裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

11日

水曜日

胸毛の輝き

 小林三十朗の演技、光ってるねえ(ちなみに“鰻の蒲焼き”のシャレです。わかりにくくてすいません、受けの方も『悲しみにてやんでい』観てないとわからない)。朝6時半に眼が覚めて、ネットなどボツボツやり、7時入浴、半に朝食。ブドウ、ヤキイモ。『キング・コング』のヒロイン、フェイ・レイ死去。96歳。生涯に120本を越す映画やテレビに出演した売れっ子スターだったが、『キング・コング』一本で、たぶん地球上からこの人類文明が消滅する日まで、その名を記憶される伝説の人 となった。
http://www.einsiders.com/features/columns/aug04obituaries.php
↑ここなどを見ると、銀幕上での華やかさと異なり、私生活では三人の夫と全て死別するなど、不幸な人生だったようだが、それゆえに作品の中での彼女は美しく、魅力的である。黄金時代の女優の多くが、私生活のみじめさと反比例してその存在が光り 輝いているのは何故だろう?

 8時15分のバス。路上で、大きなカバンを脇に置いてタクシーをつかまえようとしている夫婦や家族の姿を三、四組も見た。お盆休みが始まったのだな、と思う。道もかなり空いている。仕事場に到着してすぐ、メールいろいろ。講談社を通じて、白夜書房のお仕事が来た。白夜ではもう何度も仕事をしているから、社内で調べればわ かるはずなのだが。

 午前中は企画書一本、書くことに費やす。……ちょっと無謀なものではあるが、時の利、人の利には恵まれているはず。書きながらワクワクしているのが自分でもわかる。昼は昨日・今日と弁当ナシの日なので、買ってきたケンタッキーで済ます。ガツ ガツかぶりつく快感が、執筆のノリと一致して結構。

 書き下ろし本用の原稿も火がついてきたので、中断してそっちの方にかかる。が、2時から打ち合わせがあるのを忘れていた。OTCのIさんから確認の電話あり、うわっとあわてて東武ホテルロビー(時間割は盆休み)。ティールームで打ち合わせする。打ち合わせというより、先日から立てている某企画(上の企画のものとは別個)についての、ちょっと情報集め。いろいろとこちらからも情報を提供したりする。隣の席に、モデルなのかタレントか、かなりイケメンの、ひょろりと背の高い男の子とそのマネージャーとおぼしき中年の女性が座り、カレーライスとステーキランチを注文。彼女がカレーで彼がステーキ、ではなく、まずカレーライスを二人分頼み、それに加えて彼にステーキランチである。若いから食欲があるのは当然として、ほう、こんな注文が出来るのは大手だね、と思う。女性の方は申し訳程度に半分食べたのみ。あっと言う間に食べ終わって男の子の方が、行儀悪くそっくり返って伸びをしたら、ひきしまった腹のヘソとパンツが丸見えになった。マネージャーならもっときちんと 仕付けた方がよろしい。

 Iさんにいろいろ企画提出のレクチャー受ける。まだ全然具体的になっているものではないが、そこの業界の現状についてはだいたい、理解できて、企画の持って行きように関し、ナルホドそういう風にするのか、とかなり参考になった。雑談もいろいろ。進行中の某企画(これまたこの企画とも上記の企画とも何の関係もない)のことについて、アレはどうなったんですか、そう言えば何にも反応がないネエ、この時期になって連絡ないってことは停滞しちゃってるンですね、そうだろうネエ、てな会話 をして、別れる。

 で、帰ってメールボックスを見たら、ついさっき、何にも反応がない、と話した当のところから、“ほぼ決定です”とのみ、連絡、うひゃっ、とのけぞる。“ほぼ”というところがまだアヤしいが、西手新九郎も極まれり。すぐ、“具体的なことを知りたいので来週あたりに打ち合わせさせてください”とのみメール返信。これがもし、進行するとなると、これまでの企画のスケジュールを大きく変更しないとならない。組み合わせパズルみたいに、あれがこうなるとこうなって……と頭を抱えるが、時刻表すらまともに読めない人間にはムリだと放擲。なんか大変になる、ということのみ 確認。そんなこと確認してどうする。

 書き下ろしにかかったり、頭を冷やそうと資料読んだりするが、脳が混乱して、仕事にならず。寝転がったり、動物園のクマみたいにぶつぶつと口の中でつぶやきながら歩き回ってみたり。しなきゃいけない仕事が山積どころの話でなく、山脈をなして いるのだが、どうにも手につかない。

 9時15分、ついに一字も書けずに放擲して、タクシーに飛び乗り、下北沢へ。母がちょうど店に入るのが見えた。続いて私も入り、K子を待ちながら、ママカリの酢漬けなどでちびちび。彼女が語学終えて来てから、握りを頼む。白身はイサキだというので、あまり期待せずに握って貰ったが、非常においしかった。あとは甘エビ、スズキ、ネギトロなど。日本酒二合、ロックで。あまり飲まなかった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa