裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

金曜日

地下道鈴之助

歌舞伎俳優尾上松助(6代目、05年12月没)は子役時代、テレビの赤胴鈴之助役で活躍。最近では新宿駅地下道の舞台用化粧品専門店セイセイドーの看板に息子の松也と共に写真が出ていて有名だった。

朝6時45分目覚め。ホテルのベッドはスプリング効きすぎて寝心地よくなし。入浴してモバイルでメールチェック。

8時、しら〜と三人で一階のレストランで朝食。このホテルクラスの大きさとしては驚くほど客が少ない印象だが、ここは3フロアを宴会場に宛てているホテルで、たぶん宿泊より宴会をメインの稼ぎにしているのであろう。

朝食、バイキングでなく普通のアメリカン・ブレックファースト。これも客数があまりないせいか。シリアルがちゃんとコースに入っていて、オートミールを頼む。砂糖はふらずに塩とミルクで。こうやって食べればおいしいのに、砂糖ふってフルーツ添えて、とかお子様向けにするからオートミールが日本に普及しない。

いささか腹がくちくなって(朝、腹をふくらせるのは私の日常ではあまりないので胃がとまどっている)部屋に帰り荷造り、9時にチェックアウト。女子短大の卒業謝恩会があるようで着物に袴姿の葡萄茶式部女子大生たちがロビーにたむろしている。何かテーブルでワイワイやっているのでのぞいてみたら、派手なつけ爪をつけていた。袴姿でアートネイルというのはどうなのか。

タクシーで仙台駅。今回はまさにクジラ食べるためだけの仙台入りだった。ブジオスタッフたちへのおみやげを買い、荷物増えてヒーヒー言いながら新幹線“はやて”。車中、坊主頭、ジャージ姿の若者二人にネクタイ姿の男二人がつきそっている4人連れあり、スポーツ選手とそのコーチかなどと思ってふと若者たちの手元を見たら、カバーで隠されていたが手錠がかかっており、腰繩の一端を背広の男の一人が握っていた。犯人護送を見たのは初めて。

1時間半、山本ひろ子『異神』(ちくま学芸文庫)読む。うわさには名高い本だが初読。まだ冒頭部分のみだがかなりにアヤシゲで面白い。東京駅から中央線乗り換え、雑談しつつ。お茶の水でこのまま出社するしら〜と別れ、新宿。タクシー乗り場で若い男の子に「ラジオ聞いてます! 今夜ですよね!」と握手求められた。仙台の女子大生たちには全く反応されなかったのだが。

新中野に一旦帰り、家で仕事。なみきたかしから、ブジオのサイトの自分の写真(ぎじんさん撮影)、気に入らないので差し替え要求があったとか。いかにもなみきらしい、と苦笑。

2時、家を出て出社、途中で道楽のラーメン。渋谷の仕事場で、オノに仙台みやげの萩の月を渡し、スケジュールいろいろ打ち合せ。猫三味線、シネマアルゴ、どちらも来週に打ち合せあり、テンションあがる。どこまで忙しくなるか、という感じだが、人生にはこういうお祭りの一時期が絶体必要なのだ。

3時半、ルノアール会議室で岡田斗司夫さんと『創』対談。S編集長も来ていて、単行本化の打ち合せも少し。対談は“オタク論の現在”。岡田さんから“右タク、左タク”という名ネーミング出る。対談終え、近くの宇宙雑貨で、小林麻耶に贈るホワイトデーのプレゼントを買う。メイドインチャイナのニワトリのオモチャ。動きが面白かったんで、自分用にも買う。

5時10分、タクシーで赤坂TBS。道がやたら混む。なんとか7時10分前に着。スタジオ入り。八起の肉を預ける。なみきたかし、ぎじんさんとアニドウのSさん連れて入り。マフラー巻いて下駄履きである。寒いのか暑いのか。

『やぶにらみの暴君』の盲目のオルガン弾きのサングラスをかけて、やる気ありそう。それはいいが、昔の私の投稿した『FILM1/24』とか、私の手紙までコピーして持ってきているのに頭を抱える。さっそく打ち合せにかかる。昔のアニドウには北海道と九州から来た会員が多かった、というような雑談。今回はもう、リスナーおいてきぼりと決めているので気が楽である。

おぐりが
「今日、テロがあったんですよね」
とスゴいことを言い出す。一応報道にかかわっているラジオのスタッフたちもみんな知らなくて、ちょっと驚く。
私「テロ? 知らない」
お「あったんですよ。電車停まって大変でしたよ」
I「どこであったの?」
お「千葉で」
私「千葉でテロ?」
お「ええ、もう駅員さんがマイクで放送していて」
稲「千葉でテロってあるかなあ」
小「……ひょっとして、スト?」
お「……あ、スト! ストです!」
全員ひっくりかえって爆笑。これ、本番中にやってほしかった。
で、本番、私の発案で入場曲をプレヴェールの『五月の唄』(♪ロバと王様と私/明日はみんな死ぬ/ロバは飢えて 王様は退屈で 私は恋で/時は五月)にして。

なみき自身はこういう場では暴走タイプではないので比較的楽に話は進む。昔話を最初にして、それから昨今のアートアニメのことまで。一般リスナーには濃すぎてついてこられなかったと思うが(海外アニメというと『チキチキマシーン猛レース』みたいなものか、というのが大半のリスナーのイメージだろうから)ポール・グリモー、フライシャー、リチャード・ウィリアムスからクェイ兄弟の話まで出来て私個人としては幸せ。もう番組が終了するから出来る私物化である。

推薦曲は『テックオンV』。知っているリスナー驚愕。I井D、
「この曲がラジオでかかるのはこれが最初で最後だと思うのでフルでかけましょう」
と。これ、初めてアニドウで聞かされたのはいつだったか。

おぐりのコーナーは焼肉、肉は八起の肉で、それに北海道、青森、宮崎のそれぞれの御当地タレをつけて食べる。八起で食べながら聞いていたリスナーさんからメールが届いた。

エンディングで、“このまま終わってしまうのかー?”とちょっと、深夜枠移行へのフリも入れつつ。小林麻耶にはニワトリのオモチャ、ウケた。ポッドキャスティングは『卒業』がテーマ。そのあとI垣Pとちょっと打ち合せ。私の一人語りの番組にしたいという話。火曜に打ち合せを。

終わって、イニャハラさん、おぐり、オノ、それになみき御一行で土間土間へ。I井Dは明日、新入社員の面接官になるそうなので欠席。おぐりが、なみきの若さに感心していた。あっちについたり、こっちについたりという人物の話になってなみきが
「『かうもり』だよ、まったく」
「そういう誰も判らないギャグ言うから友達がいなくなるんだよ」
野暮だが解説しておくと村田安二の切り紙アニメ『かうもり』(1930)のことである。

今日もおぐりはちょっと打ち上げで暴走。I井Dが“悪口は言われてナンボ。悪口言われるくらいでないといい番組は作れない”と言ったのに対し、“えー、悪口いやですー”と反論、“褒め言葉だけ聞きたいですー”と。その一言だけで止めておけばギャグなのに、何度も口にし、それを絶対ゆずらない。意固地といったレベルである。“なあなあで行きたいですねえ”と言ったときには温厚なイニャワラさんが“何言ってんだ、おまえ”と、ちょっと色をなした。前週、彼女の扱いでいろいろ擁護したことが無駄になりはしないか、とハラハラ。

11時半でお開き、帰宅してメールいろいろ。某件、まだまだ待たねば、と心する部分もあり、しかしじれったいなとイラつく自分も同じくいて、心中複雑。1時ころ就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa