裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

土曜日

新宿皇帝ペンギン会館

タイトルに意味はない。朝7時半起床。ごくごく普通に入浴、日記つけ、朝食。いい感じの朝。心はちょっとモヤモヤ。メールいくつかやりとり。9時朝食、ホウレンソウのスープに血圧サプリのシイタケ末を入れて。伊予柑半分、うまし。ブドウ1/3房。これも結構。果物が食えない朝というのは考えられない。

原稿ネタ探し。USEN先代社長の笑えてしまう悪行とか、
http://ja.wikipedia.org/wiki/USEN
月光仮面の死
http://www.nikkansports.com/ns/general/f-so-tp0-060315-0034.html
とか。
USENは一時PR誌の仕事をしていたことがあったが、やはり担当していた編プロが理不尽な切られ方をして終わってしまった。
「うちならもっと安く作りますが」
という売り込みで、いとも簡単に長年のつきあいのところを切るところらしい。その編プロ、かなり怒っていた。

昼は冷蔵庫に卵が一個残っていたので、卵かけご飯ですまそうと、パックのご飯を温め、みそ汁を作って、さあというところで、卵を落として割ってしまった。
「ハンプティ・ダンプティ塀から落ちて」
などと思わず口ずさむがどうしようもない。母の部屋に行って卵を分けてもらって、なんとか無事卵かけご飯を食することが出来た。

家を出て1時、麻布十番会館。トンデモ落語会。開演10分前に着くが、麻布十番会館の座敷がすでにほぼ満席。「100人入ると耐震機能がまったく無くなる」と言われているこのビルに、150人(最終的)入った。どうしたことか、この入りは。
開田夫妻、藤倉珊さん、しら〜さん、植木不等式さん、IPPANさんなどの顔。あと、ぎじんさん、安達OBさんのお二人、堀有機さんなども。

ちょうどアスペクトのK田さんも来たのでフワリさん、談笑さんに紹介。今日は顔合わせのみ。出順は白鳥、談笑、談之助、中入りはさんでブラック、昇輔。前座でフラ談次がついていたが開口一番はなし。と、いうか立川流に指示が回って、ブラックの出る会の前座をやってはいけない、ということになっているそうである。例の人物の差し金らしい。

白鳥はすでに風格すら備えてきた感じで、『悋気の独楽』の呆れ返る改変バージョン。古典の単なるいじくりか、と思ったら凄まじいことに。師匠の円丈の持つジャーナリスティック性をナンセンスで置き換えているところが客に受け入れられやすくなっているか。

談笑は『三方一両損』『大工調べ』から大岡裁き噺を五目でやって、さらに『短命』『浜野矩随』など、人が死ぬ噺を並べ、それらのストーリィの矛盾をどんどんあばいていく。
「古典ファンというのはこんな矛盾にも気がつかんのか」
というのに爆笑。トンデモでしかできまいなあ、こういうのは。

そして談之助はあごひげをつけてカフィーヤ姿で登場。イスラム教を敵に回す、なんとも危ない落語『マホメット一代記』。聞いていてハラハラする。例によっての楽屋裏話にどんどん流れていくけれども。月光仮面の死で、
「ずいぶん、“あれ、お前だろう”と言われてきたので、2代目を次ごうかと」
というのはいいね。

中入りで座布団を前に送る。ここの会場でこんなに入ったのは初めてみた。なんでこんなに入るのだろう。やはりブラックがこれだけマスコミに騒がれ露出しているからであろうか。安達さん曰く“一応録音しているんだけど、今日の噺はどれも危なすぎてオモテには出せませんね”と。

中入後はブラック『オナニー指南』。例によって例のごとし、この人のスゴいところはあれだけの騒動のさなかも後も、芸風がまったく変わらないことである。どころか、死生の線を超えて、単なるエロからそれが人生哲学にまで高まっているような気がする。談春や喬太郎は時代の寵児でしかないが、ブラックは時代を超越して、独自の境地をもはや構築した。落語というものが古典や一部の趣味人の好む演芸ジャンルでなく、“いま”に息づく芸であることを確認したいなら、まさに、今、最も聞いておくべき落語家の一人だろう。もちろん、それと人格はまったく別の話であるが。

で、トリは昇輔。真打披露を間近に控え、さきほどは『笑点』の撮りをすませてきたとか。なんか上がったときからテンションがヘンで、客を全然つかめていない感じ。『笑点』にアタったか?マニアックなギャグもすべって(“金星ガニ”“メタルナ・ミュータント”では藤倉さんが大ウケしていたが)、ネタは毎度おなじみの『北朝鮮の片棒』なのだが、まるで初めて高座にかけたような感じだった。逆に新鮮だったけど、終わったあとで後ろの客が“これで真打か、ヌルいな、芸協はやはり”と吐き捨てた。この評価は今日の高座を見る限り当たってしまっている。後ろ幕をと学会として贈り、推薦文を披露目のパンフに書いている身としては、ちょっと気になる。
洋泉社のOくん、ちくまのMくんなどに挨拶、Mくんには談之助との共著を早く進めようとメールするつもり。アルゴの細谷さんと立ち話。次の打ち合せには社長も同席するとかで、気を引き締める。

麻布十番の名物モツ焼き屋『あべちゃん』で打ち上げ。植木さんは中入り前に帰り、しら〜さんも5時ころ中座。はれつさんなどと神田で羊しゃぶしゃぶを食べる会に出る。私も誘われていたのだが、アスペクトと談笑さんの引き合わせや、アルゴとの話があるので遠慮した。ちょっと後ろ髪は引かれるが。

ダンカンさんが来ていたので名刺渡し、紀伊国屋での落語会のことなど話す。談之助、ブラックとは、トンデモ落語会の出前の話。うちのサイトに宣伝を載せて、今年後半から大々的にやっていこう、と。安達さんとはMacばなし。

細谷さんとも話し、彼の離婚ばなしに笑う。思えばもうこの人とのつきあいも十数年になる。大恐慌劇団の話になって、あの頃、大恐慌の追っかけやってたKちゃんという女の子、いま何やっているの、と聞いたら結婚して2児の母で、しかも週刊大衆でライターをやっているとのこと。15年という時間はそれくらいの変化をもたらすのだなあ、と感慨ひとしお。細谷さんがKちゃんを引っ張っていってしまったので私との関係は絶たれたが、彼女は最初、私の弟子になるはずで、田舎のお母さんからお礼の手紙と酒まで届いたものだった。

芸事から政治の話までいろいろと。8時、出て、腹がハンチクだったので永坂更科本店で蕎麦を談笑さんフワリさんと三人で。人物月旦、あれやこれやと。実に溜飲が下がる。話しながら生粉そば一枚、冷酒小ビン2本。トイレ行っていたらその隙におごられてしまった。タクシーで帰宅、まだ寝る時間でないので水割り缶あけてビデオなど見ながら11時ころまで起きてたはずだが記憶あまり定かでなし。楽しかった!

Copyright 2006 Shunichi Karasawa