裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

水曜日

おれんち・コード

あの武蔵小杉の居酒屋のメニューには隠された謎が!

朝8時起床。遊園地の遊具置き場みたいなビルの中でみずしな孝之さんと言いあいをする夢。トイレ読書の小松左京『威風堂々うかれ昭和史』、古い話大好き人間の私にとってはもう涙の出るほど嬉しい本。いいなあ、こういう昔話をウザがられずに語れるというのはと羨望する。もっとも時々はさまるギャグも古いが。

9時、朝食。トマトジュース、ホウレンソウのスープ、イチゴとブドー。ブドーは何という品種か、皮ごと食べるやつ。橋沢さんの出ている(声で)某ドリンク大手のコンテンツサイトのコント(5/1公開)をのぞいて大笑い。最近はスポンサーもふところが深いというかシャレがわかるというか。それにしても顔を裏切って声がいい人である。

原稿書きシコシコ。けんちん汁でノリ弁使う。『食の体験文化史』の森先生は、“西欧にはスープとパンだけの昼食があるが、日本では実だくさんの味噌汁と飯だけという組み合わせがない”と書いてあるが、豚汁定食、けんちん汁定食などはちゃんとある、というか私の好物でもある。

1時半出社。スケジュール、3月中は人に会うたび
「4月になれば暇になりますから」
と言い通しだったが、さっぱり暇にならぬままにもう月末である。2時、バーバラ連れて時間割。楽工社HさんKさん。今度出す『トンデモ洋書の世界』と眠田さんとのトゥーンの共著。バーバラには洋書の方を手伝ってもらうつもりだったが
「私にはこちらの方があっているような……」
という意見で、トゥーンの方にする。彼女、パワパフ(パワー・パフガールズ)のファンで、BOXセットの眠田さんの解説のファンでもあったそうだ。

Hさんとの話は実務と無駄話が混淆していて、長引くが楽しく、またこういう無駄話の繰り返しの中で、頭の中にもやもやとくらげのようにただよっている本の内容のイメージが固まってくる。そして雑談の中から、結晶化の核になるキーワードが浮かび、
「コレダ!」
と思った瞬間、漂っていたすべてのファクターがパズルのようにカチリとはまる。一昨日の二見のYさんとの打ち合せで、2冊目の本の芯が一気に固まったのもそれだった。今日の打ち合せではまだそこまではいかなかったが、それはまた会って話を重ねればいいだけのこと。

昨日のプロジェクト撤退会談で、再開の際の打ち合せ出席の義務化という話を出したとき、相手の女性が
「打ち合せのためにこちらの予定を犠牲にしろと言うんですか?」
と、さもさも心外そうに言った。彼女にとり打ち合せとは上意下達の“連絡会”でしかないのかもしれない。そう言えば
「唐沢さんの打ち合せはただの食事会になってしまうことが多い」
などと文句も言われた。ハリウッドの監督やプロデューサーたちの書いたものを読めばわかるが、彼らの多くは俳優やスタッフと食堂でたびたび打ち合せる。飯を食いながらああだこうだとラチもない話をしている最中に、企画の神様が降りてきて突如、企画というのは固まるのである。その場にいたものは、神降臨の場に居合わせた同士であり企画が進みはじめたときに中心にいられる特権を有することができる。打ち合せに誘われるのは大変なチャンスなのだ。たとえ飯会にそれが流れても。

2時間いろいろ話して4時、一旦事務所に帰る。NHKラジオから『ふれあいラジオパーティ』出演の依頼。本当にこのところNHK文化人化している。4時半、また出て金王神社近くのメディアファクトリー社、『幽』での梅田佳声先生との対談。担当Nくん、東雅夫編集長まで同席。『猫三味線』中心に猫と怪談について。さすが佳声先生、話題豊富で、怪談収集のオーソリティである東さんでも“へえ!”というような話がいくつも出る。ただし、放っておくと紙芝居に偏るので、芝居とか、物真似、都市伝説などの方にふってバラエティ性をもたせるように気をつかう(これはあとで担当者に大変感謝された)。

昔は大衆演劇の方には化け猫芝居専門の“猫劇団”などというものがあったと聞いて驚く。仕掛けと芝居が大変に凝っていて、
「専門じゃなきゃありゃやっていけませんよ」
とのことだった。とはいえ、化け猫ものだけで経営が成り立ったとすれば実にいい時代だったと言えるかも。最後に子供に本当に面白がられる娯楽は、子供に媚びないものだ、という佳声先生の持論。私もまったく同意見である。79歳の佳声先生が『西遊記』冒頭を完璧に記憶していて朗々と語ったときはちょっと身が震えた。

途中で講談社K村くんに電話、バーバラが自分の専門学校の生徒たちを連れて講談社見学に行きたいという要望を伝える。折り返し電話あってOK。渋谷駅まで佳声先生、佳江さんと歩く。金王神社をすかさず佳声先生、“キンタマ神社”と読んで佳江さんに怒られていた。この周辺、神社の森と渋谷らしいおしゃれなビジネスビルと昔の闇市時代を彷彿とさせる小さな居酒屋群がいりまじり、いい雰囲気である。ここらに事務所を持つのもいいな、とふと思った(これは後でK子に言ったら通勤に不便、の一言で却下された)。駅で別れてセンター街を通って帰宅。

『プロント・プロント』雑学原稿書いて編プロ『アルタイル』にメール。この仕事ももっと速くかかっても何の支障もない分量と内容の仕事だったが、なぜか最終〆切りの今日まで長々と引き伸ばしてしまっていた。

8時半、K子と東北沢『バル・エンリケ』久しぶりに。自家製アンチョビとハモンセラーノをオードブルにして、ムール貝のワイン蒸し、鶏の膝軟骨唐揚げ、トリモツとモルシージャ(血入りソーセージ)の煮込み、最後はあさりのリゾット。相変わらずうまいが以前より少し塩辛くなったかな。

雑談多々。庭に洗濯したTシャツを干しておいたら、シャツが地面にばらまかれて、針金製のハンガーだけが無くなっていた。どうもカラスが巣作りのために持っていったらしい、とのこと。ワイン一本とビールのみで、ひさびさにあまり飲まずに帰宅、11時過ぎには健康的に就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa