裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

14日

火曜日

アホでマヌケな中山仁

 牧コーチは何にもわかっていないのよ!(椿麻里・談) 朝6時半起床、メールをチェックして“うん?”と思う。昨晩書いたミクシィの文面に、当の本人(昨日、裏切られたと嘆いた人物)から、“何かあったんですか?”と、やけにイノセントな文面のメッセージが届いていた。もし、彼が当事者として思い当たるところあれば、ここまで知らん顔の半兵衛的な文面のメールはよこさないのではないか。すぐ返事を出すのはちょっとためらわれたが、しかし、どうもこの件、昨日の電話で聞いた状況では収まらない、別の裏事情があるのではないか? という思いが急にわいてくる。

 入浴して7時半に朝食、レタス、カボチャ。気分やや、回復。麻黄附子細辛湯のんで気を奮い立たせて仕事場に出発。15分のバス。放送センター前で降りてコンビニ に寄り、納豆を買っていく。体がエネルギーを欲している感じ。

 今日中の締切原稿4本。うち一本はすで締切が過ぎている。落ち込んでいる間にやらねば、と書き始めたあたりで電話、とってみるとやはり、今朝のメッセージの主。何ですか、昨日の日記はとやはりイノセントに質問するんで、アンタから聞いた例の件、まったくの嘘で最初から白紙の状態だそうじゃないか、と言って様子をうかがうと、向こうで、心底驚いた声で“ええーっ”と叫んだ。その声を聞いたとたん、これまで了解していた状況が回り舞台のようにぐるり、と回転して、まったく新しい状況 が一気に頭の中に描き出されてきた気がした。

 急いでこれまでの状況を説明、こちらの把握している件と向こうの了解している件を突き合わせ、いろいろ分析する。現場の状態を聞いて、ア、これは向こう(会社サイド)の言っていることに、どこか言を二重にしているところがある、と納得する。電話口の声も興奮状態であったが、とりあえず、こっちも頭冷やしていろいろと情報収集してみよう、と提案して、とにもかくにも電話を切る。これは悪いが締切どころではなくなってきた。今日は一日、この確認でつぶれるなこりゃ、とつぶやく。とりあえず、オニギリ(高菜)を茶碗に入れて箸でくずし、その上にかき回した納豆をか けてかき込む。

 Yくんにメール、そしたら入れ違いのように、会社からメール。こちらに追っかぶせるかのように“何もない”“何も動けていない”“最初から何もない”と何度も繰り返している。かえって怪しいとしか思えず。昨日の電話で会社側は“情報が錯綜している”と弁明していた。“最初から何もない”のに、どうして情報が錯綜するのであろうか。錯綜するからには、さまざまな案件が社内で飛び交っていないといけない 筈ではないか。

 いろいろ情報、集まってくる。が、さすがにこんなことばっかりもしていられず。3時、東武ホテルロビーで待ち合わせ人拾って、時間割に。ぴあYさんとライターさん。『はみだしYOUとPIA』の書籍版『はみだし天国』(イラストが中島らも、というあたり泣ける)復刻にあたり、巻頭インタビューを受ける。スイッチ切り替えていつもの私的なノスタルばなしを気持ちよく一時間ほどしゃべる。このおかげで、 やっと気分が通常に戻ってきた。

 帰宅、Yくんからメール返事。彼もいろいろ情報収集、あまりに食い違うので、何過『藪の中』みたいだ、ととまどっているらしい。Tからもメール、社内で私が個人的な感情で横車押した、で通そうとされてもいるような感じである。まあ、ここまでコジれればどうとでも言え、であるが。ただ、会社側の言い分がまるきりわからぬというわけではない。いろいろ事情もあるだろう。ただし、そっちの事情だけで通されると非常に迷惑する関係者がいるわけである。Tには会社側からの言質(そもそもの発端となったある人物の名前が、私の方でなく、会社サイドから先に出たものである という言質)をとってもらう。

 こんなことばかりしているわけでなく、他のお仕事関係メールも多々、来ているのである。まず、NHKからは、『BSアニメ夜話』、好評につきすぐに第二シリーズ撮り入るとのことで、スケジュール問い合わせが来た。ちなみに第二シリーズでとりあげる作品は、『ナディア』『ガンダム』『パトレイバー』『ハイジ』。私はまた、 このうちの二本に出演。さて、私が語るのはどれとどれ、でしょう。

 あと、中野貴雄監督からも電話。新企画について、ちょっと相談。来週時間をとって会うことに。さらにダ・ヴィンチSさんから書き下ろし小説のスケジューリングの件、そしてうわの空の土田さんから朗読ライブのスタッフの件。いずれも好きな分野の面白い話で、大いに心浮き立つのだが、いかんせん今日は他のことで頭満杯。よく 考えている余裕ナシ。

 夜8時帰宅。今日は家でS山編集長、みなみさん、najaさんというメンツでお食事会。能登のこうでんさんから送られた栗の渋皮揚げ、先代のあのつさんから送られたエダマメ、隠元、カボチャなどの料理。食べながらいろいろ話すが、心にいくつもかかっている雲はあるくせに、妙に舌先なめらかで、トーク冴え、聞いている一座を笑わせる。このところ、ロフトでのトーク(湯浅監督追悼、対村木藤志郎)が連続して、口が活性化したかと思われる。……と、いうより現実逃避であろう。酒もベル ギービールから日本酒、焼酎とかなり行ってしまう。

 11時ころ、シャワー浴びてベッドに入る。夜中の3時15分ころ、急にすさまじく足が攣って目が覚める。立ち上がって伸ばすと治るのだが、再び横になると、また攣る。しばらく横にはなれないな、これはと、リビングに行き、パソコンいじって時間つぶしをしようとしてメールみたら、どういう偶然か、Yくんから事態のとりあえず現在までの時点での、彼の立場からのまとめメールが届いていた。受信時間を確認 したら、3時12分。ちょっと運命的なものを感じた。

 文面を読んでみると、彼らしい誠実な対応で、今回の騒ぎの根本となった某企画、彼の方である程度背負って、当初の予定を遵守するつもりである、と言明してくれている。この回答を読んで、さて、長い一日が終わった、という思いになった。正確には、最初にその情報を耳にしてひっくり返った13日の13時(また、いかにも縁起の悪そうな日時だ)から丸々38時間ちょっと。いや、シュトルム・ウント・ドランクといった感じの一日半であった。まだいろいろこの先、問題は山積だろうし、結果としてYくんは自らババをつかむようなことになってまことに気の毒だが、それへの協力などはまた別の話。少なくともこれでこのドタバタ騒動に関しては私の中では軟着陸し、解決とまではいかずともカタがついて整理箱に仕舞われる事件となった。ふう、と大きな溜息をつき、某所にとりあえず報告して、再びベッドへ。今度は攣りもせず、安らかな気分で朝までぐっすり眠れた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa