裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

金曜日

この症状の診断が盲腸炎だなど、片腹痛いわ。

 慣用句シリーズ、一応これで打ち止め(一部では人気だったみたいですが)。朝6時50分起き。またひとつ寝床企画浮かんでメモ。ただしこれは具体的なものでなく“この人物をこれに使えば”程度のもの。7時入浴して、半に朝食。今日から母の棟に坂部家の人々が泊まっていて食堂が込むので、朝食は私一人でとり、あとでポター ジュだけK子に運ぶ。

 8時20分、バスで通勤。朝のバスは老人が多いが、老人たちは耳が遠いのでひそひそばなしというものが出来ない。大声で話す。自分の亭主が寝たきりになり、週に三回透析を受けに連れていくのだが男というのはわがままでこれをいやがる、娘も私もその日は一日それにかかりきりでくたびれはてる、というような話を楽しげにしているというのが凄い。なまじ強い自立意識を持ち、世の理不尽や不合理に正面から立ち向かおうという意志を持っている人ほど、こういう、本当にどうしようもない運命には弱い。ガックリして何の気力もなくなってしまう。世の中は所詮思い通りには行 かないと割り切っている人の方が結局は強い。

 仕事場に電話。年末の某企画のスタッフになっている人物から。内容はとりとめのない雑談だったが、ちょっと一件、“これはカラサワさんの推挙で”と某人物の名前が出演者に上がっている、と聞いて仰天する。全然聞いてないし、もちろん推挙も推薦も一切していない。どういうことだ? と訊くと、社長がそう言った、とのこと。アア、と思い当たったのは、その人にある仕事をお願いしていて、その仕事の件を、以前社長に雑談に交えて話していたのだった。で、そのある仕事と、今回の企画の、タイトルがかなり似ているし、主要客層もほぼ、重なる。それで、私の出したその名前を、社長が私の推薦と思って会社で出したのではあるまいか、と推理。私としてはその人と仕事をする機会が増えるのは嬉しいが、しかし、もしそれで勝手に話がどんどん進んでいって、最終的にスケジュールが合わない、などとなると困る。出来ればその件を社長に確認してからにしたかったが、金曜となるとちょっとつかまらない。

 昼2時、オニギリダイエット。コンカサバが具。2時半、時間割で廣済堂出版Iくんと『B級裏モノ探偵団』文庫化の件で打ち合わせ。遅れている単行本の件もあわせて打ち合わせ。終えて帰宅。と学会新入会員推薦の件でちょっといろいろ。他にもと学会MLでは、開田裕治さんの原画が盗まれた件につき、いろいろやりとり。昨日、開田夫妻から詳細を聞いたが、犯人なる人物がなんと義足であったという。あやさんが“わかりやすいアニメのキャラ設定みたいだ!”と言う。私はベルナルド・ベルトルッチの“悪人はどこか欠損した部分を持っている”という論を思い出す。だから、ベルトルッチは『ラスト・エンペラー』で甘粕正彦(坂本龍一)を、片腕として描い たのである。

 京都の山田誠二さんから、新作ビデオのプロットがメールされる。『新怪談裸女大虐殺・化け猫魔界少女拳』というタイトルが凄い。私はこの中で、化け猫なんてこの 世にいるんだろうか、という主人公たちに、
「いやいや、世の中には猫が化けることで古来、多くの伝説がある」
 と化け猫ウンチクばなしをする男の役で出演する予定なのである。ちなみに私の役名は“唐沢俊一”。

 のざわよしのりくんから試写に誘われていたのだが、扶桑社の打ち上げあるので行けず、残念。どうもこのごろのざわくんのお誘いには不義理をしている。7時半に家を出て、タクシー。伊勢丹近辺の会場なので、30分あれば楽勝と思っていたが、考えてみればゴットー日の金曜。込むわ込むわで、15分ほど到着が遅れてしまう。新宿三丁目の居酒屋『鼎』。魚中心の店で、刺身やなめろうが主だが、エビフライやカニクリームコロッケといった大衆的な品も揃っているという店。植木不等式氏、立川談之助氏、担当Yくんと企画者のTくん、揃って乾杯。実は今日は植木さんの誕生日 でもあるというので合わせて乾杯。

 植木さんと魚の名前の読み方でちょっと駄洒落言い合ったり、落語の中の駄洒落について談之助さんと論じあったり。ついでに(いや、ついでどころか大事な話なのであるが)Yくんから、次の扶桑社刊行物の企画について提案。私がこないだ出した企画案もその中にある。少し植木さんなどから意見あり。話しながら料理パクつく。なるほど、繁盛しているだけあってうまい。各種刺身の他、松茸天ぷら、鰺の寿司、それから“極上・極上馬刺”と極上が自乗で書かれていた馬刺。その上にマッチ棒みたいに細く切って出された脂身(タテガミ)がある。これを舌の上に乗せると、とろりと溶けて甘味が口中にじんわり広がり、私と植木さんの目の色が変わった。酒は小鶴の水割り、さんざ飲んだあと、“蕎麦食いに行きましょう”と出て、二丁目のソバ屋(へぎそばではない)。ここでも焼酎の蕎麦湯割を飲みつつ、割子蕎麦の9段重ねというやつを啜り込む。1時半、ますますゲイの人たちでにぎわう週末の二丁目を後にして、談之助さんと相乗りでタクシーで帰宅。

 K子驚いたことにまだ起きていて、深夜テレビを見ている。なんだと訊いたら、いまNHKで小倉優子が出て歌うのだが、それが凄まじいからまあ見ていなさい、と言う。なるほど、優子りん、歌い、踊りつつ、顔が凄まじいまでに引きつっている。国営放送だから緊張しているのか? ニコリともせず、思いだし思いだしという感じで痛々しく踊る少女に、みんなハアハアしているのか。シャワー浴びて寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa