裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

日曜日

尿道部が真紅

 フロドは指輪を求めるつらい旅で血尿が出ました。朝5時半起床、シャワーを浴びる。ゆうべはやたら早く寝たので3時頃から間歇的に目を覚ましていたが、昨日まで寝室の灯りがやたら気になっていたのが、今日はあまり気にならない。雨のせいで、気分が落ち着いているのだろうか。朝食は仕事机で、K子が買ってきたサンドイッチですます。雨、かなりしげし。昨日の飲み会で、今年のコミケは暑い、という話が出 たとき、K子がいきなり“明日は涼しいわよ!”と断言。藤倉さんがふざけて
「K子さまがそう仰るなら涼しいに違いありません」
 と言っていたが、本当に涼しい。寒いくらいだ。

 6時半、家を出る。当初の予定では、地下鉄で東京駅くらいまで行き、そこから車にしようと思っていたのだが、雨がかなり強いので、K子に“最初からタクシーにするか?”と訊いたら、そうする、と許可おりる。途中のコンビニで飲み物等購入、つ いでに昨日出せなかったSFマガジン図版宅急便で。

 タクシーで高速使い、いざ出陣。とはいえ、もうコミケもすっかりベテランで、荷物類は全て搬送済み、それほど重装備というわけでもなく、軽装でひょいひょいと出かけるというのは、ハレの日という緊張感に欠ける。それでも、ビックサイト付近に雨の中をゾロゾロ歩く非日常的なオタクたち(おぐりゆか言うところの“同じ格好の人たち”)の姿を見ると、やはり血が沸き立つ。

 手伝いの片瀬くんとも無事合流、東地区Uの指定のブースへ。今回も立川流本家との合体であるが、その隣の石黒直樹氏の歯車党ブースはすでに設営中であった。と学会ブース、氷川竜介さんのブース、今回初めてコミケ出展のなをきのブースなどなどを回って挨拶。こちらのブースには畸人研究の今さんなどが挨拶に来てくれる。今年も大通り沿いの場所なので、目の前にずらりと長大な人気ブースへの行列が。その中に知り合いの顔も(K亀さんとか)チラホラ。こちらは黙々とチラシを挟み込む作業をする。新刊は『トリビアの歪2』とUAライブラリーの『にくしみ』、あと開田さんと共著の『ぶらりオタク旅3』。

 と学会では、身内のご不幸で今回急遽欠席した会長の同人誌の値段がわからずにドタバタしていた。申し継ぎの人がやってきてくれて、ホッと安心。藤倉さんが今日の天候について、“ほら、ワタシの言った通り、K子先生の予言があたった”と嬉しそうに言うと、開田さんが“温度のことなんかいいから、「完売するわよ!」とか予言してくれないかなあ”と。これは大ウケ。

 次回の申し込み用紙を買いに行った帰り、カナビスこと宇多まろんにバッタリ。いつぞやの神保町ではまだ未完成だったタトゥーが完成している。ほほー、綺麗だねーと肩のところやクビの後ろの方を触らせてもらっていたら、
「背中の方まで続いてんですよほぉ。ほらほらぁ」
 と、着ていたタンクトップのシャツをめくりあげて、やや、あぶない際まで肌を露出。そこらを喜んでさわっているとコミケ実行委員がふっ飛んできそうだったので、ちょっと触れたのみで手を引っ込める。残念。彼女が手伝いに来ているブースの本というのが、科学系のやたらハードな内容のもので驚く。チャットで知り合って、手伝 いに来たのだそうな。

 恒例の『夢の中へ』と開幕アナウンスに拍手。評論ブースというのは通例、開場直後はあまり人が寄らず、しばらく時間がしてからポツポツと雨だれのように来て、やがて本降りとなる、という段階を踏むのだが、今年はトリビアも定着したせいか、結構ハナからどんどんとハケていく。値段を抑えたことも、買いやすさを助長しているのだろう。三冊新刊セットで買っていってくれるお客さんが多い。ナンビョーサイトの人たちが作ったナンビョー本も含めて、四冊セットで買っていってくれる人もかなりいる。涼しいので水分補給もあまりせず、しかし汗は普通にかいて揮発していくのでトイレの欲求もなく、ほとんど席を立たずに売り子をつとめる。本を渡し、代金を受け取り、お釣りを渡し、という動作をカラクリ人形のように繰り返す。サインもよく求められるので、ハイハイと書く。行列が出来かかるが、スムーズにその売り作業が進行するので、3人以上にはあまり伸びない。これは理想的な状況では。隣の立川 流本家では相変わらず談之助さんが、達者な呼び込みで客を引きつけている。

 知り合いや担当編集さんなども陣中見舞いに続々と。差し入れをくれる人も多い。くすぐリングスのりえ坊と春咲小紅が来てくれた。小紅ちゃんには“大漁旗おめでとうございます”と、わかる人にだけわかるお祝い。あと、今回一番の大物(?)は、以前渡しがWeb現代で取り上げた、エロマンガ雑誌投稿欄の有名人、三峯徹氏。
「いつぞやは取り上げてくれてありがとうございます。僕もカラサワさんのファンですんでうれしかったです!」
 と言われ、思わず握手を求めてしまった。スケブがあったら例のタッチで描いてもらったところである(次回は用意しておこう)。K子に“あれが三峯さんだ”と言うと、“なんて予想通りの人!”と驚いていた。確かに、“たぶんこういう人だろう” とみんなが想像する、その通りのタイプだな。

 昼飯用のおにぎりなども用意していたのだが、腹もほとんど空かない。朝の食べ残しのサンドイッチを数切れ、もそもそと食べたくらい。1時過ぎにはさしもの奔流もやや、落ち着いてきて、そこらからは、じっくりと内容を読んでいく客が増える。読んで買っていく人はいいが、ためつすがめつ読んで結局買わないヤツというのはやは り、腹が立つ。買う買わないくらい、即決出来るはずだろうが。談之助さんが
「毎年、必ず立ち寄る奥平さんが今年は来ませんねえ。あの人のことだから、危険な 目に会う可能性もかなり高いんで心配だなあ」
 と。そう言えばコミケの定番の、どこで手にいれたやらわからぬ北朝鮮の軍服とかを着て、世にも嬉しそうにアハハハハハ、アハハハハとタイのジャイアントみたいに(『ジャンボーグA対ジャイアント』に登場する戦いの神様が、こんな声で笑いなが ら現れる)やってくる彼の姿がないのが寂しい。

 せっかちなK子がすでに1時半には撤収をはじめ、2時半には会場を後にする。なをきのブースも、早々と完売の札があがっている。片瀬くんにバイト料支払い、さほど並ばずにタクシーで宇田川町まで。雨はすっかり上がった。仕事場の乱脈きわまる散らかり方にK子が呆れていたが、さほど怒られなかったのは、計算した売り上げ結果が、原価や手間代を差し引いても、まず大成功に近い結果だったせいか。タクシーの中では“ぜんぜん把握できてないけど、どれくらい売れたのかね?”“あんまり儲かってないような気がする”みたいな会話をしていたのだが。箱買いでどーん、というようなダイナミックな客が評論にはおらず、地道な小売りで稼いだせいであろう。

 メールをいくつか。休むヒマもなく、5時半、家を出て、打ち上げ会場の東新宿、『幸栄』。着いたら、植木不等式さんと気楽院さんがちょうど店に入ったところだった。ほどなく談之助夫妻、ナンビョーのFさん、藤倉さんはじめと学会の面々も来てにぎやかになる。と学会の会誌の売り上げが最初あまりよくない、去年より100部ほど減かも、とかという景気のよくない話があったのだが、最終的に計算したら、その分は委託の方で売れていたらしく、合計ではややプラスという結果になったそうでまず、めでたい。乾杯の音頭をとって、あとはお定まりのガヤガヤ。藤倉さんが植木さんに例の熊本大OBの、と学会大会レポートの同人誌を見せ、植木さんも感嘆。植木さん“来年はこの筆者の方を記録係としてスカウトしたらどうかしらん”と。

 やがて遅れて到着した開田さん一党の方に場を移し、金沢のSさん、岡さんなどと雑談。開田さんはダイエット中で肉に飢えているのか、“豚骨叩き二人前、いや三人前!”などと叫んでいた。話している最中に拍手、わく。見ると、今年はいないのかと談之助さんと心配していた奥平くんの勇姿が。みな、“おー”と歓声。植木さんともさっきまで“奥平くんフィギュアとか作りたいですねえ”“手に持っているものがアタッチメント式で、いろいろ危ない文書やCDに差し替えられる”“のこのこ人形にしたらいいのではないか”などとヒドイことを話していたばかりだったのだ。

 たっぷり飲み、かつ食ってコミケ疲れを解消させる。〆はいつもは冷麺だが、この店の最近の私のイチオシである、コムタンをみんなに勧める。もっとも、この店にはコムタンというメニューはない。テールスープとライスを頼んで、ライスをぶち込んで食べるのである。岡さんもSさんも“うわ、これは……”と驚きながら口に運んでいた。まだ9時前だが、大満足して解散。シャワー浴び、すこしネットと読書。原稿の準備だけして寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa