裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

11日

土曜日

はりまや〜はりまや〜僕らのはりまや〜

真っ赤なかんざし、買うて〜い〜る〜果てない南の〜土佐高知〜朝8時半起床。寝不足で背中がバリバリ。

入浴その他雑用、9時朝食。伊予柑半顆、イチゴ2粒。青汁、じゃがいもとタマネギのスープ。背中が痛い首が痛いとわめきつつ日記つけ、原稿仕事。外の天気はいいが花粉がかなり舞っていると見え、目が痒い。もっとも右目だけ。

昼はパスタを茹でて、冷凍庫の中の鶏肉ダンゴ(カンカチになっていた)と冷蔵庫の中の半分ほど残っていたトマトソースを、これまた飲みさしの赤ワインで増量して、肉ダンゴスパ。K子と食べる。

1時過ぎ、出社。あまりに背中がバリバリなのと眠いのとで、タントンに行って揉まれながら寝るかと思ったら、当たったセンセイがこういうときに限ってこないだのパラ若乃花。麻のように揉まれてクタクタになり、寝るどころでなし。もっともそれで眠気は雲散霧消した。

塩とたばこの博物館で岩谷天狗の展示をしていたのでちょっとのぞく。会場内を学芸員が解説しながら歩くツアーもやっていたが、パンフレットが充実していて、ほとんどこれに解説が載っているので、ツアーにはつきあわず、パンフだけ買って帰る。昔のたばこはカッコよかったなあ。

事務所へ。久しぶりに母が来て掃除をしていた。アサ芸の〆切が早まって今日までなので、急いでそっちにかかる。今日は6時半から上野で前田隣先生のライブなので急いで書き上げようと思っていたが、オチにいたるまでの“導線(読者の意識を引っ張りつつ、最後の結論に持っていって納得させて終わるための論の展開線)”がいまいち決まらず、書き直し何回か。時間はどんどん過ぎる。イラついて、書庫で似たようなテーマを扱っている本を探し出して、エイヤッ、と開いたらまさにそこにその導線に使えるデータが載っていて、ニヤリ。神経が高ぶっているときには、こういう手が使えるのである。

5時15分くらいに書き終えてメール。それからタクシー飛び乗って赤坂見附。そこから銀座線で上野広小路。広小路亭で前田隣ライブ、開演ギリギリに間に合う。椅子席は満杯、なんとか空いていたのがぎじんさんの隣、開田夫妻の後ろというオトモダチ席なのも不思議。

開口一番が立川フラ談次、なんと始めたのが『大工調べ』。こういっては何だが師匠が変わるとこうも変わるかという感じでしっかりとした感じ。当然のことながらまだ自前の話にはなっておらず、必死に筋を追っているだけだが、調子とか口舌とかの達者さもあり、途中でスピーカーから流れてきた雑音のことをひょいと会話の中に取り入れたり、成長ぶり著し。あとは以前のフラが無くならないように祈るばかり。せっかく名前が“フラ”になったんだから。続いて着物姿のダーリン師匠、これまた落語を一席。

「フラ談次もうまくなったが余裕がない。落語ってのはいい加減に話しているくらいでちょうどいい」
という持論を自分で証明するように気楽に雑談。自分の病気の話、ボーイズ協会の病気の話など、ずーっと話して、ああ、漫談で終わるのかな、と思わせておいて、ひょい、と『替わり目』に入る。後で聞いたら、入り口のカーテンの陰で談笑さんと左談次さんが聞いていて、もうハラハラのし通しだったとか。落語としてはもちろん本寸法のものじゃないが、人生が演じるキャラクターから伝わってくるところ、やはり年輪。

その後が宮田陽・昇の漫才、クラシカルな東京漫才の型をきちんと継承している注目株。寄席では絶体必要とされるコンビだろうが、
「目的がそこということでよろしいのですね?」
とちょっと聞きたくなってくるくらいクラシカル。記憶ギャグが持ち芸らしく、外国人力士の本名をすらすらと述べるのには感心しつつ笑ったが、中国の省の名前をずらずら述べるギャグは、ただ感心して笑うとまでいかなかった。まあ、キャラクターとしぐさで笑わせていたが。今後が楽しみである。

で、次がダーリン先生の歌。奥様がピアノ伴奏。エノケンのカバーをやるのがいつものパターンで、ブジオでもお気に入りとしてかけた『スーベニール』の親父のセリフなど、まるでエノケンが眼前で歌っているかのような域にまで達しているが、今日は時間の関係で飛ばされそうになった『胸の振り子』がよかった。霧島昇のコピーでなく、前田隣の歌になっている。

休息をはさんでコント。このあいだは医者コント、今日は宿屋コント。どっちも基本は同じで、ボケ役の真木淳が徹底して前田隣をいじくるのだが、今回は一人4役に挑戦(?)して笑わせてくれる。

「駅から十分って書いてあったじゃないか」
「あれはじっぷんと読んじゃいけないんです。“駅からじゅうぶん”」
なんて化石のようなギャグもちゃんとやってくれるのがいいところ。

終わって、ロビーでいろいろ話す。談笑さんフワリさんに、本のこと、善後策のこと。一応、全責任持って私がきちんとさせますので。そらから『加賀屋』。20人で予約ということだったが30人以上の盛況。女店員さんに「あ、いつもどうもありがとうございます」と挨拶される。覚えられたか、もう。

乾杯の後、ダーリン先生、お酒が飲めない身ながら、ホッピーの焼酎抜きのコップ片手に、あっちこっちの席を移って
「どうも、打ち上げにまで出てくれて」
と、挨拶して回っている。私の席にも来てくれていろいろ雑談、それがまたお笑いの歴史に残るようなエピソードばかり。

「本にしたいね」
とぎじんさんと話す。清流出版に持っていってみるか?
もちろん、もっとヤバい女性関係の話も出て、こっちも大ウケ。私もつられて旧悪をバラしたら談笑さんにウケた。店が混みあって、あまり席の移動ができず、さだやんさんなどとは話できず残念。席を立つのも容易でないので、若手をさんざ使い立てしてしまう。どこかの劇団だったら二度と来るなと言われてしまうところだ。

談笑さんと、某人の話、やはり立川流でもよくない評判らしい。やはりな、と思う。あと、話を聞いていると、立川流のみんなはキウイをクソミソに言い、扱いながらも愛しているんだな、としみじみ思う。ダメ人間への愛がないと噺家は成り立つまいから、これは当然。ただし、その愛がひねくれた形で出るのである。ここらへん、カン違いしている者が実に多い。

加賀屋はとにかく安く、気が張らない。ただしメニューは煮込みにモツ焼きと、典型的な居酒屋料理である。ところが、今日はメニュー中に“チキンコルドンブルー”なる一品があった。開田さん、談笑さん、ぎじんさんたちと
「ありゃどういうモノかね?」
「コルドンブルーにあの絵はないだろう(マンガのニワトリが描いてある)」
と首をひねり、とにかく一皿、とってみようということになる。出てきたのは、まあ、確かにチキンの中に生ハム・チーズをはさんで揚げたもので、コルドンブルーには違いないが、キャベツの千切り、レモンとトマトのサク切り、それにマヨネーズが添えてあって、
「チキンのチーズはさみ揚げ」
という名称の方が適当しているようなもの。ウケたのでいいか。

11時、お開き。ダーリン先生におぐりゆかの紀伊国屋公演の招待券を渡す。
「あの娘の元気さはボクのエネルギーだね」
と先生、すごい評価。今日、呼べばよかったな。開田夫妻と銀座線、丸の内線乗り継いで帰宅。まだちょっと飲み足りなかったので、ビデオでジョン・ヒューストンものなど見ながら焼酎ハイボール、さらに水割り缶。早く帰ったのに就寝は2時過ぎ。変なクセがついた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa