裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

木曜日

受話器肉おどる

 あの電話は興奮したなあ。朝3時ころ、また目を覚ましてメールを見たら、Yくんから報告。もっとも、まだほとんど話し合い、進んでないという報告だが、集まっているメンツを見て、基本的に安心しているので気にせず。あまりあせらずに、と返事して5時ころまた寝る。女の子に生おっぱいを顔に押し付けられて、実はそれがいたずらゲームで、凄く腹を立てるという夢を見る。夢ながら自分の行動に納得いかず。いたずらだろうとなんだろうと、生おっぱい顔に押し付けられたんなら喜んでおけばいいじゃないか。

 7時半朝食、サツマイモ、トマト、キウリ。クリーニング、そろそろ夏もののシャツ類を収納用に出し始める。バス、10分遅れ。中野通りが大渋滞で、到着がいつもより30分遅れた。時事通信からゲラ届いている。中で一箇所、説明を加えてほしいと言われたところがあり、字数を変えずに説明を入れるのにちょっと工夫する。

 道新からも連絡。こっちのミスで字数をかなり少なく送ってしまったので、書き足しをしないといけない。やはりどうも、心ここにない感じ。あと、FRIDAY、ネタ出し。今回はお題が『モーニング娘。』なので、と学会の誇るモーオタ、H川氏こと電脳丸三郎太氏にネタ提供をお願いする。さすが、凄まじいのが送られてきたので そこからチョイスし、形を整える。

 昼はオニギリ一個(シャケ)に発酵茶。食べながらメール確認。もう5日も前だというのに、日曜のロフトのトークライブの感想が日に数通、毎日来る。常連さんからのもあるが、初めてロフトに来て初めて私のトークを聞いて、村木藤志郎に、うわの空にハマった、という人からのものが多い。村木さんと島さんがクイズのとき、すっと北の国からのコンビになったのに感心したという見方にはこちらでなるほど、と感心。尾針恵が見られなかったのが残念、あの“プイ!”が聞きたかった、という声多 し。あと、ほぼ全員がおぐりゆかにはノックアウト。今日、来たものには
「片目でなくてもたまりません」
 とあった。笑う。

 なにかこの日記で片目礼賛をして以来、私の片目フェチが公然となったようで、今度眼鏡っ子に変わる“片目っ子”のイベントでもやってみようかと思うほどだが、眼帯の魅力は、やはりその下に“見てはいけない状態のもの”がある、という禁断性にあるだろう。片目に限らず、男性は基本的に、この“見てはいけないものフェチ”なのだ。例えば美少年美少女を描いて名高い高畠華宵は、好んで包帯を巻いた子たちを描き、読者たちに、怪我もしていないのに包帯を巻くことを流行らせたという。包帯の下にある醜い傷は、しかし包帯で隠されることで、心理的に反転した美となるのである。その心理を表した最たるものが『風の谷のナウシカ』におけるクシャナの“わが夫となるものはさらにおぞましいものを見るであろう”というあのセリフだろう。基本的にアニメでは興奮しないのだが、ここまでになると別格。初めて聞いたときにはもう、全身硬直してしまった。ああ、やはり宮崎駿というのは徹底して“オトコ”という生物を知り抜いている人だなあ、と思ったものである(『アニメ夜話』でナウシカを取り上げるとき、NHKはこのセリフに言及させてくれるだろうか?)。例のコンビニ置きのアダルト本が、シュリンクかけたらのきなみ売り上げを伸ばしたというニュースも、みんな意外だ意外だと騒いでいるが、私にとっては当然きわまりないことでしかない。
http://news.www.infoseek.co.jp/society/story.html?q=16gendainet05115239&cat=30

 7時ちょっと過ぎ、K子が仕事場に来るので連れ立ってタクシーで六本木、彼女がポーランド語の先生に教えられたというドイツ料理の店を試みてみる。五丁目にある『BERND’S BAR』という店。ちょっとどこから入っていいか迷う。中はレストランというよりパブで、あっちこっちでドイツ語がとびかっている。故郷の味を 求める人々がこれだけ集うのか、と驚く。
http://club.nokia.co.jp/i/tfp/web/j/rest/1148.html

 すでにメンツのうち、植木不等式さん、電脳丸三郎太さん、S山編集長に高橋のび太さんは揃っており、あとはI矢くんを待つのみ。とりあえず、シュナイダー(褐色のドイツビール)で乾杯。K子がメニューを見て、“わ、案外高い!”とうめくが、それは地代として仕方ない部分だろう。ソーセージパレットとアイスバインを頼み、あとテーブルの上の“プレッツェルかけ”にかかっているプレッツェルを千切って味わいながら雑談。植木氏は出張で西玉水に行けるか、と期待していたのだが、都合で それがNGとなり、非常にくやしがっていた。

 やがて運ばれてきたソーセージ、K子が一口食べて、“さすがおいしい!”と折り紙をつける。さらに運ばれてきたアイスバインも巨大で貫禄充分、その独特の香りと共に堪能する。ソーセージは定番のザワークラウトが添えてあったが、アイスバインには、何か細切れのパスタのようなものが添えてあり、これが不思議な味と食感で、みんなの人気となる。刀削麺の切り落とし、みたいな感じだった。ドイツ人のお姉さんに訊いてみると、これはシュペッツェルというものだ、とのこと。ドイツの蕎麦切りみたいなもので、やはりこねた小麦粉をナイフで切って茹でたものを、煮たり炒めたりしてつけあわせにするらしい。聞くとメニューにはないが、これを粉チーズと焼いたケーゼ・シュペッツェルというものがあるんだそうで、さっそく注文してみる。

 ビール、おかわりには電脳丸さんが飲んでいたヴァイヘンシュティファンというやつを頼む。植木さんが“独特の風味”と称していたが、なるほど、独特の風味、である。ちょっと、酵母の臭みが残っていて、ちょっと舌にピリリとくる味わいもある。……有り体に言ってしまうと、どこかオシッコを思わせる風味なのである。志水一夫氏なら飲尿療法実践者として非常に気に入るのではないか、と考える。オシッコというと言葉が悪いが、語を変えて言えば“聖水”である(いや、変えたからといってどうだというものではないが)。そう言えば、ヴァイヘンシュティファンというのは、ビールを醸造していた修道院の名前であった。聖水には縁があるかも。

 その他、シュニッツェルも二種類、普通のウィンナーシュニッツエルと、パプリカを効かせたソースをかけたチゴイナーシュニッツェルというのを頼む。やはりこれはカリッと衣が揚がったウィンナーシュニッツエルの方に軍配があがるが、しかしチゴイナーのパプリカソースは、さっきのシュペッツェルとからめて食べると、まことに 結構な味わいであった。

 さんざ食べても、まだこのメンツは食い足りない。ソバでも食べようではないか、じゃあせっかく六本木なのだから、麻布まで歩き川上庵まで行こう、と決めて出る。文章にするとこうなるのだが、しかし、実際に店を出たときには、以前行った記憶がもう全員曖昧で、川上庵という名前も、麻布のどこににあるのかということも、麻布まで六本木からどう行けばいいのかということもまったくのあやふや、未確認であっ た。みんなでワイワイ言いながら、
「あっちではないか」
「いや、こっちの道のような気がする」
「ここらにソバ屋があるような感じだ」
 などと彷徨した。そして、さまようこと数十分、なんと本当に麻布川上庵をみつけ出してしまう。酔っぱらい(ここに来る前にビールとワインと、それにシュナップスがしたたか入っている)のカンというのは凄いものだ、と感心。ここでも酒をちょっとやって、あとは(例によりソバは上手いがそれ以外がイマイチなので)ざるを一枚啜って、満足して帰宅。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa