裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

水曜日

ふたりのイイダ

飯田圭織と、飯田蝶子(どちらの顔を最初に思い出すかであなたの歳がわかります)。

朝5時半ころ目が覚めてしまい、日記つけなどしていたらK子も起き出した。入浴して、朝食とっているK子を見たら、いつもはドイツパン(能登のフラットから直送してもらう)を焼いてピーナツバターかなんか塗っただけとコーヒーで朝食、の彼女が、みそ汁に目玉焼き、ホウレンソウのおひたしまで自分で作って、パックご飯温めて食べている。どうしたの、と聞いたら
「パンは飽きた」
とのこと。いつまで続くか。

こっちの朝食は9時15分。アスパラガスの冷スープ、伊予柑、ブドー。自室に戻り原稿。

吾妻ひでお『失踪日記』についてネットでわけのわからん批判をしている男がいるそうで、ちょっとした騒ぎになっている。サイトに行って読んでみたがまあ、これくらいのイタさはネットではありがちなんじゃないの、と言ったところ。ここまで祭り状態になったのは、そのイタさが中途半端だったからだろう。チクチクするがさほど耐えられない痛みでない状態なのがかえって神経にさわるわけである。もっと徹底的にわけわからんことを書いてたらむしろ好意的に見られたのではないか。

昨日、ネットでビデオ評サイトで『オリエント急行殺人事件』を評しているところを見つけた。これがまあ呆れる半可通で、
「女優さんですが,上記に上げた役者さん達(唐沢注:イングリッド・バーグマン、バネッサ・レッドグレーブなど。ご丁寧に”バークマン”“レッドグローブ”と二人とも誤記している)は年寄りなので,もうどうでもいいという感じで,一番よかったのは,伯爵夫人を演じていたジャクリーヌ・ビセットで,品があって実にいいですね。年寄り女優のシーンなんか削ってもっと彼女のシーンを増やして欲しいと思いました(それにしても,バークマンがこの映画で助演女優賞をとったらしいのですが,私には??でした)」

「後,この映画のアガサ・クリスティの原作は読んではいないのですが(彼女の小説は私の趣味ではないので),冒頭の誘拐事件は何となく大西洋を飛行機で初飛行したリンドバーグ夫妻の子供の誘拐事件を参考にしているように思えました」
「それにしても,この映画を観てて一番違和感を覚えたのは,軽快なダンス曲を背景に列車が進むことです。この楽しそう曲と陰惨な内容とは全く合わない感じで,この手の映画でしたら,やはり,重々しく進む感じの曲が欲しかったです。また,列車の撮影に関しても,同じくオリエント急行が舞台になっていた「007/ロシアより愛をこめて」の方がスピード感があって,遥かに素晴らしいです。この映画のダンス曲でしたら,アニメ「銀河鉄道999」でしたら合うという感じがします」

などと、頭からシッポまでどうしようもない意見の羅列で大笑いしてしまうが、しかしこれと自分の批評との距離がどれほどあるのか、と考えたとき、私は戦慄する。全ての評論家が戦慄しなければいけないだろう。そう、紙一重なのだ。その一重の差は、自分の好き勝手が商品になるかどうか、の他者(編集者など)の値踏みだろう。

メールやりとりの後、出社。今日は連続打ち合せ。その前にちょっとだけ事務所に寄る。1時、時間割で猫三味線制作委員会Sくん。ロフトさいとうさんとイベント打ち合せだが、さいとうさん別件で遅れる。しかし遅れたことが幸いして、新企画のことで、Sくんと大変につっこんだ話が出来た。これが形になれば、私の年来のこの方面の目標はほぼ、達成できるのだが。なんにせよ、二人でちょっと興奮する。

さいとうさんが遅れるうち、次の打ち合せ先の人が来てしまうので、先にこっちを、とSくんにお願いしてインタビュー受けてしまう。音楽雑誌『プレザンテ』編集プロダクションのEさん。ホラー映画と音楽、というお題だったのでバーナード・ハーマンの話とかを仕入れていったが、向こうは“ホラーと音楽”のつもりだったかもしれない。『岡田有希子の幽霊』『ホテル・カリフォルニアと悪魔崇拝』などの話をする。あと、人間の情動と音楽の話など。

これが40分ほどで終わったが、途中でさいとうさん来た。化猫イベントの話をする。Sくん帰ったあとで、明日のイベントのこと、それからもろもろな話。某件、みんな心配してくれていて感謝の気持と、そのアドバイスに応えていない自分に忸怩。
帰宅、電話数件、メール数件。勢い込むものあり、ガッカリするものあり。ガッカリの件に関しては、相手先にも善後策を立ててもらう。なかなか周囲が渾沌としている感じ。ただし停滞ではなく、どれも動いている。資料買い込みに西武デパートへ。

気圧乱れて、ポツポツ雨が降り出す。じーっとしていても体が落ち込んでくる感じ。メール、スカパー『チャンネル北野』出演の依頼。しかしスケジュールがやたらタイト。誰かがドタキャンした穴埋めではないかと思う。代替条件を出しておく。果たして通るか。

帰宅、瀬川昌久『ジャズで踊って』増補改訂版(清流出版)読みながら、酒。油揚炒め、鯛チリなどで。出てくる名前の懐かしいこと、と言っても全員私が生まれる前の人たちなのだが、なぜか懐かしい。それは“ひとつの文化が生まれ、その土地に根付く”草創期の持つ独特の渾沌と狂乱と情熱の息吹は、どの世界も同じだからではないか。1時ころまで飲み続け、K子の帰宅と共に寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa