裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

火曜日

宗教はアハ〜ンだ

 フリーセックス宗教、とか騒がれたところもありました。朝、嫁と話している夢を見る。自分の、ではなく息子の、である。息子の連れてきた嫁はリスみたいな顔の、よく笑う明るい子で私の来ていたシャツ(実際に持っている、ブラック・エクスプロイテーション映画のポスター柄のシャツ)を褒めてくれた。5時半に起床、ネット少し。7時に入浴、半に食事と変わらぬパターン。カボチャ、アスパラガスのポタ。

 8時15分のバス。いつものルートで乗ってくるお姉さんに美女が多い。キャリアウーマン系、ギャル系、お水系、カルチャーレディ系、韓流系とパターンの違う美人を毎朝観賞できる。仕事場に到着、昨日の鈴木くんの整理のおかげで、床に散らばる モノをよけずとも普通に歩けるのが嬉しい。

 白夜書房からいただいたお仕事につき、本日打ち合わせの予定だったが、どうしてもその時間を捻出できなくなり、当日ドタキャンではあるが、明日に変更のお願いをメールする。申し訳なし。竹書房用の怪談雑学ネタ50本、今日じゅうに出さねばならない。書庫から資料を抱えて持ち出し、ガリガリとやる。昼飯のオニギリ囓りなが ら書いて、どうにか1時ころまでに半数の25本上げてメールする。

 それからタクシー飛び乗り、新宿御苑まで。今日はうわの空の舞台を観に、大阪から講釈師の旭堂南湖さんが上京してくれる。月末の会のお誘いも受けていたのだが、この公演の最終日とカチあい、いけなくてまことに申し訳ないので、せめてご祝儀な りと手渡しておきたいと思ったのである。

 受付に行くと、坊主頭の巨漢が電話をかけていた。南湖さんも坊主頭だが体格が違 いすぎる。受付でスタッフと話していたら、その巨漢が振り向いて、
「や、どうもどうも、カラサワさん」
 とニコニコと微笑みつつ挨拶してきた。なんと、長野のヒコクこと木下さん。昨日の晩、K子から“花火の日程が決まったので、メンバーを集めないと”と言われていたばかり。西手新九郎もいいとこで大仰天する。なんでここにいるんです、と訊くと
「ほら、談四楼師匠が出てるから」
 と。昨日、談志・三枝二人会のために上京し、今日、この舞台を観て長野へ帰るという。へえそれはまた意外なところで接点が、と話していたら、客席の方から声を聞きつけたか、南湖さんも出てきてくれた。会に行けないことを詫びて、ご祝儀のみ、 遠慮するのをムリに受け取ってもらう。

 楽屋で談四楼師匠と木下さんのことを話そうと入ったら、いきなり、おぐりゆかが片目に大きなガーゼをあてているのを見て仰天する。このあいだは腕だったが、いろいろ説明に苦労する事情で今度は目を痛めたのだとか。みずしなさんが“今日のよし子は目が赤いよし子です”と。ちょうどカバンの中に、昨日の部屋整理で出てきた猫の小さい置物があったので、“そうかそうか、お見舞いをやろう”と手渡すが、そこまでが限度であわてて目をそらしてしまう。ダメだ、ツボだ。……カミングアウトすると、私は“女の子が片目をふさいでいるフェチ”なのである。眼帯であれ包帯であれ、仮面であれ、片目がふさがれている状態に萌え、なのである(だから宝塚の和央ようかの『ファントム』にはアテられて、すぐビデオを買って繰り返し見ている。ただし実写でないとダメ。アニメでは全然心動かない)。このままだと、恋に落ちてしまいそうで(誤解なきように付け加えると、おぐりゆかに恋をするのではない。“片目をガーゼでふさいでいるおぐりゆか”に恋をするのである。凄い状況限定恋愛)、あわてて談四楼師匠と、清内路の花火の話などしてその場のお茶を濁し、ソソクサと 客席に。

 南湖さんの隣に席をとり、いろいろと話す。南湖さんは私がこの日記で、大阪千里の国際児童文化館で紙芝居を閲覧したのを知って、自分も訪れてみて、凄いネタを発掘したそうである。それは是非聞きたい、今度東京で会を開きましょう、と盛り上がる。公演、今日は前に補助席を設けるほどの盛況。観客層が世代を網羅しているような感じ。ふと、反対側の最後列を見ると、村木座長の師匠にあたる高田文夫さんが来ていた。満席状態を師匠に見せることが出来て、村木さんもホッとしているだろう。

 すでにこの『悲しみにてやんでい』観劇も7回目、今日はお席亭が旭丘弥生、神田淡路が日野裕子、とキャスト表にはあったが、席亭が八幡薫、淡路先生は旭丘弥生という以前にも観た配役に変更。重複、三重複の今回のキャスティング中、日野裕子の淡路先生のみ、まだ見ていないのが残念。八幡薫のお席亭は回を重ねるにつれ面白いキャラになっており、楽屋の戸を閉めるたびのくすぐりも可愛い。しかし、この人の目というのはどういうツクリになっているのかな、と思うくらい、瞳の位置がハッキリしない。厚い睫のカーテンに隠されて、目を全開に見開いたときですら、視線が判然としないのである。まさに“八幡の藪知らず”。この独特の顔の造作は女優として武器だよなあ、と思う。彼女の日記サイトがあるが、そこにある似顔のイラストも、 この目を強調しております。
http://yahata.seesaa.net/

 南湖さんは“最上級の土下座”、“座長のペギラ”、“火の鳥の生き血”というようなツボ々々のギャグに大きく笑っていて、まず誘った張本人としてホッ。ときおり高田文夫氏の方にも目をやる。こっちも笑っている。手塚治虫はディズニーの『バンビ』が有楽町のスバル座で封切りされたとき(昭和24年)、近くのホテルに泊まり込んで、毎日毎日、朝の第一回から最終回までの前売券を買って一日中、熱中しながらスクリーンを見つめ続け、しまいに、全てのセリフや動きを記憶してしまうと、今度は最前列から後ろの観客席の方をながめ、客がギャグで笑う様子などをチェックしていたというが、何度も観ていると、確かに観客の反応の方に興味がわくもの。

 ハネ後、木下さん、南湖さんに挨拶。もうおひと方、“議長、日記見て来ました”と声をかけてくれた方あり。楽屋に行き、座長と奈緒美さんとちょっと話す。おぐりちゃんも入ってくるが、もうガーゼはとっているので、今度は冷静に話が出来る(何なんだ、私は)。彼女と村木座長の暮の二人ライブが非常に楽しみ。今回の公演で、彼女がちょっと出番が少なかったので、その埋め合わせなのだろう。フォーハンド・ライブになるようだが。ところで今日は舞台が大変にテンポよく進行したが、座長曰 く、これは小林三十朗の予備八のリードによるものだ、と。

 劇団四季みたいなところは知らず、小劇団で一ヶ月通しの舞台を打つなどというのは冒険というより暴挙ではないか、などと思っていたのだが、後半になってのこの盛り上がりはまさにウェーブが来ている感じ。演者・スタッフ等各メンバーの日記を読んでも、もう一ヶ月立ってしまうのか、もう終わってしまうのかというものが多い。終わったあと、ロングラン公演ロス症候群になるんじゃないか、とちょっと心配になるほど。それにしても、こういう充実した夏を持てた座員たちが、うらやましい。実 に。挨拶して辞去。
http://www.uwanosora.com/

 新宿まで地下鉄で出る。キオスクで買い物していたら、“どうも!”と声をかけられる。見ると、松竹サービスネットワークの石川さん。まさかこんなところで偶然に出会うとは。ライブ会場の件など、いくつか打ち合わせ出来たのがありがたい。

 帰宅、パソコンに向かい、また25本、ネタ出しをする。編集Nさんからはネタ、イケてます、とのメールが来ているので熱も入る。K子が仕事場から来て、早く帰ろうとせかすが、ギリギリまでまとめるのにかかってしまう。タクシーで新中野、今日は破裂の人形、S山、鈴木くんがお客さん。鯛のポトフ、豚肉のブラジル風ソテーなど。朝、昼と徹底して食事量を抑えているので、夜の飯がうまくて困る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa