裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

日曜日

コモド電話相談室

オオトカゲに襲われているんですけど、どうしたらいいですか?

※『吸血ゾンビと妖怪くノ一大戦争』撮影。夜、母と合流、『冠太』。

朝8時20分起床、あわてて入浴。浴槽のせまいこと、なかなか凄まじ。もうあと3キロ太ったら浴槽内にしゃがむことも出来まい。大柄な人はどうしているのか? シャワー浴びるにも大苦労を要す。

支度し、9時ジャストにあわてて階下へ。喫茶のところで朝食、納豆、生卵、サラダ。食べながら台本に目を通す。ところが妙に時間に余裕。見ていたテレビの時刻表示を見ると、まだ8時過ぎ、である。
どうも部屋の時計が1時間進んでいたらしい。いかにもこの宿らしいといえばそれまでだが呆れた。

9時、Sくん迎えに来てくれて昨日の撮影現場へ。車中話すが、Sくんは薬剤師だとか。
「薬剤師はつまらないので」
この仕事についたそうである。薬剤師が実際つまらぬ職業かどうかは途中でドロップアウトした自分にうんぬんする資格はないが、親父もときおり、つくづく医者にならず薬剤師になったことに関しては“失敗だった”とぼやいていた。

現場、昨日の眼鏡店二階。さっそく着替えて撮影に入る。マッドハッター衣装に新調のシルクハット姿、高嶋ひとみちゃん、大野由加里ちゃん、くるみちゃんなどに大ウケ。

演技プランをどうしよう、と、この段になって考えるのも凄いが、台本上では、私の役のカラーサワ俊一郎は、前作の『化猫魔界少女拳』のときの“唐沢俊一(役名)”と比べて、名前のインパクトだけ大きくなった他はあまり差のない解説キャラである。せっかく衣装も派手になったのにそれではつまらない。“です、ます”口調を改めて、潮さんのメフィストでやってみようかと、ゆうべホテルで読んでみたりしたのだが、イマイチ。雑談している中、監督がひょいと
「外国帰りの設定なんで外人調なんてのも面白いかも」
と言ったのを、ソレダと採用することにして、全て
「オーウ、スゴイデスネー」
と言った、大月ウルフ式のしゃべりにする。

なにしろ、私の出演シーンを今日一日(半日)で全て撮ってしまおうというのだから、いろいろ忙しい。ほとんど休む間もなく。さまざまなカットを。外人訛りをスタッフさんに
「それはウルトラセブンのボガート参謀でやってるんですよね」
とか言われた。

今日は出演者中、男性は私ひとり。後は全員女優さんだけという、ハレム的な状況である。私は中国娘の剣の達人、愛玲とのコンビの妖怪学者の役なので、愛玲役の森愛子ちゃんと一緒のことが多い。愛子ちゃんはファントマの役者さんだが子役出身で、『必殺』シリーズでは村上弘明といっしょにお風呂に入っているという。山田監督曰く
「彼女、まだ22歳ですが芸歴は20年なんです」
映画業界では先輩女優さんを“姉さん”と呼称するが、私もこれからは愛子姉さんと呼ばねばならない。村娘役の岩澤侑生子ちゃんもちょっと往年の東映の美少女スター、岩村百合子に似ている可愛い子だが、やはり芸歴は長く、侑生子姉さんなのだそうだ。

侑生子ちゃんは京都の梵鐘の鋳造師の家の娘さんだそうで、なんと、『トリビアの泉』の最終回の鐘のトリビアは、彼女の家に取材が入ったそうである。京都造形大の院生でもあるそうで、ひとついま、温めている企画が形をなしたら、ぜひ、と言っておく。

シルクハットからはみ出る髪の毛が、最近カットに忙しくて行っていないので延びに延びて、逆に役には非常に合ったのだが村娘役のくるみちゃんという女優さんに、
「それ、地毛ですか」
と不思議そうに言われた。地毛だよ、と言ったら
「よかった、これで今夜眠れる」
と。気になって仕方なかったらしい。

サクサクと撮影進行、監督は“12時までに撮影終了”するだろうと言っていたが、それはさすがに無理で、3時までかかる。途中、弁当が出るが、焼肉弁当だったのでみな歓声をあげる。これまでは予算の関係でシャケ弁とかだったそうな。五味龍太郎さん、ドラキュラ役の盛井さん、それから妖怪役の女優さんたち来て、記念写真の撮影。盛井さんはこのためだけにドラキュラのメイクをしている。コスプレ大会みたいなもので、女優さんたちも楽しげに、お互い写真を撮りあっている。女郎蜘蛛役の藤崎小梅さんと写真撮影。彼女のメイクは凄まじく印象的だが、なんと昨日はそのメイクのままで帰宅したという。
最後のシーンを撮って、私の出演シーンは終わりになるが、楽しい撮影だったし、外人演技がやっていて悪ノリできて嬉しく、何か立ち去りがたくなってしまった。映画の魔力、現場の魔力。

Sくんに西院駅わきのリノホテル京都まで送ってもらう。ネット予約したところなので、通っているかどうか心配だったのだが無事、チェックイン。母と一緒でツインをとったが、非常にひろびろとした、しゃれた部屋。今朝の太陽ホテルとの落差でよけいそう感じるのだろうが。

母とは電話で連絡がとれ、待つあいだネットをつないでmixiなど見る。アルゴH氏から、実相寺監督の通夜の礼と、例の企画、そろそろ……とのメッセージ。そうだ、今年中になんとかこっちも形を整えて準備しておかなくては、と思う。

さらにいろいろ回っていたら、竹熊健太郎氏が脳梗塞で倒れたとのニュース。症状は軽いらしいが、たぶん今年一杯は仕事復帰はできない(というか、病気が病気だけにしない方がいい)だろう。

今年の氏はポッドキャストラジオで番組を持ったり、専門学校の講師をやったり、『サルまん』をまた再開したりと、文字通り八面六臂の活躍だった。その分、はた目で見ていて、なにか無理していないか、という感じがしていたのだが、やはり忙しさが個人のキャパシティを超えてしまったのだろう。他人事ではない、これが私の身に降りかかったことであっても何もおかしくない。私の一族も、祖父、父と脳溢血で倒れてそのまま逝っている。医薬畑の家に育ったおかげで、少しは健康管理の知識を身につけているというだけ、竹熊氏よりマシというくらいである。それを思うと、朝のSくんとの会話で
「薬剤師なんか面白くない職業だからねえ」
などと言っていたのはバチがあたるかもしれない。働き盛りの入院は不安と焦燥との戦いで、こっちの方が実は病気との戦いよりつらいと思う。がんばってほしいと願う。

エディ・ワンEさんから電話。こないだの取材原稿に、大したものではないがチョイ、トラブル。こういう風に処理したがかまわないかという確認。問題なしと答えておく。

母、無事到着。少し時間があるので原稿書きでも、と思ったがおしゃべりをしてしまって、全然すすまない。放棄して、6時、タクシーで大映通りに行ってもらい、『冠太』まで。大将と母とを引き合わせる。突き出し、カニ身のあんをかけた蒸し饅頭(というよりお団子。そぼろ肉を打ち込んである)、馬刺し、牛しゃぶ、ぐじ飯。母がこの蒸し饅頭に興味をもっていろいろ質問していた。奥さんの川崎あかねさんの、昔のビキニ姿の(雷様の格好。おお、元祖ラムちゃんか?)絵はがきなども見せてもらう。Aくんも来て、猫三味線のDVDにサイン。母もウイスキーを飲んで、なにか妙にハイ。記念写真また撮って、9時くらいに引き上げる。ネットもつなぐ気力なく、すぐ寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa