裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

日曜日

乳房に拝見をしました

見るところDカップ、なかなかでございますな。朝8時起床。入浴、メールチェック、9時朝食。

今日は春風亭昇輔あらため瀧川鯉朝真打昇進披露パーティ。朝の11時から、である。談笑のときは午後5時からだった。ブラック・談之助のときもそれくらいだったろう。一般に考えればパーティというのはそれくらいの時間から始めるものである。しかし、これはこっち(鯉朝)の方が本寸法なのである。なぜなら、まっとうな落語家は夜は寄席に出るからである。師匠連、他協会からのお歴々を呼ぼうとするなら、彼らのスケジュールに合わせるなら、必然的に、落語家のこういうパーティは午前中になるわけである。また、始まってすぐ中締めをするのも、途中で昼席で抜ける師匠連が多い故の“いつでも抜けて失礼でないように”を配慮したしきたりである。これまで、私は寄席に縁のない立川流中心に披露に出ていたので(談笑に聞いたが、末広亭の余一会に出る志らくの弟子が、場所がわからなくて人に聞いた、という話に爆笑した)フツーの時間のパーティしか知らなかっただけ、なのである。

衣装(と、つい言ってしまうが)礼服選びちょっと。開田あやさんの日記によると、昨日深夜、乗り合わせたタクシーの運転手が、私が降りたとたん、開田夫妻に
「今の、唐沢俊一さんでしょ?」
と話しかけてきたとか。まあ、ブジオのファンだったらしく、
「最近ああいうラジオ番組ないから面白くって」
ということだったのでよかったが、これまで開田さんとはタクシー中でいろんなグチとかをダダ漏れにしゃべっていた。今後はそういうことも出来ないなあ。

K子と東京駅まで丸ノ内線、そこからタクシーで東京會館。元ブラ房の吉幸などが受付でいた。寄席囃子がにぎやかに流れる中、入場。今回の披露目は春風亭柳之助、同じく昇乃進と一緒だが会場に大きく後ろ幕が並んで飾られ、われらが鯉朝のはと学会のマーク入りのもの。異彩を放ってはいる。それが芸協にはまるかどうかは別として。
開田夫妻と同じテーブルに。早川優さんや徳間書店の人や、まあ、オタクが集まるテーブルであろう。隣に、金髪口ひげの人が座り、われわれの話をじっと聞いていたが、やがて
「……アニメ関係の方ですか?」
と話しかけてきた。
「いえ、ただのオタクですが」
と答えると、
「私、その末端のもので……柳昇のせがれでございます」
と。驚く。知吹愛弓氏だった。開田さんたちも驚く。知りあいの中だったが髪の色とかで見分けがつかなかったとか。柳昇師匠が亡くなったとき、2ちゃんの落語板のスレで
「校長先生さようなら」
という『究極超人あ〜る』のファンからの書き込みに落語ファンたちが“なんだ?”ととまどっていたが、本人を声優に持ってきたその張本人である。
料理はバイキングでなくやや本格的なもの。ローストビーフがなかなか。回ってきたお姉ちゃんが『ダーククリスタル』のキアラ(キラ)に似ている、とか、オタクなこと。

司会は春風亭昇太。滑舌の悪さをさんざネタにされていたがこれは師匠ゆずりだろう。人の名前もスポンサーの名前も噛むし、起立着席の指示も忘れたりタイミング悪かったりだが、そこが昇太の芸風というか芸協の緩さというか。談笑のときはじめとする立川流の、席でにらんでいる談志家元が進行、司会、演出にダメを出さないか、新真打はもとより出席者全員が大緊張している会とは大違いである。談之助とブラックのときにはトッパナに
「今日の司会は“もう一度盛大な拍手を”なんて百姓な台詞は使わねエと思うが……」
とやって、司会の左談次さんが冷や汗をかいていた。それに比べてこの司会は楽だろうなあ、と話す。

歌丸会長の挨拶、円歌落語協会会長の挨拶、米丸最高顧問の中締めなど進んで、すぐ“御歓談を”になり、しばらくしての来賓挨拶も四人きりというシンプルさ。玉置宏、錣山親方(寺尾)にはさまれて私が鯉朝担当で壇上にあがる。昇太さんも
「えー、この人は何と紹介すればいいのでしょうか、本を書いたり、自らもテレビにお出になったり、正体不明で」
と私のことを紹介、まさに“あの”唐沢俊一。

「えー、ただいまあちらに張られております後ろ幕、柳之助、昇乃進さんのものはいかにも落語家らしいデザインで結構でございますが、一人鯉朝さんだけ異彩を放っておりまして、これは“と学会”と申しまして、どういう会かと申しますと、宇宙人であるとか、超能力であるとか、陰謀論であるとか、それからヘンな噺家であるとかを研究する会でございまして、つまり鯉朝師匠はと学会公認の“ヘンな噺家”でございまして」
と話しはじめて、一般の客をおいてきぼりにするような挨拶。『仮面ライダーストロンガー』なんて台詞を言ったら、開田さんたちの座っている席だけ大ウケ。

ところがその後でもう一人、女性が壇上にあがる。なんと声優の田中真弓さん。
「この席のお客様は私のことを誰だかまったく御存知ないと思いますが、私も、なんで私が呼ばれたんだろうと思っていましたが、さっきの唐沢さんの挨拶を聞いて、“あっ、鯉朝さんはどオタクなんだ!”とわかりまして、安心しました」
という挨拶。どういう縁で田中さんと知りあったのかと思ったら、電車の中で“田中さんですよね?”と声をかけてきたのだそうだ。ああ、オタクなるかな。しかもそのときに話題にしたのが『おお、ラッキーマン』だったかだそうで、これをもってしても鯉朝のオタク度の濃さがわかる。

で、そのあと田中さん、自分の代表作の声を何連発かで。クリリンの最期のセリフ、ラピュタのパズー、ワンピースのルフィなどなど。私は彼女の声で一番の印象はNHK教育の『おーい! はに丸』なんだが。

談之助さんがもう、大恐慌であっち行ったりこっち行ったり。奥さんが田中さんの大ファンで、
「サインもらっておかないと殺される」
のだそうで、色紙を差し出し、同人誌を差し上げ、さらには携帯で奥さんと話させる。

私も他の誰の席にも挨拶にはいかなかったが田中さんには挨拶。
「私、『クイズヘキサゴン』のナレーションやってて、スタッフが“同じような雑学番組なのに、トリビアになるととたんにグンと数字があがるんだよな”とくやしがってました」
と言う。

他に、長野出身で名古屋の獅篭を応援しているmatuさん、イラストレーターでソフトバンクホークスのマスコットキャラ『ハリー・ホークス』を描いている坂井永年さん(私のファンらしい)が挨拶に来てくれた。坂井さんにはさっそく「私と一緒に『オタクアミーゴス』やってる眠田直ってのがホークスきちがいでして、是非彼にサインを」と頼んで、眠田直さんへのサインをいただく。

K子はK子で、鯉朝へのお祝いの幟が公認会計士さんからのものだったので、ヒャーと叫んですぐ鯉朝に紹介してもらい、なにやら話し込んで名刺交換までしていた。
「これで今日はモトをとった」
と満足そう。談之助といい、何のためのパーティ出席か。

で、その後、またしばらく歓談あったあと、今度はなかなか濃いお顔の男性シャンソン歌手が壇上に上がり、中野貴雄監督そっくりのピアニストの演奏で歌いはじめる。『ヨコハマメリー』にゲイのシャンソン歌手、永登元次郎さんが出てきたが、かれにも感じが似ている。シャンソン歌手は似てしまうのだろうか。『落語とシャンソンの会』というのをよくやっているらしくて小話まで始める。非常に会場全体が、居心地の悪い場と化す。

ふと談之助、談笑などのいるテーブルを見たら、そっちでも案の定大受けで、
「こういうのを業界用語で“いい度胸”という」
と。しかも、歌うシャンソンが“二人の恋は終わったのね”とか、“恋人に捨てられて”とかという歌詞ばかり。考えてみれば、シャンソンってのは不景気な歌詞の歌ばかりであるな。元次郎さんも、映画の最後で、養老院を慰問して『マイウェイ』の“まもなく私はこの世を去るだろう……”と歌っていて、観ながらコレハドウカと思ったものであった。

歌っている最中、最前列のお年よりで、眠っているのか、首を垂れてピクとも動いていない人あり、みんなで“大丈夫か”“死んでんじゃないのか”とヒソヒソ。談之助さん来て“シャン熱ですかね”と。『寝床』のギダ熱のシャンソン版である。やっと終わってホッとしたら、
「では、アンコールで」
に談笑と二人、のけぞってマゾヒスティックな笑い。

歌はうまいと思う。しかしシャンソンはこういう、開放的空間でのパーティにおいてはあまり似合わないジャンルなのではないかと思う。

やがて三人の新真打と、各師匠の挨拶。鯉朝の師匠の鯉昇の
「私ども(小柳枝、鯉昇)含めここにいる5人全員、師匠、柳昇の教えを直接に受けていまして、言っていることの8割がよく聞き取れない師匠だったために、こういうバラエティに富んだ個性の弟子たちになったわけでございます」
という挨拶は落語家らしくてよし。自分の師匠への絶賛は心の中だけでとどめおくのが本当の芸人の常識である。たとえ自分にとっては尊敬する師匠であっても、お客にとっては一芸人。お客に対し“うちの師匠の芸を褒めよ”というのは無礼な強制にあたる。三遊亭小遊三さんの三本締めでお開き。知らないお客さんから“いいお話を聞かせていただいて”と言われる。と学会とかストロンガーの話でなく、その後の柳昇師匠とお仕事をしたときのエピソードのことである。

知吹さんの紹介で柳昇師匠のおかみさん、また鯉朝さんはじめ蝙丸さん、昇太さん、文芸座支配人などに挨拶して、地下鉄で恵比寿まで。途中、早稲田の新入生の一団らしいのがいて、そのうちの、男性が一人、
「すいません、『世界一受けたい授業』のカラサワ先生ですか」
と声をかけてきて、写真撮らせてください、と、使い捨てカメラとデジカメと携帯とで、三種類の写真を撮っていった。さっきの鯉朝の田中真弓さんに声かけた話を思い出して可笑しくなった。恵比寿でK子と別れ、そこから渋谷、雑用すませ中野に帰る。
しばらく休んでシャワーなど浴びたあと、原稿書き。『Memo男の部屋』。テーマが前にも書いたネタなのでかぶらないようにするのに苦心。某知りあいの日記をたまたま読んだら、まさにそのテーマにぴったりの内容だったので、使わせてもらうことにする。

片づけたらもう7時過ぎ。中野まで出てピーコックで買い物。10時、家でメシ。K子と一緒に豚肉でラムしゃぶ風鍋とキンキの干物、空豆。豚のラムしゃぶ風鍋は中華っぽくするために、ごまダレに腐乳(臭腐乳でない、普通のですよ)をつぶして混ぜる。これで見事にコクが増す。鍋の後をラーメンにする(中野で覚えた)が、中華ダシがないので、鳥ガラスープの素、シイタケ粉末、ごま油などで中華風にしたてる。

食べながら『旗本退屈男・謎の暗殺隊』ビデオで見る。話の途中でタイトルにある謎の暗殺隊は全滅させられてしまい尾張徳川家の将軍暗殺(宇都宮ばりの吊り天井を使って)ばなしになるという構成の難はあるが、映画の冒頭は、呪詛で将軍綱吉の命を奪おうとする山形勲の皎雲斎と、それを守ろうとする香川良介の陰陽師阿部清賢の護摩合戦という、荒俣宏的な展開で非常に面白い。呪詛の首謀者を割り出すのも陰陽道の占いによって、なのである。ホッピーと水割りでいいちこを飲み、12時には寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa