裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

水曜日

ジュラン・ジュラン

 古代の巨大植物をモチーフにした曲を作るイギリスのロックグループ。……ちなみにDURAN DURANの正しい発音は本当に“ジュラン・ジュラン”だそうであります。朝4時起き。読書などして5時再寝。どこかの公演会場で、制止しても怒っても勝手に歌を歌い出したりして迷惑な女の客を、怒り心頭に発してひっぱたく夢。そこでパン、という大きな音にハッと目を覚ました。寝ていた枕をひっぱたいていたのである。夢を見るときのレム睡眠時には体は動かないはずなのだが、これはたぶんノンレムからレムへの切り替わりのときに痙攣的に腕が動いて枕をパン、とひっぱたき、その音に目覚める、ホンの一瞬のレム睡眠の間に、ながながとした記憶の夢を見 たのではないか、などと考える。正しいかどうか知らない。

 7時入浴、7時半朝食。田代まさし、バタフライナイフ所持で取り調べを受けたところ、連れの女性が大麻を持っており、それが田代まさしのものだと認めたため逮捕とのニュース。笑う。さすが、とすら思う。ここまでくると、もうこの人物に通俗な道徳観念とか遵法精神とかを求める気も起きなくなってしまう。あとはどこまでこの先、見世物としてわれわれの前に姿を表してくれるかを期待するだけである。友人たちも声を揃えて批判というが、これはタテマエであって、人間というものがわかっている人なら、誰も田代まさしを憎んだりはすまい。人は、自分よりダメな人間の姿を眼前に見ると、何故か心がやすらぐ生き物なのである。“ああ、自分が世の中の最低レベルではなかったぞよ”と安心するのである。だから芸能スキャンダルニュースは 永劫に人気があるのである。昔、中学時代の社会科の先生が、
「100点をとれるようになれ。でなければ0点をとれ。20点とか25点を取るくらいなら0点の方がずっといい。20点しか取れないのは勉強しないからだ。しかし勉強を一切しなくても0点というのはなかなかとれるものではない。0点をとれるというのは、これは一種の“才能”だ」
 と言った。田代まさしは、芸能界でも滅多にないダメの大才能の持ち主であろう。

 小泉総理大臣国連演説で常任理事国入り訴え。やじうまワイドで勝谷誠彦がこの発言をアメリカ追随の恥を世界にさらした、と罵倒、小泉ポチ、と表現。世の中というのはいばってソックリかえっているだけで生きてはいけないところなのだ、ということがタレントとか学者とか言う人にはわからない。なぜなら彼らは、自分がいばってソックリかえっているのに食えているからである。以前、伯父が絵画サギにひっかか り、弁護士事務所に相談に行ったとき、私もつきそったが、弁護士の先生が、
「タレントさんと学者さんくらい、騙しやすい人種はいないんです。相手が頭を下げて自分にお金を儲けさせてくれるってことに、何の不思議も感じない人たちなんですから」
 と笑って言っていた。まあ、日本がプライドを持ってソックリかえる国家になるのも面白い見物かもしれないが、海千山千の国際ゴロどもにいいように手玉にとられるのがオチだと思うがね。ただし、私は日本の国連常任理事国入りは、別にわざわざ頭下げてまでせんでもなこと、と思っているけれど。

 8時15分、タクシーで出勤、ケイズファクトリー『漢字天国』原稿4枚書く。書き上げて10時43分、編集部S嬢にメール。すぐに家を出て、時間割へ、と思っていたところに『創』K嬢から電話。いま、時間割の前にいますが、まだ店が開いてい ないんです、とのこと。急遽東武ホテルレストランに場所を変更。

 岡田さん、K嬢、S編集長と顔を合わせて『オタク清談』対談。しかしSさんもこんなところで私や岡田斗司夫の話を聞いていていいのか。宅間守の死刑執行に田代まさしの逮捕である。のんびりなどしていられない状況なのではないか(そういう状況から逃避しているのかも知れず)。田代について聞いたらさすがに顔をしかめて
「あの状態でまだやるかねえ」
 と言っていた。対談についてはオタク夜話のこと、批評のありかた、立ち位置の問題などにまで及ぶ。異様にマジメですな、今回のわれわれ。明日までにテープ起こしして送りますから、という凄まじいスケジュール。Kさん死なないか。

 対談終わり、S編集長とKさんは帰るが、われわれはまだ少し残っていろいろ雑談する。対人感覚というものが岡田さんと私というのはまったく異なるので、実に面白い。1時半、別れて帰宅、ゲラに赤入れしながらオニギリを食べる。鶏おこわ飯。3時、時間割に。今度は開いてた。廣済堂出版Iくん。さっき赤入れをした『B級裏モノ探偵団』ゲラと、書き下ろした文庫版後書き。廣済堂文庫用である。いろいろと先の話をする。何か最近、体の内部から活気が湧いて出ている。聞くとなかなか結構のようだが、こういうときは先の企画とか計画とかが面白くておもしろくて、眼前の仕事にかかる気がなくなってしまうのが難である。足元はきちんと固めた上で未来を見 ないと。

 4時半、新宿へ出る。談話室滝沢にてうわの空の土田真巳さんとパイデザ平塚くんの打ち合わせ。うわの空が同人誌(小冊子)を出すので、パイデザを紹介したのである。内容、ページ数などの話から値段設定、売る場、置いておく場の話にまでなる。コミケ売り切りというのなら話は別だが、同人誌を(しかも定期的にという計画で)出すというのは、やはり総合的な“事業”なのだな、という感じ。土田さんは意外にも(まあ、あれだけ絵が描けるのだから当然か)昔、同人少女だったという経験を持 つので、飲み込みは早い。

 途中でおぐりゆかも合流。同人誌打ち合わせが終わったところで、引き続き『鈴木タイムラー』打ち合わせにかかる。コーナーの流れを説明、撮影日のこと、スタジオのこと、台本のこと、衣装のこと、プロフィールのこと、などについて。ギャラのことも。……しかし、土曜早朝番組のワンコーナーの出演でこんなに決めることがあるんだから、GTの番組のレギュラーなどが決まった際のメンドくささというのは言語に絶するんだろうな(トリビアは私はネタだし裏方なので楽なのだが)。とはいえ、たとえこんな時間帯のこんな小さなコーナーでも、“地上波でレギュラー持ったことがある”という経歴はあとで次の仕事のプロフィールに書くとき、なかなか威力を発揮する。オノプロ時代、トゥナイト出演などに占いタレントたちが目の色を変えていたのもわかるのである。なにがさて、まず一つ形になった。次は島優子さんとの朗読を形にする作業にかからないと。

 ところで、私はどちらかというと東口の滝沢は二階に上がる別館の方(通称ベッタキ)をよく利用するのだが、今回地下の方を使ったのは、滝沢が初めてという彼女らに“変な方の”滝沢を見せてあげたかった(見せて驚かせたかった)からである。案の定、その独特の雰囲気にアッケにとられていたようで、満足。地下なのにやたら天井が高く、洋風の椅子とテーブルなのに内装は池があって石灯籠があって、という純和風なのが凄い。『007は二度死ぬ』のセットみたいな、カン違いした日本情緒がただよう60年代的キッチュさ。残念なのは最近、店員さんがフツーになってしまったこと。以前はあの異様なまでの応対の丁寧さがまたどうにも奇妙で、
「滝沢の女店員はみな未亡人」
という都市伝説まで生まれたのだが(あれを私が流行らせたと思っている人がいるらしいが、元ネタは『噂の真相』誌である)。

 今日はK子が語学なので、打ち合わせの後、二人を誘って参宮橋『クリクリ』へ。『滝沢』で話したのはお仕事としてきちんと確定したことなのだが、ここから先の話は、昨日の日記に書いたように、“全然決まっていない茫漠とした話なのだが、とりあえず参加の意志やスケジュールなどを頭に入れておいてもらわないとイザ決まったときに困る”という話。あとで“センセイ、あの話は……”と言われて困窮する場合があると思うので、ビールで乾杯したあとの、酒の席での話、としてちょっと伝えておく。本来、村木座長に伝えるべきなのだろうが、最高責任者に最初から伝えると、私の方にやはり言に対する責任がかなり重く生じる。土田さんの口からこんな話デシタ、センセイ酔っぱらっていたんでどこまで信用できるかどうかわかりませんが、と伝えておいて、と言う。オトナの世界というのはまことにもってややこしくめんどく さいものであることよ。

 それでもまあ、伝えたことと、テレ朝の件が本決まりになったことで、で肩の荷がやや、降りた気分になり、あとは楽しく雑談。おぐりちゃんの高校時代の淡い初恋の話などを聞いて爆笑。……いや、破れた初恋の、本来なら涙なしでは、の話で人を爆笑させられるという人もなかなかいません。つくづく『鈴木タイムラー』も、ただ単にアシスタントとして使うのでなく、ある点でこの子に丸投げしてしまう判断が毎回必要だよな、と思う。とった皿、ルンピア、イカ飯、鶏半身、キノコサラダ、最後にクスクス。鶏は恒例、写真に撮って島さんに送る。

 例により少ししゃべりすぎ、説教じみたこと言い過ぎ。私だけ楽しんだ感じ。いかんなあ、年々こういう酔い方になっている。10時くらいに店を出て小田急線で新宿まで行き、二人を見送って渋谷まで帰宅。シャワー浴びて寝る。岡田さんとの会話をいろいろ思い出して、メモつけたり。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa