージはもう最前線では全く成り立たない。やはり頭がよくないと生き残るのは無理なのである。コスプレのところでロシアのコスプレ娘、ジェーニャがメーテルのコスプレで出演。

それにしても、時間がないのか、イキオイがいいからこのままイケイケでやろうとしているのか、2時間番組で4時間回しは決して長くない収録時間だが、休みが一回もないのには驚いた。私は朝飯を食べただけだし、玲奈ちゃんもそうだろう。他のゲスト陣も、11時入りであるから、昼はまだの可能性が高い。おかげでコタツの上に置かれたミカンが売れること。

なんとか最後まで回し通してラスト。私が番組の中で口にした“伝統からの創造”という言葉(自分では覚えてなかった)をテーマとしてまとめたい、と言うことで、私と玲奈ちゃんのみ録りたし。玲奈ちゃんに
「今日は私がしゃべりやすいよう、いろいろふって下さってありがとうございました」
と礼を言われるが、実は私の悪いクセで、つい進行のセリフをアシスタントから奪ってしまう。それに途中で気がついて、
「……と、いうわけで、じゃ、玲奈ちゃん、どうぞ!」
とフっているだけであった。

とはいえ、今日は自分でも司会進行役をうまくつとめているな、という感じで自信もって出来たが、有野がお笑い役をきちんと勤めていたことはじめ、夏希ちゃんもお飾りでなくちゃんと自分の持ち分を心得、鈴木先生が押さえとしてゲーム・コスプレに至るまでにコメントくださり、非常に役割分担がうまくいっていた人選だったからだと思う。やや、江川さんがやかましかったが。樋口さん佛田さんのミニチュア撮影がやはり一番ウケていた。

楽屋でメイク落とし。メイクの女性が
「今日の番組、面白かったですよ! 地上波でやればいいのに」
と言っていた。メイクさんがこんな発言するのは珍しい。鈴木先生とタクシー待ちの間、しばらく雑談。
「しかし、いろんな分野にお詳しいですねえ」
と言われて恐縮。多芸無才ですので。クラシック・アニメを若い人たちに見せる重要性などを話す。“大学で教えるなどというのは、やはりお忙しいですか?”とフラれたので、アカデミズムは嫌いで、と答えておく。しかし、クラシック・アニメの本を出す、と言ったら大変に喜んでおられた。

タクシー来たので、挨拶して辞去。新中野の方に帰り、仕事、のつもりが気力が抜けて、しばらくグダグダしてしまう。『空想共和国ニッポン』、日記でリンクした段階ではまだ画像も何もなかったが、数時間後に見ると、もうバックも合成された画像が載っていた。早いこと。早いと言えば、番組で検索かけたらFDの女性が今日の収録のことをmixi日記に書いていて、私のMCを褒めてくれていた。これも早い。

BSーi1月1日(月)21:00から
『空想共和国ニッポン』
http://www.bs-i.co.jp:8080/main/entertainment/show.php?0068

図版資料を講談社にバイク便で送る。来年のお仕事について、某紙から連絡など。mixiで、かたおかみさおの作品がNHKでドラマ化とのニュース。めでたし、と喜んだ書き込みをする。K子、仕事場引越の準備いろいろしている。猫も仕事場に連れていくとか。

NHKプレミアム10で『サン・テグジュペリ 愛の軌跡』を見る。このあいだのキャンディーズもそうだったが、さすがにハイビジョン化に備えてNHKは力の入った番組をどんどん制作している。身ながらモツ鍋を作る。サン・テグジュペリとは似合わないね。昨日新宿で食べたモツ煮はおいしかったのだがやや味が濃厚、家で食べるにはもう少しあっさり目の味が好ましい。と、いうことで作ってみた。

白モツを昆布出汁と酒だけでコトコト煮て、煮上がるちょっと前に崩した焼き豆腐とネギを投入。火を止める寸前に塩をぱらり、ゴマ油タラリ、好みで黒胡椒を。ネギの青いところを刻んで上に。モツそのものの味が好きな方にはこちらの方がいいかも。焼酎にもあう。臭みが気になる人はショウガをひとかけ、一緒に煮るといいだろう。
これとタラバカニ爪(450円)に溶かしニンニクバタをソースにしたものとで、酒。黒ビールとホッピー。DVDで『バットマン・リターンズ』など見て、1時半、就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa