裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

土曜日

ミサイル超獣堕落論

 特撮オタネタですいませんねえ。朝6時半起床。入浴して7時半に朝食、いつもと変わりなし。本日もまたうわの空に(飽きないのかこいつは、と日記読んでお思いになるでしょうが)行く予定で、Web現代のYくんを島さんに引き合わせるためなのであるが、時間を間違えて7時半開演、と伝えていたことに気がつく。土曜はソワレで6時開演なのだ。土曜は会社に出ているかどうかわからないので、K子が知ってい た自宅アドレスにメールしてから、タクシー出勤。

 原稿、今日はいつもよりちょっとは進む。快楽亭から電話、こないだ梅田佳声先生 に怒られたそうだ。何のことでかと思ったら、
「師匠! 夫婦の中は大事なものです。ケンカをしたからと言って、ひょいひょいと家を飛び出してはいけません!」
 とのことで、私の8日の日記を読んで、なのであった。
「年寄りのくせにインターネットなんてエ文明の利器を使っちゃいけませン、と固く 叱っておきましたから」
 とのこと。

 土曜は外食の日。チャーリーハウスで香港風パイコー飯を久しぶりに。うまいが、帰宅してから喉が渇いてまいった。このところ毎日昼はオニギリ一ヶで、塩分もあまりとっていないから、たまに外食すると、塩分過剰と体が判断してしまうようになっ たのだろう。

 昨日書いた企画案、ちょっとまた手を入れてメール。さて、今度はどう出るか。馬券を買うような感覚である。それからまた書き下ろし原稿にかかり、四苦八苦十六苦しているうちに、ふと時計を見るとすでに二時半。ギャッと叫ぶ。今日は二時から、日経ホールで松竹サービスネットワークのIさんと、常田富士雄の朗読会に行く予定だったのであった(島さんとのライブの前に、参考にいくつか朗読会を聞いて回ろうという話で)。見事にスッポかしを食わせてしまった。自分の迂闊さに暗澹たる気持 ちになり、仕事の方までそこでストップしてしまう。

 4時半、家を出て新宿御苑。もはやおなじみサンモールスタジオに。入ろうとすると、女性に“あの、カラサワさんですか?”と呼び止められる。私の日記の読者で、やはり読んで、今日うわの空を観に来てくれた人だそうだ。また、その後ろからは植木不等式さんとS山さんの姿も。共に狭くて天井の低い、閉所恐怖症の人だと降りられないような階段を下りて受付へ。無事、Web現代Yくんも来ていた。

 Yくんはこのスタジオ、しょっちゅう来ていたそうで、このマンションの最上階には、実はこのサンモールスタジオのオーナーである、某有名俳優の家があったそうである。今は彼は引っ越してしまっているが、鏡張りの部屋やプールまである、かなり悪趣味な代物で、買い手がつかず、ヌード撮影などのスタジオとして使用されている そうな。一度、見てみたいものである。

 さて、6回目。笑いいっぱいのこの芝居の、冒頭第一発目のギャグがよし子ちゃんの、ちょっぴりブラックな発言なのだが、こないだから新ネタになっている。これで笑うお客と、ちょっと引く真面目なお客がいるのだが、注意していると、私の日記を読んできているという人たちは、ここで大体スポーンと芝居の中に入っていっているようだ。やはり私のファンになるだけのことはあって、あぶないギャグが好きなのだろう。もちろん、さっき出会った女性も大笑いしていて、満足(ここばかりでなく、彼女は本当に、身をよじらんばかりにしてよく笑ってくれていた)。

 江戸家みけの物まねネタは、音だしとのコンビネーションがどんどんうまくなって年輩のお客さんで、最初のうちは本当に出していると思って感心して頭をふっていた人がいた。音楽、電話のベル、ファンファーレ、エレクトリカル・パレードなど、一幕芝居にしてはやたら効果が多い今回の舞台が、これだけスムーズに進んでいけるのは後ろの音響・照明ブース(という程のものでない、単なる“場所”なんだが)に一人で入って、たぶん(振り返って見たわけじゃないが)必死の面もちで操作盤に手を かけている土田真巳さんの功績だろう。

 あとでみずしなさんに聞いたら、座長は今日はマチネが大全開で、ソワレはちょっとバテていた、とのことだが、バテてこれというのはスゴイ。出てきただけで舞台の雰囲気、いや明るさまでがガラリと変わるのである。比喩で言っているのではない。紋寿や松吉が登場すると、そのとき舞台上にいる他の役者たち全員が、“今日はいったいこの座長がどういうことをやるのか”という興味で、全員、座長の方を見る。メイクした白い顔が反射板の作用をして、スポットがあたったような効果になるのである。ウソだろいくらなんでも、とお思いの方もいるだろうが、せまい舞台の小劇場では、よくこういう現象が見られるものでアル。オーラが発散されている、なんてことをよく言うが、それがどういうことか実地に見たければサンモールスタジオに来い、 てなもんである。
http://www.uwanosora.com/

 驚いたのは、途中からミリオンのS井さんが入ってきたこと。昨日、“ティーチャさんの百蔵師匠を観に行きます”と言っていたのを、こんなに早く実行するとは。尤も時間がちょっと遅れて、すでに百蔵師匠の高座が終わって降りてきたあたりであっ た。また一回、来ないといけませんな。

 6回観て、一番好きなシーンは、楽屋に訪ねてきたよし子とブロッコリーの回りを全員がいつの間にか取り囲んでしまうシーン。この時、最初に興味津々、という感じで近づいていく島優子の表情は千両である。あと、まだ照れて距離をとっているふたりを、小春ねえさんがグイ、と近づけてしまうのもいいし、そんなことされてまだ、周囲に気がつかない二人っきり世界の中のよし子とブロッコリーの表情もいい。旭丘弥生の淡路先生の“アアッ、忘れたッ、忘れんぼさんッ”はクセになるかも。

 終わって打ち上げに、植木・S山両氏とYくんを伴って参加させてもらう。みずしなさんが先導してくれるのに恐縮。沖縄料理屋『瓦樹丸』。植木さんは島さんとおぐりちゃんに“海老の人”と呼ばれている。以前『おれんち』で岩海老のでかいのを植木さんが奢ったことから。S山さんはおぐりから“サラリーマンなのに神戸で三万円のステーキを食べた人ですね!”と言われていた。『ぶらりオタク旅』を読んだらしい。うわの空に新人候補が入り、それがかなりの巨漢で、関西出身。“だけど訛りがないねー”“ハイ、矯正しました”などと役者修行しているようである。尾針ちゃんが隣に座ったので、“羊のマネが毎回楽しみ”と言うと、目の前でやってくれる。座 長から厳しい批評も飛んだが。

 植木さんが今日は朝からと学会関係者と集っていたらしく(ちなみにこないだ消失したかと心配していたI矢くんもそこで合流していたよう)、ハイテンションで駄洒落連発。あきれた座長が自分のところの若手座員に“なんでと学会に負けてる。お前ら、もっとしゃべれ!”と命令。それでもこっちの駄洒落ノリが止まらないので、しまいには“駄洒落禁止! 一回駄洒落言ったら三千円の罰金をとる!”と言いだした のには笑った。

 この店は始めてだったが、メニューが豊富で、さすがの植木さんも口にしたことのないもの(沖縄ベーコンの“スーチカー”とか、レバ唐揚げの“チムカツ”とか)があり、おいしい。この前開田さんが来たときは、なかなか注文したものが運ばれて来なかったということだが、今日はそんなこともなし。島さんとおぐりがとにかくテビチをおいしがり、何度もおかわりして、とうとう店員さんに“これでもうないよ”と 言われていた。食い尽くしたか。

 今日も話が面白く、さほど飲んだつもりもないのだが、やはり気がつかないうちにアルコール回っていたのか、それとも何か溜まっていたのか、ヘンなからみ方をおぐりにしてしまう。“島さんや尾針ちゃんは何にも心配ない。心配なのはオマエだよ、もっと役者の欲持って、しっかりやんなさいよ、見ててホント、気が気でないんだよホント”と、素面がらみという一番私の困ったクセが出て、しかもとまらない。島さんがフォローしてくれていたが。植木さんがそれを聞いてニヤニヤしながら
「カラサワさん、おぐりさんに惚れてますね」
 と言う。そりゃ惚れてます、女優のファンだってのは惚れたってこってす、私ゃ3年前、初めてうわの空のお芝居観た日の日記に“おぐりゆかが一番の好演”って書いたんだから、この子が伸びてくれないと、私に女優を見るメがない、てエことになっちゃうんです、となおもグズる。考えてみれば(考えてみなくても)、彼女がいくらがんばったって、それを世に出すのは周囲、それも、今後、うわの空をマスコミにどんどん露出させますから、と海谷さんに宣言した私の責任であったりするんで、こんなところで説教するのはお門違いも甚だしい。あれは、せいぜいこの日記で劇団を褒めるくらいしか出来ない私自身のふがいなさに対する不満の噴出だったのかもしれない。悪いことをした、と大反省。地下鉄で帰宅、新宿で植木・S山両氏と別れたあとも、いろいろとあーでないこーでないと考えつつ、シャワー浴びて寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa