裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

木曜日

ヘルダーリンは外国人

 その通りですが何か? 太股に昔入れられた刺青があって、そのことをしみじみ思う、というような夢見る。他にもスプラッタなものいくつか。股の中にプラモデルの 骨が埋まってるのを引きずり出すとか。

 鬱っ気、まだあるがだいぶ薄れた。吹っ切って、自分は自分のペースでやるしかない、と改めて決意したという方が早いか。人生で数百回決意しかえしていることでは あるが、基本的に人は人間関係に弱い。

 朝7時起床。入浴、朝食。アボカドとバナナ、カボチャスープ。編集部いくつかと連絡取り合って、10時出勤。まだこの時間、地下鉄混み。しかし今の若いサラリーマンにはイケメンが多いねえ。ホストクラブの連中かと思うような連中の話を聞いてみると
「下請けコストが……」
 などというものだったりする。

 新宿から参宮橋に出て、道楽でノリラーメン。
「『はなまる』見たよ」
 と話しかけられる。出勤してゲラもどしアサ芸などいくつか、資料コピーなど。大賞ダンドリ合わせに使うルノアールの会議室(マイルーム)予約に行くが
「カウンターで予約は出来ない、電話しろ」
 と言われ、その場で電話する。不便なものだ。東急ハンズでフロッピー整理ファイル買おうとするがナシ。

 招待状などの準備をするうち、1時半。マンション前にハイヤー来ていて、赤坂のイマジカスタジオへ。編集スタジオの脇にある、二畳くらいの録音部屋で、差し替えのセリフをマイクに向かってしゃべる。デジタル録音でキー操作で音の差し替えをする作業、興味深く見ていたが、いかにデジタルとはいえ万能ではない。そのワードのみの差し替えをしようと何度かやっていたが、うまくいかず、ひと続きのセリフごと 入れ替えることになる。

 この間、しかし10分ナシというのが凄い。入ったと思ったらもう出て、タクシーで神保町まで送ってもらう。九段で梅田佳声先生と打ち合わせなのだが、その前にカスミ書房さんに。あいにく外出中、郵便受けに招待状を入れた封筒を投げ込んでくる (夜、受け取ったという返事あり)。

 時間に余裕があるので古書街ぶらぶら。目についた書店に飛び込んでみるが、昔に比べ買いたい本の欲求が変化してきたな、という感じはあり。これは『古本マニア雑 学ノート』にも書いたが、私がヘタレ古書収集マニア、要するに
「買った本を読みたい」
 欲求からまだ脱却しきれていない証拠だろう。

 買った本を読むのには時間がかかる。以前『ごきげんよう』で
「いま持ってる本を全部読むだけでも160年かかる」
 と発言して森三中を呆れさせた。実際、すでに残り人生で読める本の冊数にすでに見極めがつく年齢になっているのである。読まずに集めるコレクターなら死の前日、いや数時間前にコレクションがコンプリートできたなら、それで満足して死ねるが、私のような“読む”派は、その満足感は絶対に達成できずに心をこの世に残して逝か ねばならぬ宿命なのである。

 このあいだから気になっていた、靖国通りの某古書店に入る。Hという古いビルの三階で、このビルの古さが実によく、ビルごと買ってしまいたい気にさせられる。内部は古書店というよりギャラリーみたいな感じで、本好きが自分の好きな本を展示している、というような店。昭和40年代〜50年代くらいの本が中心で、要するに私 が中学、高校時代に読んでいた本がズラリ。こういうところで買う本は、
「あの頃買い損ね、読み損ね、知り損ねていた本の穴埋め」
 ということになる。これが最近の私の古書の基本的買い方になってしまってるな。6000円ばかり。

 そこから歩いて九段、千代田区公会堂。すでに佳声先生来てらしたので、しばらく雑談。やがてIPPANさん来て、会場下見。寄席とかならともかく、これだけ広いところだと照明が難しいと会場係の立川さん(タテカワでなくタチカワ。名前のせいではないだろうが演芸マニアで、去年IPPANさんが前打ち合わせをしたときには“落語は誰がやるんですか? ブラックさん?”“いえ、談之助さんです”“あ、談之助さんならいいですけど、快楽亭だとこの会場では問題かもしれませんねえ”などとの“よくわかってらっしゃる”やりとりがあった)が言う。ちょっと打ち合わせ。用心のため、実際の紙芝居と、映像をパソコンに入れたものも持ってきて、午前中の テストの結果で、どちらを使うかを決めることにする。

 終わった後、くだん亭でコーヒー飲みながらちょっと細かいこと打ち合わせ。佳声先生、九段会館(軍人会館)で連夜、特攻隊の歓送会が行われていたときの模様を話してくれる。外は空襲の被害で焼け出され、また瀕死の重傷を負った親子などがうめいている時に、この中では明日、死にに行く若者たちが芸者をあてがわれ、人生最初で最後のドンチャン騒ぎをしていたという。外も悪夢、中も悪夢。打ち合わせ、大会 での演目は『妖魂 まだら狐』と決まる。『猫三味線』映像化に関して、ご本人の口から
「ご自由にしていただいてかまいません」
 の最終確認もいただいて鼻息荒くなる。そこで二人と別れ、もう一度神保町ぐるり回ってタクシーで帰宅。

 二見書房Yさんと、送ったネタで使うものを選定の作業、メールやりとり。幻冬舎Yさんと、『壁際の名言』文庫化の件、新タイトル(『ダメ人間のための名言』)、関口さんのイラスト、と学会のA先生に解説をお願いしたい件など電話とFAXで話し合い。FRIDAY新担当者との仮打ち合わせ、明日のアニメ夜話打ち合わせとくすぐリングスの中間になんとか押し込む。最近、“その日があく”ではなく“その時 間が(なんとか)あく”になってきたような気がする。

 9時、帰宅。鶏のカレー煮、もずくでホッピー。『夢であいましょう』、押尾学の演技、いや演技でないか、すごい棒読みのセリフ回しと、手や上半身をもてあましつつブラブラさせてしゃべる様子に驚く。最初は呆れ、やがてフーン、という感じに。ここまで演技になっていないと、それはヘタとかいうのでなく個性だ。小器用よりよほど印象に残る。三船敏郎だって大河内伝次郎だって片岡千恵蔵だってお世辞にも演 技がうまくはなかったから記憶に残り、スターになれたのである。

 ホッピーの他に日本酒コップ2杯。最後に釜飯を炊いてワサビをまぜこんで。うま くておかわり2回。自室に戻りDVD。水割り缶ひとつ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa