裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

日曜日

マダム・エビフライ

♪あーるー晴れた日にー、天ぷらをー、あげーるのー。

※河崎実監督『トンデモホラー』撮影現場見舞い

朝8時起床。なんか、アホみたいに不吉なイメージが羅列される夢を見た。

・バイキングに虐殺される人々。

・死体や臓器などの陳列棚。

・墜落する飛行機。

・飛んできてクモの巣にかかるボロボロの鳩。

・目をむいたニワトリの生首。

・けいれんして死ぬ犬をじっと見つめるかわいい猫。

・でも、そんな中で私は行列の出来ている上映会に顔パスで入れて“ラッキー”と喜んでいるのであった。

どういう前兆かね? とmixi日記に書いたら中野貴雄
さんが夢判断を。それは逆夢だ、と。

・「金星大魔艦」だけがスピンアウトして映画化。

・おいしいホルモン料理が食べられる。

・オークションで珍しい飛行機プラモを落とす。

・うまい鳩料理が食べられる。

・うまい地鶏が食べられる。

・うまい犬鍋が食べられる。

・でも上映会にだけは間に合わない。

上映会には間に合いたいなあ。入浴、着替えのときに寒さひとしお。暖冬・雪不足でガーラ湯沢などはスキー場閉鎖らしいが、朝は寒い。

9時朝食。コーンスープ、洋梨。車だん吉が久しぶりに『ぶらり途中下車』に出ていた。もう彼にも孫がいるのか。

こないだ、私と片山雅博氏が同じ紙面にいた、という三十数年前の雑誌『ユーモリスト』の休刊号投稿欄のことを書いたが、そのこと(でもないが)を講談社『モウラ』の原稿に書いて、確認のためもう一度見返したら、また一人知り合い発見。漫画評論家で、元『JUNE』編集長の佐川俊彦氏。マイナーきわまりない漫画雑誌の一投稿欄に、将来業界人になる読者が三人も投稿していた、というのはちょっと珍しいことに属するのではあるまいか。

資料をネットで散策して読む。執筆予定の台本に出てくる、ある人物の造形につき、躁病気質患者のことを調べる。風野春樹氏のサイトがやはり参考になる。
「(躁病患者は)負けん気が強く、強気で、鼻っ柱の強さの陰に小心さがかくされており、積極的・活動的である。物事に熱中しやすく、一度やり始めるととことんまでやらないと気がすまない。常識的である反面、理想を追い求め、正義感が強く、潔癖で非常に気をつかい、几帳面である」
                     (森山公夫『両極的見地による躁うつ病の人間学的類型学』)
これだけ見ると大変にいい人、集団のリーダーに相ふさわしい人物
のように思えるが、
「躁病者は相手のゲーム、周囲のゲームに対して“立法者”ないし“法の番人”としてふるまう傾向があるといえよう。躁病者は、“私がルールブックだ”とかつて宣言したあの高名なアンパイアにどこか似ている」
                                (岡本透『躁病ゲームについて』)
つまり、彼(躁病者)が“いい人、常識家、面倒見のいい親分”であるのは、自分のルールに従う者に対してのみ、で、自分の命令に従わない、あるいは自分の判断常識を超えている人間に対してはそれを徹底して排除、糾弾、罵倒でのぞみ、他人には他人のルールがあることを理解しようとしない、というわけだ。ある意味、私などでも自分であちこち思い当たる、日本の典型的家父長像であるな、これは。自分のこういうところを自認しないままでいると、対外的に最初は人当たりがよくて後でトラブルを生む、最も困ったタイプになる。と、いうことは話にしやすい、ということでもある。

昼はキャベツスパゲッティ(ナポリタン味)。早めに食べて、東中野に向かう。昨日も東中野、今日も東中野。住んでいたころは別にして、二日続きで東中野というのは珍しい。今日は河崎組の撮影の陣中見舞い。新宿でイチゴを買って差し入れ用にする。

時間に余裕があるので、新宿西口から小滝橋通りの線路沿いを歩いていく。昨日の事件現場をせっかくだから見てみたい、という酔狂心からである。植え込みのあたりに毛布が捨ててあって、赤い染みがあったように見えてちょっとギョッとするが、単に赤い模様だった。心理作用だろう。歩いていたら、オーバーを着た男性が近づいてきて、
「××新聞ですが、金曜日の夜、ここらへんをお通りになられましたか?」
と訊いてくる。そう都合よくはいかない。

そこから大久保の方へ歩く。コンクリの壁がずっと続く一角。ここもかなりイメージとしては異様な場所だろう。総武線一駅、そこから乗って東中野。

日本閣、いま、昔の建物があったところは工事中で、隣に『West53rd』という新館が建っている。NYのアートギャラリーをイメージした結婚式場だそうで、入り口のところには黒人のドアボーイが立っていた。

東中野っぽさがどんどんなくなっていくなあ、と思っていたが、そこから一分も歩かないところにある喫茶『ローズ』はまん真ん中の東中野テイスト。よくまあ、こんな小さな、下町風の喫茶店がまだ残っていたなあ、と思えるような店。そこで河崎監督、撮影している。子供が二人、立って撮影しているのだが、この子供たちの顔(ことに男の子の顔)がいいんだねえ。まあ、妖怪役なのだが、よくまあこういう顔の子を見つけてきた、という感じ。

出演しているテリー兄さんこと佐々木輝之氏と挨拶。それから、主役の子にも挨拶、外見が役作りのため(なにしろ時代遅れの白いベレー帽!)にまったくわからなかったが、監督がプライベートで撮った、昨日撮影だったという彼女のラブシーンでのデジカメヌードを見せてくれて、アッとなった。カルトAV女優の天海麗ではないか。『Frame Graffiti』でAV界にメガネっ娘ブームを起こす一端となった子で、実際の彼女はホントのいいところのお嬢さんかつ、アリゾナ州立大学生態学部の女子大生だったという驚異の学歴を持つ子である(現在は日本の某大学にやはり籍を置いているそうだ)。佐々木さんはまるでそういうことも知らず、昨日ラブシーンを撮ったそうである。

本人は、撮影の合間に話すと、そういうインテリかつお嬢様とは思えない、かなり翔ンだところのある女の子。頭のよさと天然って関係ないのか、としばし、人間の脳の造りに関しての謎に思いをはせる。謎と言えば、彼女の顔がちょっと立川談慶に似てる、と思って、何回確認してもそう思ったのだが、しかし麗ちゃんはかわいく、談慶はかわいくないのはどういう仕組みなのか?

「ワンカット、ヒッチコック風に出てよ」
という監督の指示で、喫茶店に入る客役でカメオ出演。テリー佐々木も昔この近辺に住んでいた彼女とつきあっていた、というので東中野ばなし。
「東中野って、銭湯が閉まるのが早くてねえ」
「そう! ボクも彼女のアパートに泊まり込んだときにはそれで困ったもンです!」
などと。高嶋ひとみちゃんがロケバスの中で休んでいるというので行って少々話す。お願いの儀などいろいろ。

テリー佐々木と麗ちゃんの芝居の撮影、見学させてもらう。二人とももうワルノリ風で楽しいこと。現場でのこの気をつかわない楽しさが河崎組の魅力なのかもしれない。制作の仕事をしている、という若いスタッフがメイキングをビデオで撮っており、私もコメントを求められる。彼、顔がやけに整っている青年で、役者なのかなと思ったら、監督が紹介してくれた。俳優の堀内正美さん(『シルバー假面』にも出演)の息子さんなのだとか。自身は俳優は嫌いで、制作の方に回りたいのだそうだ。名刺交換。

喫茶店のガラス戸に鼻をべたーっとおしつけるという麗ちゃんの思い切った演技に続き、今度は彼女の夢の中で、彼女の恋人(テリー)が謎のメガネ女(高嶋)といちゃつきながら歩くシーン、通行人たちがギョッとした顔で見ている中で、二人のすッ飛んだ演技、最高。テリーはひとみちゃんを“怪女優。演技も凄いが素も凄い!”と絶賛していた。

そこのシーンでテリー&高嶋コンビの撮影は終了。しばらく続きを見て、二人に
「どうです、お茶でも?」
と誘う。もちろん、お茶というより“おちゃけ”。ところが、駅の近辺の店がどこもかしこも閉まっている。
「おかしいなあ、日曜だからかなあ」
と思って時計を見たら、まだ3時半なのに仰天。河崎組の撮影の早いことは知っていたが、まだこんな時間だとは。じゃあ開いてないのも仕方ない。では、新宿へ出ましょうと総武線で新宿へ行き、思い出横丁へ。手近の店の二階席へと上がる。モツ煮込みと焼き鳥、ポテトサラダなどでビールで乾杯。

隣の席でピーマン串を作ってる中国人のお姉ちゃんとかからかいながら、バカばなし。佐々木輝之とこうやって飲むのは初めてだが、思った通り楽しい酒。身振り手振りを交えて、声がまた舞台役者で通るから、
「すいませーん、すいませーん」
と、某所でそう叫んだ、というところで店のお姉ちゃんが
「はーい」
と上がってきてしまった。他にも山田組での撮影の話、あぁルナの芝居の話、私が紀伊國屋で橋沢さんと共演したとき、私の芝居を観たあぁルナのメンバーがみんな“面白い”と言ってくれた話など、いろいろ。ビールお代わりお代わりしていたらお姉ちゃんが、
「あと15分ほどで〆でイイデスカ」
と言ってきた。なんだよ、盛り上がっているのに、と思って時計を見たら8時近く。3時間半も飲んでたかと驚く。時間が経つのを忘れていた。ひとみちゃんも飲まないがよく気が回り、楽しい時間だった。

さっきのローズもそうだが、この一角も、古くて汚いから価値がある、という場所。トイレに行ったら、見事なくらい“新宿の酔っ払い”というのを演じている親父がいる。また、観光なのか、外人の親子連れが二階席で隣になった。私は勘定を支払いに下に降りたが、テリー&ひとみコンビはしばらく、その外人客とどういう言語でか、話をしていたようである。

二人と別れて、明日の撮影の差し入れ用のお菓子を東急で買い、地下鉄で帰宅。ネットなど見て、焼酎飲み直し。ビデオで007もの見返したりして。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa