28日
火曜日
オー・デ・カルティエですか、レレレのレ〜
この香水をつけている人物に出会ったらまず言ってみたい駄洒落。朝5時起き。リビングでパソをやろうとしたら、いきなり奇妙な棚が置かれているのに驚く。K子が倒産した病院があるという知人からの報せで出かけて、確保してきた調剤棚。メチコバール、ブスコパンなど処方箋打ち込みしていた頃の懐かしい薬品名が引き出しに書かれている。引き出しと言ったが、厳密には引き出しではなく、前に倒して開ける形のものであり、棚の下側にある一件引き出し風の物入れも、観音開き的に収納部自体が出るという、“家庭用家具とは違うのだ”というところをアピールしているような 作り。
仕事関係メールいくつかして、また就寝、7時再起床。入浴、7時35分朝食。焼カボチャ二切れ、キウリ、ニンジンそれぞれ二〜三切れ。ポテトの冷ポタティーカップ一杯。新聞に森村桂自殺の報。矢川澄子のときもそうだったが、若いうちにきらびやかな才を誇った女性文筆家が老年に至って世間から半ば忘れられ、ひっそりと世を去るというパターンは実に寂寞たるものを感じる。とはいえ、森村桂みたいな人は、成熟を絶対拒否し、お嬢さんのままで自分の存在を確立していた存在なので、年齢と共にそっとフェイド・アウトするしかなかったろう。彼女の作品は『天国にいちばん近い島』でも『違っているかしら』でも『私の逢った神様たち』でも『結婚志願』でもとにかく基本精神が前向きで、常に“自分の尺度でものを見て”“人を信じ、明日を信じ”“自分の価値観に妥協せず”いけば、“願いはきっと叶えられる”というのがテーマだった。しかし、このような人生観が通じるのはせいぜいが20代、よほどなお嬢さんでも30代半ばまでだろう。それ以降の人生において、人は“他人は他人の尺度で勝手にものを見”“人も明日も時には裏切り”“妥協しない代償には凄まじい反発をくらい”、そして“叶えられない願いの方がずっと多い”ことに気がつき、学んでいく。その中から生まれていく、苦味のある新たな人生観が、いわゆる“人間的成熟”というものだ。つまり、森村桂の読者は、必然的に森村桂を卒業して、その作品を捨てていくのである(卒業しない読者はイタい存在でしかなくなる)。これは物書きとして、悲劇である。もちろん、成熟を拒否したことでその作品は一種のタイムカプセル的な意味合いを持ち、古びない。森村桂の本は、今読んでも底抜けに明る く楽しい。しかし、本は古びなくとも、人は古びていくのである。
雨ふりしぶく中タクシーで渋谷、運転手、山手通りの工事渋滞に憤慨、役所仕事を痛罵、昨日に引き続きまたまた右傾化発言を。まあ、タクシーの運ちゃんの右傾化がデフォルトになったからと言って日本がパラレルに右傾化するとは言えないが、しかし最下層(と言っては悪いがタクシー運転手には他の仕事につけなくて、という人たちが非常に多い)の声がこのような傾向になっている、ということは、政治家も文化 人たちも押さえておいた方がいいのではないか。
仕事場、メールチェックいくつか。エイバックO氏より電話、講談社との打ち合わせの件。あと、ワークスの方から撮影日までに一度、おぐりゆかと面通しして、キャ ラとか打ち合わせをしたいと言ってきた。その旨、おぐりにメール。
11時、掃除のおばさん久しぶりに入る。K子も来る。たまったゴミ類まとめ、それから冷蔵庫の中のいらない調味料類の始末を頼む。部屋がきれいになっていく音を聞きながら、FRIDAYコラムゲラチェック、キャビノチェの山田五郎氏との対談 ゲラチェック。昼はニギリメシ。梅かつお。
さっぱり進展していない書き下ろし原稿、またあでもないこうでもないと。どうも煮詰まっている。落としどころの問題か。4時半、NHKに出向き、いきいきホットライン出演。13階のスタジオに入る。作りは他のスタジオとほぼ同じだが、さすが13階だけあって、窓外の眺めがすばらしい。代々木公園の緑を下に敷き詰めた形で 新宿の高層ビル群が立ち並ぶ姿は、ニューヨークのようだ。
40分ほど、途中で交通情報などをはさみつつ、『書店とのつきあい方』というお題で話す。聴取者の性格から、トンガった話は一切抜いて、とにかく柔らかい物腰で私としては極めてゆっくり話してみた。金沢の書店(立ち読みでコーヒーが飲める)の話をしたら、“私もその書店、ファンです”というFAXが聴取者から届いた。アナウンサーさんがまた札幌出身で、話がツーカーで通じるところもあり。
終わって、ディレクターS氏と話す。概ね好評で、ただ一通、私が“ものを買うときに、その商品を細かにチェックするのは消費者の権利。書店はもう少し立ち読みの客を大事にすべき”と語ったことに、“オトコなら立ち読みなどという軟弱なことは するな!”という怒りの(?)投書があったという。
番組中、自分の推薦する局を二曲ほどかけられるというので、家からタイガースの『廃墟の鳩』と、ピーナッツの『ナンバー・ワン』を持っていった。『廃墟の鳩』は無事かけられたが、話に熱が入ってしまったか、『ナンバー・ワン』はかけるヒマがなかった。明日はいたずらで、『悲しみにてやんでい』のテーマ曲だった『僕のことじっと見つめていたあの日の君』をかけてやろう、と秘かに思う。……とはいえ、いま来ている台風が明日の5時ころまで、まだ関東近辺に居座っているようだったら、台風情報特番で番組そのものがふっとんでしまう。内閣人事では無事だったが、一難 去ってまた一難。
帰宅、台風のせいか、妙に体調がハイとローの間を行き来する。ワークスに打ち合わせの日取りと時間などをメールしたくらい。8時10分、仕事切り上げバスで帰宅する。家メシ。アサリと大根の鍋仕立て、あまった挽肉を使ってのメンチカツ、ニラタマなど。テレビのニュースで、ペットのハムスターに噛まれてショックで死亡した男性の報。悪いが笑える。“アナフィラキシー”という言葉をアナウンサーがごく普通の用語のように話していた。私はこの言葉、中学生のときアガサ・クリスティーの『大空の死』(創元推理文庫版。早川版では『雲をつかむ死』)で覚えた、と記憶しているがこれは正しいかしらん。メンチカツ美味し。焼酎をホッピー割で4杯。もっと飲みたかったがもうやめなさいと母とK子に止められる。