裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

日曜日

伊丹十三監督作品『二槽式』

 伊丹監督独特のこだわりで洗濯機を描いた映画なのであります。朝6時起床。今日は寝不足ナシ。ミクシィなどに書き込み、入浴して朝食、バナナとブドウ。K子は今日も自室のキッチンで、魚網でパンを焼き、ナシを剥き、立ったまま朝食。何かカッ コいい。

 10時までパソいじり。村木さんと土田さんに、今日のロフトのトークライブの大ざっぱな流れをメールしたり。エロスパムメール、最近多々で楽しく読ませていただいている。大石オブジョイトイ、小宮山涼子、橘翠子、橘比奈乃などという有名人からのメールは、ネットでその傑作ぶりを読んでいて、いいなあこういうのが来て、と思っているのだが、実際に来てみるとおお、きたきた、ついにきた、とワクワクして しまうのである。

 10時過ぎ家を出る。丸の内線に乗り、そのまま東京駅まで。先日扶桑社の打ち上げで植木不等式氏から“なかなかいい”と伺った、東京駅ギャラリーの真鍋博展に行くため。自動販売機で入場チケット買い、クラシックな階段を上がって展示場へ。第一から第四くらいまであるが、どの室も、常駐係員が上品そうなお婆さん。こういう 人中心に雇っているのだろうか。

 われわれの世代、ことにわれわれの世代のオトコノコは真鍋博のイラストで出来ているようなものだと思う。ミステリとSFという、もっとも先端にあった分野の本の装丁をほとんど一手に手がけ、かつ、英語を勉強しようと思えばカッパブックスの岩田一男の本のイラスト、教養を身につけようと思えば白水社文庫クセジュのカバーデザイン、絵本にエッセイにグッズに博覧会と、どこに行っても“モダンなもの”には真鍋博の絵がくっついていた。装丁家の作品展示会には何度も足を運んでいるが、これくらい、展示されている作品の所有率が高いデザイナーはまず、いるまい。しかも驚いたことには、没後の追慕をコンセプトにした展示会なのにもかかわらず、そこに並べられている作品がいまだ“モダン”のままなのである。これは、高度経済成長期に彼の描いた“バラ色の21世紀”が、ついに来ないままに、夢のままに終わってしまったからでもあるだろうが、実はその“モダン”の中に、最初から隠し味としての“ノスタルジア”が加わっていたせいもありはしないか。展示されていなかったのが残念だが、岩崎書店“エスエフ世界の名作”シリーズの『27世紀の発明王』(『ラルフ124C41+』)など、初めて読んだ小学生時代、すでにレトロだった未来図 に、真鍋博の絵が極めて見事にマッチしていたのである。

 アニメもビデオ上映している。『潜水艦カシオペア』『時間』の二本を見たが、さしもの才人も映像では時代の制約が強すぎるかな、という感じ。とはいえ、そのセンスのシャープさは凄いと思ったが。最後に、廊下にある年譜を見る。これだけの仕事量、仕事範囲、仕事の質を誇りながら、わずか68歳でこの人は世を去っているのだな、と思うと、いささか胸苦しさを覚える。私の父も、母方の祖母もそれくらいの年齢で倒れ、死んでいる。私もたぶん、それくらいの寿命だろう。残り時間は極めて少ないことを肝に銘じなければ。いや、それ以上の命数を自分に求めること自体、不遜 なことなのではないかと考える。

 パンフとCD買って、中央線で新宿まで、買い物数点してタクシーで渋谷。12時半、昼飯。オニギリ。コンカサバの。東急ハンズで買い物、整理箱、コピー用紙、うわの空の宮垣くんの誕生祝い用品などなど。自宅第三書庫で今日のロフトで配布する チラシをコピー。

 5時半にまたタクシー使って新宿。ロフトプラスワンに。今日はなにしろ相手がヘビー級故に(体重ばかりじゃない)、何か腹に入れておかねばならんだろう、と、角の立ち食いソバ屋でラーメン一杯啜り(いや、いかにも屋台のラーメンという感じのものであった)、楽屋へ6時きっかりに入る。早すぎて誰も来てない。

 しばらく憮然として楽屋で待つうちに村木さん、奈緒美さん、ツチダマ、おぐり、島さん、それにみずしなさんと続々うわの空出演陣入る。みずしなさんは日記で締切がかなり迫っていると読んでいるので、来てくれたのにやや感動してしまう。来ても数名、と思っていたが、なんでも今日は別の仕事のある尾針ちゃん以外、ほぼ全員が(ティーチャ先生やパンパンの八幡さん、タッタタのキクチさんまで)揃うというのに、改めてここの劇団のつながりの凄さを思う。高橋奈緒美さん、今日はビシッと決めた和装。おぐりは衣装を持ってきて見につけたが、私服の方が派手じゃん、と言われていろいろ迷っていた。小林三十朗さんは今日はローリングストーンズのTシャツで、みんなから“なんだ、まともじゃない”とツツかれて(『てやんでい』の舞台で来ていた私物のTシャツが変梃なものばかりだったので)いた。海谷さんも来て、年 齢の話。私より四つも若いのだな、このおじさんが。

 さて打ち合わせを、と思うが、いつもきちんと現場を仕切っているロフトの斉藤さんがなかなか来ないのにちょっとジレる。問い合わせたら、何か事故があって開場始まってからになるらしい(これが後でちょっと大きなミスにつながってしまった)。土田さんに物販スペースのことを説明したり、あとおぐりちゃんに、ひとつ決まったお仕事の件を説明したり。彼女自身より座長が喜んでくれていた。客入りは盛況。ほぼ100人近く入ったのでは。笹公人さん、福原鉄平くん、破裂の人形さんなど。ぐれいすさん、佐ト丸さんなど、ミクシィがらみで来てくれた人も多い。開田夫妻はバイキングみたいなツノの生えた飛行帽(?)みたいなもの(ワンフェスで買ったのだ とか)をおぐりにプレゼントしていた。

 日本テレビ『世界一受けたい授業』制作プロダクション・エストのKさんも来てくれる。しゃべっている私を一度みたい、というわけだろう。あと、松竹サービスネットワークのIさんもみえる。桟敷席に。客席を見たらカナビス(宇多まろん)の姿も あり。株主総会だね、こりゃ。

 斉藤さん、結局開演15分前くらいに到着。前説やって、さて村木×唐沢のトークバトル開始。私の前口上の最中に“長いんだよ!”と乱入してきたりして、バトル風な雰囲気充分。さすが伊達に長く口立て芝居の劇団をやってはいない。頭の回転は速いし客をつかむのは上手いし、なにより声がいい。一方の私はネタふり役の強みを活かして話題をひょいひょい変えたり、ツッコミをはぐらかしたりして笑いをとる。あとで来ていた麻草郁さんが“パワープロレスの村木さん対ルチャリブレの唐沢さん”と称していたが、これでは一回足を捕まれれば終わり、である。途中から私もルチャをやめて、徹底してガチンコで行くことにし、攻撃をどんどん入れる。うわの空ではあまりやらない内幕ばなし、小劇場芝居に対する歯に衣着せない話等、会場かなりの盛り上がりになってきたところで、あっと言うまの前半終了。破裂の人形さんがこれも後でメールで“あの調子で後半もやったら伝説になったかも”と感想。ただし、それでは二人とも息が上がってしまったろう。休み時間に、うわの空ライブの前売りチケットを劇団若手と土田、おぐりが売り出していたが、何か凄い行列が出来ていた。

 後半はこのあいだの『てやんでい』の楽屋裏ビデオ(司会はもちろんおぐりゆか)を流す。尾針恵が出演者全員に正坐させてダメ出しをしているという大笑いなもの。特に談四楼さんに向かって“そこの落語家! 落語の了見で芝居やってちゃダメなんだよ!”と小言を言うところではひッくり返って大笑い。キクチさんには、何かつけられたセリフを忘れて“こら、タッタタ! 何をタッタタ!”と何回も繰り返すのに苦しくなるほど笑う。そして、その後全員を壇上に上げて、紹介とトーク。みずしなさん入団のいきさつや、小林三十朗が再現フィルムの帝王であることの紹介など(後で土田さんから聞いたが、今度なんと『トリビアの泉』にも出演するとか)。そして全員揃ったところで、あのライブ恒例の勝ち抜きクイズが突然はじまり、いきなりおぐりゆかが壇上でマイクを持って立ち上がって、
「勝ち抜きクイズのお時間で〜す!」
 と始まった。観客、ことに初めておぐりゆかを見た客、『悲しみにてやんでい』のよし子でしかおぐりゆかを知らない客は、ナニゴトガハジマッタカと仰天したのではあるまいか。クイズ自体は準備不足もあり、島さんの芸が見られたくらいが儲けもの といったところだったが、このインパクトはすごかった。

 その後劇団員の皆さんは降りておぐりだけが残り、さて引き続きトーク。村木さんも前半トバしすぎてバテてきたっぽいが、おぐりが助っ人に入って元気回復、あっと言う間に2対1のハンディキャップマッチと相成った。この二人のコンビが相手ではかなうものでなし、逃げ回るのに精一杯。村木さん、手品師がシルクハットからいろんなものを取り出してくるように、おぐりからいろんなネタを引っぱりだす。サイを架空の動物と思っていた話、上野の桜の名所を自分が初めて見つけたみたいに自慢した話、そして『ドラゴンボール』のクリリンの死ぬ話をすると必ず泣き出すという、“実験”。前に虎の子でも見せてもらった芸だが、いきなり目にいっぱい涙をためて
「だってクリリンはもう生き返れないのに、それなのに悟空を助けて……」
 と泣き出すと、会場の男性ども、もうダメ、という感じで悩殺。で、凄いのはちゃんと泣かせてみせるだけでなく、“オチのついたコント”になっているんである。

 そうやってさんざ観客をおぐり萌えにしたあと、いよいよ座長秘蔵の“おぐりゆか出演のオレオのCM”映像、の上映になるのだが、ここでアクシデント。ロフト備え付けのDVDデッキが、土田さんが用意してきたDVDに反応しない! もう少し早めに斉藤さんが店入りして、映像の確認が出来ていれば対応も出来たと思うのだが、間が悪いときというのは仕方ない。まことに残念ながら、おぐりお宝映像は次回までのお楽しみになる。まあ、しかしここまででおぐりゆかの凄さは十二分、十三分に客には理解できたろう。このCMでおぐりを抜擢起用したディレクターが……というのも、何か私にはうなづけた。そういう危険な感性の持ち主がハマるような、そういうキャラクターなのであろう、この子というのは。午前中に思ったこととの偶然の相関に、ちょっとこちらも背中にヒヤリとしたものを感じる。あと、座長と島さんのアメリカン・ホーム・ダイレクトの録画も次回まわし。これ、朗読ライブでかけるか?

 ここらで時間、10時。最後のまとめ、という感じで雑談に戻り、眼帯フェチばなし、村木さんには一切変態性がないという話、デートのときに見る芝居としてうわの空を売ったらどうかという話、などをして残り30分、いい具合な感じにまとめる。“いい具合”と言ったが、話が収斂を欠いたグズグズっぽいものになったことに、村木さんは不満だったかも。私としては、前半あれだけドッカンドッカン笑わせると、トークの客というのは観劇の客と違って構えてないからクタビレ果てており、後半の グズグズは予定のうち、なのだが。

 ともかくも次回またやりましょうね、と約束してお開き。今回のバトル、相手のパワー攻撃にたじたじとなりながらも、何とか地の利と老かいなインサイドワークを駆使して時間切れ引き分けに持ち込んだ、ニック・ボックウィンクルみたいな仕儀ではあった。次回への課題は、今度は語るテーマを絞って、お互いの話の噛み合わせの面白さを目指すということと、力の配分、ということになるだろう。みずしなさんが、“楽屋で原稿のネームをやろうとしたけど、話に聞き入ってしまって出来なかった”と、悲愴な表情で言っていた。みずしなさんは明日の朝9時までに原稿を印刷所に渡さないといけないのである。

 お客さんたち(IPPANさんや談之助さん、麻草郁さん、銀河出版のIくんなどなど)に挨拶。サインもいくつか求められる。中で名刺を渡してきた人がいて、これが『ぴあ』の副編集長、という人。何かと思ったら、原稿依頼だった。ロフトのトークにいろんなお客が来るが、原稿依頼目当てで来てくれたのはこの人が初めて。少し端っこの椅子でお仕事ばなし。『はみだし天国』を今度再刊するのだが、それについて、70年代末の『ぴあ』と“はみだしYOUとPIA”のことを話してほしい、とのこと。出来れば明日か明後日に、というやたらタイトなスケジュールではあるが、 話だけなら、と了承。月曜に連絡取り合うことに。

 その後、主要メンバー、それから開田夫妻、談之助さんなどと打ち上げへ。人数が多いので『炙屋』となる。今日の反省、今後の計画、あれがこれが、と話題はつきない。島さんがメニューの黒豚系のものをやたら頼みまくっていたのが笑えた。さて、次は朗読ライブの準備を始めなくては。話は尽きなかったが、打ち上げに入ったのがすでに11時、村木さんたちうわの空のメンバーはほとんどが最終12時までには店を出なければいけない。あわただしく挨拶して。残った宮垣雄樹くんを開田さんと私で囲むようにしていろいろ話す。実はいろいろ、この人についても企画を立てているのだけれど。彼は中野に住んでいるというので、最後はみんなでタクシー相乗り、車中でわけのわからん気炎を上げる。1時半帰宅。楽しかったがドッと疲れが出た。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa