裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

水曜日

ヒッキーはつむじ風

明るく奔放なひきこもり少女が学園に巻き起こす珍騒動!朝7時目覚め、二度寝して8時半起き。メールチェックなど。空どんより、すぐ雨になる。

9時、朝食。母と昨日来ていたナミコ姉の話。若い頃のこの姉は、部屋にいるだけで周囲が明るく輝くような美人で、両親はもとより、私の母や祖母などからも一番愛され、一流会社に勤めるエリートと結婚、まず生涯の幸福を約束されているかのような女性だったし誰もがそれを“ナミコ姉さんなら当然”と信じて疑わないところがあった。バブル崩壊が全てを泡沫に帰せしめたわけだが、全てを失った今、さぞかし落胆消沈しているかと思うとそんなこともなく、案外のほほんと、こないだ食べた寿司の話などをしている。私などは人生の幸・不幸を結末の方に求めがちだが、実際のところ、幸を総量ではかれば、一生という期間のどこかで基準値を超えて幸せならば、後がそれほどでなくても人間、まず満足して目をつぶれるのかもしれない。カブのスープ、イチゴ3粒、タンカン半顆。

2時まで原稿書き。新宿へ出て、雑用すませ、それから渋谷へ。おぐりのサイン会の件でほりかわさんにメール。雨、しげし。原稿『名もニュー』最終回、書き上げる。
単行本の件で幻冬舎とアスペクトにメール。アスペクトKくんからすぐ返事。いや、こないだ談笑の会のときに上記二社の編集と一緒に単行本の話をしたんで、どっちがどっちだったか、ゴッチャになっていたのだった。

ミリオンの後書、書き上げる。本当に遅筆になったものだ。いかんいかん。『オタクエリート』なんてアホな本を出していたビブロスが倒産とのこと。BLだけ地道にやっていればよかったものを(BL出版部はすでに他社に移行したらしい)。何年前だったか、まだ富久町にあったロフトで、ビブロスの編集者に、「今、ウチ景気いいんで、なんかやりたいことあったら言ってきてください。なんでもいいですよ」とか言われたことがあった。BLが急成長したときだったな。人間と同じく、出版社にも幸運の総量というのはあるのではないかと思ったことであった。

ミリオンの後書き、書き上げた直後に片瀬捨郎くん来る。古書店で徳川夢声筆の色紙が出たので買っておいて、と頼んだのを持ってきてくれたのである。久しぶりにいろんな話。かつてのイーハトーヴ社、海拓舎などのうわさ話。

今日はバーバラの歓迎会をやろうとオノと話していたのだがバーバラが所用で休みなので、片瀬くんつれて『華暦』へ。いろいろと話を聞く。彼もまた波乱の人生を歩いてきたのだな、と、もう数年来のつきあいだが初めて知った。と、いうか、私の知らない世界の話、面白くて面白くて。思わず、私がプロデュースするから本にしろ、それはと口走る。

ある会の話から、グループというか、いわゆる集団をまとめていくことの難しさについてもちょっと。要するにその集団が発展するためには、個々のメンバーに強力な個性ある者を集めることが必要なのだが、しかし個性的な人間というのは語を変えて言えば奇人変人であり、それをとりまとめてひとつのグループの戦力としていくには、よほど上の方にふところの深さがないとやっていけない。そう言えば『ひょっこりひょうたん島』の藤村有弘を
「あいつは手綱をとったら面白くなくなる。好きにさせておくのが一番面白い」
と、ムチャクチャをやっても放置していたNHKのプロデューサーの話を、ブジオで熊倉さんから聞いて、心底感動したものであった。

空豆、桜エビのかきあげ、蛤のぬたなど、春らしき味を堪能、珍しく9時ころで切り上げて家。とはいえ例によって飲み足らず、ホッピー飲みつつネット周遊。12時ころ就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa